インタビュー

12/25 更新 筒井真理子さん(矢崎絵里子役)

筒井真理子さん(矢崎絵里子役)

――死を直前にして、夫の矢崎や香織に対し包み込むような優しさを見せる絵里子。その存在はまるで聖母のようだ。
 「私ももっと若い頃は、好きな人が出来ると独占したいっていう気持ちのほうが強かったです。でも年とともにそういう感覚って薄れていくというか。だから絵里子のような役を今いただけてありがたかったし、彼女の気持ちも理解できたような気がします。ただ、死が迫る中で私が絵里子のようにいられるかは分かりませんね、正直なところ」
――筒井さん自身、ここ数年で価値観が大きく変化したという。
 「愛情というものに対して若い頃は激しい愛し方に共感しましたが、そういう気持ちを通過して、そうじゃない愛情があることに気づいたんです。今はもし自分がこの世を去ったとしたら、自分が愛している人には別の誰かと幸せになって欲しいと願いますね、きっと。その人が泣いている姿や苦しむ姿は見たくないです。そんな風に考えるようになって、絵里子の気持ちがすんなり入ってきたのかもしれないですね。
 お芝居も同じで、段々と相手役の方が映えるセリフを投げたい、作品の質を上げるために力を尽くしたい、作品に貢献したいと思う気持ちのほうが強くなってきました。私は小劇団出身なんですが、私がいた劇団は『全員が主役のつもりで演じろ』みたいなスタンスでした。もちろん、その考え方は演出の役者ひとり一人に対する愛情であり、自分の役は自分が一番愛し、責任を取るという意味でとても大切なことですが、今は自分のことより作品や共演者の方、ありきですね。今回で言うなら、夫役の柳沢さんがどう素敵に見えるか、香織(伊藤梨沙子さん)の悩みをどうすれば鮮明にできるかを考えるのが楽しかったです。台本を読んでいるとき、自分の役のことだけに集中しても案外楽しくないんですよ」

――ときには激しいセリフの応酬もあるこの作品の中で、絵里子の立ち位置は難しいものではなかったのか。
 「絵里子のセリフや内面の美しさをどこまで表現できたのか、どこまでリアリティを持たせられたかは分かりませんが、彼女の存在自体が浮いてしまったら作品のお役に立てないってことですからね。作品の中にスルッと入りつつ、他の登場人物とは違う存在感を示すにはどうすればいいのか考えました。今回は一つひとつのセリフの言い方を監督と相談しながら作っていけたのがありがたかったです」
――登場するたび病が悪化していった絵里子。筒井さんは内面だけでなく見た目もこだわりを持って演じたそうだ。
 「かなり痩せましたよ。この作品への参加が決まってすぐ撮影に入ったので、最初の頃は体重も普段と変わらなかったからそれが残念なんですけど、4週間ぐらい野菜とヨーグルトばっかりの生活を送ってました。衣装さんにも『よくそこまで痩せましたね』とおほめの言葉をいただきました(笑)。そういうことも役作りには大切だし、体が軽くなるにつれ、余分なものが落ちていくようでした。何かそぎ落とされるものもいろいろある気がしますね」

――筒井さんはまた「柳沢さんと夫婦役でご一緒できて光栄でした」と。
 「実は柳沢さんとは偶然ですけど、3作連続で共演しているんです。夫婦役は初めてでしたが、私は柳沢さんのお芝居がもともと好きでしたし、今回は演技に真面目に誠実に取り組む姿を幾度となく見ることが出来て、尊敬しています。柳沢さんが言うと、セリフも彼のものなっていて、素晴らしかったですね」
――色で表すなら透明、もしくは乳白色のような清らかさのある絵里子。しかし矢崎のセリフには、絵里子の半生が壮絶だったというものも。
 「いろんな修羅場を経て、今の心境に達したんですよ、きっと。矢崎さんに会い、愛情に満たされて、やっと。人って愛情が満ちると、自分のことより誰かの役に立ちたい、この人を守りたい、という気持ちになるんじゃないかしら。実は私の亡き両親がそうだったんです。とても愛情深くて、それは家族に対してだけでなく近所の子供たちにもそうでしたし、“地域のため”みたいなことを考えて行動していたんです。社会に出れば競争があるのは当たり前だし、そこで辛い思いもするでしょうが、そこからまた年を重ねると人って純粋だった頃にどんどん戻るんじゃないでしょうか」

――筒井さんに話を伺っていると、本作の中ではやはり絵里子に一番共感するように思われるが…。
 「そうですね…。絵里子は“愛の人”、愛とは何かを実践している人ですからね。プライベートは絵里子のようでありたいと思います。ただ、役としては智子さんだって燿子さんだっておもしろいです。機会があれば“攻め”の役もまだまだやりたいですね(笑)。どんな役柄にもおもしろさがあるし、私は多分、総じて人間が好きなんです。あのね、人ってすごくおもしろい存在なんですよ」
――実は筒井さん。人に対する興味が高じ、心理学を学んでいるとか。
 「人間ってすごくシンプルなんです。多重人格とか人格のかい離とかいろんな病理がありますけど、それは自分の生命を維持するためのものなんですって。人が生命を維持するには尊厳とか愛とかが必要だそうですよ」

――“愛”というテーマをこの作品に重ねると、絵里子と矢崎の愛の形を理想と思う方もいるはず。筒井さんはこの夫婦を通し、どんなことを伝えたいと?
 「愛する人を残して逝くことは何より辛いですが、矢崎さんが今後笑顔でいてくれるか、実際に存在する人のように心配なんです。人ってすごく愛された思い出があると、笑顔でいられる気がするんですよね。絵里子の愛にそんなことを感じていただけたらうれしいです。実際に最愛の人を亡くし、辛い思いをされている方からは『そんなもんじゃない』とおしかりを受けるかもしれませんが。でも私は、人って今は失ってしまったけれど、かつてあった愛情が心に残っていれば生きていく上で支えになるんじゃないか、と思いたいですね」

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