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真矢ミキさんインタビュー

昨年の秋に放送された前作『さくらの親子丼』は、多感な世代の子どもたちの問題を真摯に描き、評判となりました。オトナの土ドラ枠で初の続編となる『さくらの親子丼2』で再びさくらを熱演する真矢ミキさんに、お話を伺いました。

前作のあと、燃え尽き症候群のようになっていました

昨年放送された「さくらの親子丼」の続編が制作されると決まったときの感想は?
正直、困ったと思いました。前作は身を削るようにして演じたので、撮影が終わったとき、燃え尽き症候群のようになっていたんです。また同じ気持ちを味わうのかと考えたら、「え、もう1回!?」と思ってしまって(笑)。
ただ、いざ撮影に入ると別の作品を撮っているような気持ちです。というのも、今回はさくらが営む古本屋でなく、子どもシェルターが舞台で、キャストも違いますから。避難している子どもたちを演じるメンバー8人も、これだけ人数がいたらどこか個性が重なる部分があると思うんです。でも、そうじゃありません。みんなオーディションで選ばれていて、さすが難関を突破しただけのことがあるな、と感心しています。続編の撮影って、「前と同じ気持ちを作らなきゃ」とつい思いがちですけど、今回はいろいろな面で“鮮度”があり、新作を撮っている気分です。
前作との違いはどんなところでしょうか
前作では、さくらは自分の古本屋で、胸に何か重いものを抱えている子どもたちに親子丼を振る舞っていました。でも今、誰かに助けを求めるための一歩が踏み出せない子どもたちって、実際にもたくさんいると思うんです。さくらは子どもシェルターに出向き、親子丼をはじめ、いろいろな料理を振る舞いますけど、子どもたちはさくらに対して反応しないんです。ぶつかろうとしてくれない。これはさくらにとって、ショックなはずです。自分の手腕が通用しないわけですから。自分の経験値ではどうにもならない。そこで「何て自分は思いあがっていたのだろう」と思うわけです。自分は多少なりとも子どもたちを助けてきたつもりだけれど、すべて間違いだったんじゃないかと。ある意味、自分の活動を全否定されていますよね。
さくらにすれば、衝撃の出来事ですね
「知ったつもりでいたけれど、それは本当にうわべだけだったんだ」と。その奥にこんな深い問題や事情があったのだと私も台本を読んで思いました。

社会全体が関わらないと変わらない

真矢さんがこの作品を通して伝えたいこととは?
社会って、いろいろなところが繋がって成立しているものだと思うんです。さくらは未成年の少女に息子の命を奪われた過去がありながら、非行に走る子どもたちに手を差し伸べてきました。被害者のさくらの行動を通して、「非行に走る子どもだけが悪いの?」と問いかけているような気がします。この作品をご覧いただき、お子さんがいる方なら「うちの子は何か問題を抱えていないか?」と考えていただけたらうれしいですし、「子どもがいないから自分には関係ない」ではなくて、社会全体が関わらないと変わらないんじゃないか、と。大人になりかけている子どもたちの抱える問題って、なかなか光が当たらないことですけど、ドラマだからこそ伝わるものもあると思います。社会として、また大人として何をすべきなのか、この作品が直接訴えるのではなく、見え隠れするようなものになってくれたらいいな、と願っています。
さくらは部外者という立場から子どもシェルターに関わります。前作とは状況が違うことは演じる上で何か影響ありますか?
いままでのさくらは、自分の領域の中でできることをコツコツとやってきました。子どもシェルターという場所を知り、最初は戸惑っていたものの、さくらは自分からこの場所に関わりたいと思い、手伝うことを決意します。そこで、「私は被害者の家族なんだ」という意識が薄れたような気がします。演じていても、さくらはそういう思いと決別したい、という気持ちを抱いていたんじゃないか、と思いました。

馬力をつけないと、子どもたちのパワーに立ち向かえない!

今回はさまざまな問題に悩む子どもたちが8人登場します
撮影初日に、由夏役の岡本(夏美)さんが私のエンジンをかけてくれました。由夏はリーダーというかボスなんですね(笑)。クランクインのときから岡本さんの演技は激しかったですよ。由夏がさくらにぶつかってくる場面で、ものすごい勢いで体当たりしてきたんです。それで思わず、「あったま来た!」という感情が沸いてきました(笑)。
撮影が始まってから、何だか「食べよう!」と思うようになっているんです。お昼にケータリングがあるときは、私が先頭で並んでいるくらい。馬力つけないと子どもたちのパワーに立ち向かえませんから。
現場でも若手の皆さんの様子は?
同じように接していても、全員が全員、リアクションが違います。個性って素敵だなって、みんなを見ているとつくづく思いますし、この現場でもそれぞれの良さ伸ばしてほしいですね。あるとき、詩役の祷(キララ)さんとの場面で、リハーサルの段階で演技が完成し過ぎたことがあったんです。カメラの映り方とか、セリフを言うタイミングとかいろいろ気を付けなくてはいけないことがあったんですけど、本番直前、私は彼女に、「全部忘れて、思うままに演じてみようよ」と提案しました。スタッフさんの「本番!」という掛け声が、自由に翼を伸ばすための合図だと思ってほしくて。
祷さんだけでなく、みんなの自由な演技を見ていると、私の役者としての本能が喜んじゃって。みんなとの場面では、新人のようなまっさらな気持ちで演じています。何か掴みたくて懸命な子たちを前に変なテクニックを出したくないので、それを押さえることを自分に課しています。

さくらの料理が少しでも救いになってくれたら

ところで劇中では、おいしそうな料理がたくさん登場しますね
前作でもスタッフさんが、親子丼に相当こだわってくれました。それを分かった上で、撮影前にプロデューサーさんや監督さんとの打合せで、今回はさらにおいしい料理を出したいです、とお話しました。さくらはシェルターに出向くので、親子丼だけじゃなく、いろいろな料理のバリエーションがあったほうがいいと思って。前作は私もリアルタイムで見ていましたけど、見終わったときのお腹の空きようと言ったら。無性に親子丼が食べたくなったし、とにかく何か食べたくて、何度コンビニに走ろうと思ったことか(笑)。あの衝動を親子丼以外でも出したいですね。冬ですから、お鍋とかおでんとかフワ~って湯気が立ちのぼる料理もいいなと思っていますし、もちろん親子丼もバージョンアップしています。卵は半熟ぎりぎりで、黄身は新鮮なオレンジ色のものを、と。打ち合わせでは料理のことばかり話していたので「何か役のことでリクエストはないですか?」って聞かれちゃいました (笑)。
確かに生きる上で、食べることって大切だと思います
料理は元気の源で、人を励ましてもくれます。誰かの手が加わった一品を食べるだけで、心って温かくなりますよね。人は何かを乗り越えなくてはいけないとき、準備運動じゃないけれど、おいしいものを食べて、さらに人のぬくもりに触れられたら、時間がかかったとしても立ち上がれると思うんです。人は誰にも、自分の周りに背中を押して応援してくれる人がいるはずです。ただこの作品は、そういう人にこれまでめぐり会えてこなかった子どもたちの話。そんな誰かと出会う前のみんなに、さくらの料理が少しでも救いになってくれたらいいですね。
改めて、「さくらの親子丼2」をご覧の皆さんにメッセージをお願いします
さくらはきっと「えらいとこに来ちゃった」と思っているはずです(笑)。8人の子どもが一斉にぶつかってくるわけですから。とはいえ、いろいろな思いを抱えた子どもたちとさくらがどう向き合うのか。その中でさくらの奮闘や子どもたちの成長がどう描かれるのかご覧いただきたいです。さらに温かい心のこもった料理や、優しい味、励ましの味が物語を彩ります。きっとお腹がグ〜って鳴ると思いますが(笑)、視聴者の皆さんの心にも温かい気持ちをたくさんお届けします。