あらすじ

イントロダクション

幸せと不幸せは紙一重。
人間は生きているからこそ考え、前を向こうとあがき続ける。
そう、人間の数だけドラマがあり、
それがハッピーエンドだとは限らない。
これは、観る者の感情をゆさぶる、心がヒリヒリするような、
都会の片隅の物語。

東京・大田区。羽田空港にほど近い、下町とも言える雑多な雰囲気の中、
ぽつんと一軒の古本屋「九十九堂」がある。
漫画を中心に揃え、幅広い世代が訪れる店の主人・九十九さくら(52)は、少し変わった毎日を送っていた。

古本屋の奥には「たまりば」と呼ばれる一室が。
そこには、どこからともなく“行き場を無くした人々”が集まる。
すると、主人のさくらは、深く詮索するでもなく「親子丼」を出す。
相手が誰であろうと無料。
それがうまい。お腹を満たすだけでなく、心まで温めてくれるような…。

空腹が満たされた“行き場のない人”は、
少しずつ、自分のことをさくらに話し始めるのだ。
それをさくらは聞く。ある時は共に涙を流しながら。
「泣きたいときは泣けばいい。落とした涙の粒だけ幸せの花が咲くんだから」
それがさくらの口癖だ。

―今日もまたひとり、ふたりと、
 現代社会からはみ出してしまいそうな人間が、九十九堂を訪れる。

「この子さえいなければ…」と日々悩み続けるシングルマザー。
複雑な家庭環境から摂食障害に悩む女性教諭。
殺人事件を起こし、少年院出所後も「愛」を求めて明るく振舞う少年。
会社で居場所を失った自閉症の男性。
今を生きる人々の、様々な事情、リアルな感情が浮き彫りになっていく。

―そんな中、さくら自身もまた、悲しい過去と向き合うことになる。

さくらが親子丼を無料で振る舞うキッカケになった、16年前の出来事とは。
ある日、九十九堂を訪れた一人の少女・二宮あざみ(17)が、
時計の針を巻き戻していく…。