■ふるさと納税、市町村だけでなく『サイト』の競争も過熱

 名古屋市中区の「和風フレンチレストラン 仁」。

 車エビに、フォアグラ。次々と登場する高級食材。メインの料理は…。

和風フレンチレストラン 仁 渥美仁規オーナーシェフ:
「お待たせしました、こちらが黒田庄の和牛のステーキになります」

 最高の焼き加減で提供される、兵庫県産ブランド和牛のステーキです。

 “シメ”にこのブランド牛の「焼肉丼」までついて、全部で7品のフルコース。

 このディナーも、ふるさと納税の「お礼の品」。ステーキに使う「黒田庄和牛」の産地、兵庫県西脇市に5万円の寄付をすると、名古屋のレストランで2人分の食事がお得に楽しめる、というカラクリです。

 考えたのは、高級レストランの予約サイトなどを運営する会社。サイトを見ると、アワビやジビエなど、各地の食材を使った豪華な料理が並んでいます。

ルクサふるさと納税 林明日美さん:
「返礼品がご自宅に届いて調理するのももちろん素敵なことなんですけれども、一流のシェフに手をかけてもらって、こういう空間で食事できるのがとても魅力的かと思っています」

 さまざまな業種が参戦し、ますます過熱する「ふるさと納税」。

 寄付のほとんどが、インターネットのポータルサイトを通してされていて、その数は東海テレビが数えただけで20近くありました。

 せっかくなら、よりお得なほうがいいという人も多く、サイト同士の競争も激化、2015年にふるさと納税の仲介をスタートした、やや後発組の楽天は、「お買い物感覚」が一番のウリ。

 通販と同じように、寄付すると1%の「楽天スーパーポイント」がつき、ポイントの倍率がアップする「セール」の対象にもなります。

 このほかにも寄付をすると「マイル」が貯まるのがウリの「ANAのふるさと納税」や、家電量販最大手「ヤマダ電機」も、ふるさと納税サイトを運営。ポイントを貯めたり使ったりできるほか、店頭で寄付の手続きをすることもできます。

 ソフトバンク系で、大手の一角、「さとふる」も「寄付の最大10%、100億円分のギフト券を還元する」と謳うキャンペーンをスタートしました。

■“ポイント”は市町村がサイトに支払う“手数料”から

 しかし、寄付とは、そもそも「還元」されるものなのでしょうか、こうした「ポイント」はどこから来ているのでしょうか?

 ふるさと納税を仲介するポータルサイトは市町村と契約を結び、寄付の一定割合を「手数料」などとして受け取っています。

 愛知県内の市町村に届いた請求書を見ると、「ポイント付与料」の名目で、月に30万円あまりを支払っていました。

 ポイントなど、寄付する人を引き付けるサービスに回っているのは、こうして市町村が支払う「手数料」。サイトがお得さを競えば競うほど、市町村が自由に使えるお金が目減りしていることになります。

 東海テレビが独自に行ったアンケートでは、市町村から戸惑いの声も…。

「本来自治体が受ける税が、特定の業者や個人に還元されている」(愛知・弥富市)

「金儲けとして利用されていると感じることもある」(三重・玉城町)

■従業員がサイトで寄付 すると市町村から受け取る手数料の一部を企業に“キックバック”

 さらに、私たちが取材を進める中で、驚くような「ふるさと納税ビジネス」の存在も…

「オフィスでふるさと納税」というサービスのチラシ。「従業員の寄付額の数%を事務手数料として支払う」と書かれています。

「カンタン手続きで、従業員の寄付の数%の手数料を得られてお得!」

社員の寄付の一部が、会社に支払われるサービスのようです。

 チラシに書かれている「オフィスでふるさと納税」の仕組みはこうです。

 ポータルサイト運営会社は、市町村と一般の企業それぞれと契約し、契約した企業は社員に向けたメールなどで特定のサイトを通したふるさと納税をPR。

 社員が寄付すると市町村が手数料を支払いますが、取材によると、これが10%。そして、このうちの数%分が企業に「キックバック」されるそうです。

 企業は、社員にふるさと納税させればさせるほど、もともと、どこかの町に納められるはずだった税金の一部をもらえるということに…。

 これは東海テレビが入手した、この業者が市町村に営業活動をする際の資料。

 「オフィスでふるさと納税」にはメガバンクやゼネコンなど、大手企業も参加しているとうたい、まだふるさと納税が浸透していないサラリーマン層に効果的にアプローチできる、などと訴えています。

 実際に営業を受けた、ある市町村の担当者も「さすがにやりすぎだと思い、契約は見送った」と話しました。

■専門家「税制上大問題。仲介業者のある意味“悪乗り”」

 東海テレビはこのサービスを展開する会社に取材を申し込みました。

ユニメディア新規事業企画室 プロデューサー 小野紘暉さん:
「僕らは自治体様に営業する際に、どうしても後発組なので特色をつけていかなければいけないというところで、『オフィスでふるさと納税』というサービスで、他社と違って一般の会社員の層を大きくシェアをとりにいきますよということです」

「オフィスでふるさと納税」を運営するのは、「ふるさとプレミアム」というサイトを手掛けるインターネットの広告会社。

 去年7月から1年余りで、すでに100社が導入していると胸を張ります。

Q.特定の企業に手数料を戻すことについてどう考えていますか?

ユニメディア・小野氏:「特定の企業に…う~ん...」

(広報担当者が助け舟)「直接税金が流れているわけではない…」

ユニメディア・小野氏:「(広報担当者に)もう1回いいですか?」

Q.契約企業がふるさと納税を取りまとめれば取りまとめるほど、税になるはずのお金が流れていくことについては?

ユニメディア・小野氏:
「僕らが寄付を集めてきたときに、自治体様から広告費として手数料をもらっているということで、税金の中からお金をもらっているというより、自治体様から広告費としていただいている中の一部を、手数料として返しているという状況でございますので、税金をそのまま企業に戻しているという形ではないですと申し上げたい」

 このビジネスに専門家は…。

慶應義塾大学・土居教授:
「税制からすると大問題だと思います。そういう形でふるさと納税にある意味、悪乗りするような形でキックバックするとか、途中でサヤをぬくというのは極力やめたほうがいい」

 慶大の土居教授は「寄付」や「納税」という、そもそもの姿からあまりにもかけ離れていると指摘。

慶大・土居教授:
「勤めている会社と無関係に、税金をはらう納税者本人から寄付先の自治体に対して寄付を行うというのが、ふるさと納税制度のそもそもの話で、別に会社が間に入る必要は全くない。途中で仲介業者がサヤをぬき、さらには自分が勤めている会社がキックバックで一部のお金をもらっているということになると、本当に納税者としてきちんと税金を納めているということになっているのか」

 多くの企業が手数料ビジネスに参入している「ふるさと納税」。

 本来の「寄付」の趣旨はタテマエとなり、自治体側にとっては「どうしてもほしい財源」、納税者にとっては「よりお得に利用したいもの」に。この状況を、一般企業がビジネスチャンスと捉えるのは必然ともいえます。

 一方、「10%」前後の手数料の水準については、土居教授も「新規参入が多いのは十分もうかるからで、高すぎると言わざるを得ない」と指摘しています。