百七十七、
2010/1/22
万端と万全
フジテレビ系列の放送用語の会議に出席しました。放送で使う言葉のハンドブックを改定する作業をしています。改定作業で新たに気づいたことを報告します。
それは「万端」と「万全」の違いです。「準備万端」とか「用意万全」のように使いますが、うっかりすると言葉足らずになってしまう恐れがあるのです。それぞれの意味は、万端=【そのことに関する、あらゆる事柄・手段】。 万全=【すべてに完全で少しの不備もないこと】となっています。
文字を読み解いても、「万端」は「万(よろず=あらゆること)の端々まで」であるのに対し、「万全」は「万のことが完全」ですから、両語は同義語とはいえません。「準備万端」と「用意万全」は同じ意味ではないということです。
今回の会議で確認したのは、「準備万端」だけでは「万全の用意ができた」ことにはならないことです。文字からもわかるように、「準備万端」では意味が「準備は端々まで」で止まっています。「準備が端々まで行き届いている」と言いたければ、「準備は万端+整った」と、「整った」をつけなければ準備が完了したことになりません。「万端整って」、はじめて「用意万全」と同じ意味になるのです。
よく考えれば当り前のことですが、「用意万全」と音の調子がよく似ていることから、「準備万端」だけで準備完了を伝えたと勘違いしがちだったのです。ハンドブック改定版には、その旨を加えることにしました。
こういう論議をしているうちに、これまで中継リポートなどで「すでに準備万端です」「用意万端、出発を待つばかりです」のような言葉足らずな表現をしたことはなかったか、と心配になってきました。
言葉の世界は広くて深い。この仕事に長年携わり相当に分かっているつもりでも、気付いていないことや知らないことがまだ山ほどある。改めて気を引き締める機会になりました。