高井アナの空言舌語

東海テレビアナウンサー高井一が、正しい日本語の読みや、謂れをご紹介します。

2008/5/16
百三十九、
消耗・耗弱
 刑事裁判のニュースで、「心神耗弱(シンシンコウジャク)」という言葉が登場します。「耗」の字は「消耗(ショウモウ)」にも使われるため、若いアナウンサーから「耗弱」は何故「モウジャク」ではないのか、と聞かれました。私も同じ疑問を持ちながらも、そのように読む法律用語なのだと思っていました。
  調べてみると意外な事実が分かりました。
  辞書によると【「耗」は「コウ」と読むのが本来だが、字の旁(つくり)である「毛」の影響で「モウ」と誤読するのが広まった】とありました。法律の世界では本来の読みを堅持して、あくまでも正しい「コウジャク」の音で読んでいたのです。 
  誤読も定着すると慣用として多くの人が使うようになり、正しい読み方は忘れられてゆきます。「消耗」は誰もが「ショウモウ」と読んでいますから、放送で「ショウコウ」と読むと誤読だと指摘されてしまいます。
  誤読の慣用読みが完全に定着した言葉はよいのですが、定着前の過渡期にある言葉を放送で使う場合は迷ってしまいます。
  実例をあげると「早急(サッキュウ)」を「ソウキュウ」と誤読するのが横行しています。国会議員や役人の発言を聞いても、ほとんど「ソウキュウ」です。この誤読はまさに定着寸前まで来ています。しかし、アナウンサーはあくまで「サッキュウ」と読んでいます。
 「依存」と「現存」。皆さんはどう読みますか。「イゾン」「ゲンゾン」と読む人が多いと思いますが、「イソン」「ゲンソン」と濁らないのが正しい読みです。アナウンサーは「イソン」と読み、「依存症」も「イソンショウ」です。それでも時々「イゾンじゃないのか」と言われることがあります。
 「独擅場」は「ドクセンジョウ」が正しいのですが、「擅(セン)」の字が「壇(ダン)」に似ているので、「ドクダンジョウ」と誤った書き方・読み方が優勢になっています。私は「ドクセンジョウ」と本来の読みをしたいのですが、実際にどれくらいの人が納得してくれるかどうか。誤読定着の流れの中では、正しい読みをするのに勇気が必要になっています。