百九十三、
2010/10/1
粛々(しゅくしゅく)
尖閣諸島での中国漁船衝突事件では、船長の釈放後も緊張が続いています。この事件のニュースでは「日本は粛々と対応していく」という表現を何度も聞きました。政府が「粛々」としか姿勢を語らないので、改めて意味を調べてみました。
広辞苑・大辞林・岩波国語などの解説をまとめると【慎む・静か・厳か】となります。「粛」を使う熟語には「静粛」「厳粛」があります。
この事件での日本の対応は「中国がどんなに騒ごうとも、我国は慌てる事を慎み・冷静を保ち・厳かに国内法にのっとって対応する」ということでしょうか。取り澄ました第三者のコメントのようで、毅然とした姿勢は読み取れません。
もう少し強い意思が込められないものか、「粛々」に代わる言葉を類語辞典であたってみました。物事を進める意味で対応するのは【淡々と・冷静に・落ち着いて・惑わされず・平常心で】などが見つかりました。いずれにしても淡白です。
「粛々」と言えば、政治家はこの言葉を好む傾向があります。政治家がいつ頃から「粛々」を使い始めたかは不明ですが、対立する政党や世論の反対・批判を押し切って物事を進める時によく使われる、という印象です。やや難解で強さのない「粛々」で露骨さを和らげながら、批判には耳を貸さず方針を押し通すのに使ってきました。かつては、この言葉がスマートに聞こえた時代があったのでしょう。しかし、今日では言い訳がましく聞こえます。
政治家がよく使う「粛々」と、今回の日本政府の「粛々」。明確な意味が読み取れず、はぐらかすという点で共通しています。しかし、今回の事件で日本の姿勢を表明するのに「粛々」は最適表現だったのでしょうか。
ことは領土問題です。意志や姿勢を明確に表す言葉が必要と思います。外交には駆け引きがあるから、と譲ったとしても、諸外国に翻訳しやすい言葉で世界に発信すべきだったと考えます。曖昧表現は時として相手を傷つけない日本語の美点の一つですが、今回の「粛々」はいただけません。