百七十五、
2009/12/25
全然
今年も言葉のあれこれを考えてきました。年末に強く感じるのは、「全然おいしい」「全然大丈夫」のように、「全然」を肯定表現に使う人が随分増えたことです。
新人の頃に先輩から「全然の後には否定や打消しの言葉しか付かない」と教わりました。「全然分からない」「全然見えない」のように、「全然△△ない」が正しい使い方だと…。
ところがここ数年、「歴史的には、肯定使用も可」という反論が声高になってきました。実際、漱石・鴎外など大文豪の作品にも「全然」の肯定使用があるそうです。
辞書で確認してみると確かに、【俗な用法で、肯定にも使う=全く・非常に】(広辞苑)とあります。【俗な用法】とは、くだけた話し言葉のことです。かつてあった用法が一旦否定され、また復活する経緯は、まさに「言葉は世につれ」だと思わせます。
ただ、「全然」の肯定使用が全くの誤りではなくなったにせよ、使われ方によって違和感・抵抗感が異なるのも事実です。「賞味期限を少し過ぎているけど…」と出された食べ物を口にして「全然大丈夫」。「あまり出来栄えは良くないが…」と写真を見せられて「全然きれい」。これらは、相手の発言・心配を否定する形で使われていて、肯定形ではあっても意味上は「問題なし」という否定なので、強い違和感はありません。
しかし、友人の持ち物を褒めるために「コレ、全然きれい」とか、「この温泉全然熱いね」と、いきなりの肯定形で使われると、どうしても抵抗を感じます。この場合は、「とても」「かなり」など他の最適表現が存在するからです。
来年以降も「全然」の肯定使用をする人は更に増え、「全然OK」「全然ホント」「全然いける」などが当たり前の表現になりそうです。そうすると【俗な用法】だけでなく、公的な発言でも使われるようになってしまうでしょう。ホントにいいのか、と来年も首をひねる回数が増えそうです。