外国ルーツの子供達に『教育格差』…塾を開いたブラジル人女子大学生「夢のサポートできる環境を」
外国にルーツを持つ子供は、日本語を話せないなどの理由で教育格差がある。教育支援が必要な子供の数は、愛知県が全国で一番多く、支援が足りていない。そんな子供たちを支える学習塾を、名古屋に開いたブラジル人大学生の思いに迫った。
■ブラジル人女子大学生の塾長が経験した「外国ルーツ」の子供の困難
名古屋市昭和区で、2023年4月に誕生した「夢花塾(ゆめはなじゅく)」。
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体験に来たランダンくん:
「こんにちは~。お願いします~」
児童に勉強を教えるのは、名古屋市に住むブラジル人で、大学4年生のアドルノ・ジゼレさん(22)だ。
アドルノ・ジゼレさん(22):
「(英語の文章を読み)なにをオーダーできなかったんだっけ?」
ランダンくん:
「このサーモンパスタ」
ジゼレさん:
「そうそうそう!」
ジゼレさんは22歳ながらこの塾を開き、塾長を務めている。
ジゼレさん:
「コンセプトとしては『夢』を応援する『夢に伴走する』というところと、自分らしくいられる環境を作るというところをやりたかったので、そこをめがけてずっと今やっているというところです」
ジゼレさんが塾を開くことになった背景には、自分の経験があった。
2001年、日本で生まれた直後に父親の母国のブラジルに渡り、4歳で再び日本に戻ってきたジゼレさん。
当時、家族全員がほとんど日本語を話せず、学校の授業だけでなく保護者に向けて配られた「お便り」の内容を理解することも困難だったという。
ジゼレさん:
「勉強は他の子は家に帰ったらお母さんに教えてもらえるけど、わたしはそういうのが全くなかったので」
■教育支援が必要な子供の5分の1が愛知県に 自治体によって異なる支援体制
こうした日本語の指導が必要で、外国にルーツを持つ子供の数は全国に約6万人いる。その約5分の1の12738人が愛知県にいて、全国最多だ。(2022年3月の文部科学省調査)
愛知県を取材すると、外国にルーツを持つ子供に教育支援が行き届いていない現状が見えてきた。NPOが運営する豊明市の「プラス・エデュケート」。
先生:
「(紙の時計の針を動かして)何時?」
児童:
「5時!」
先生:
「そう~!(もう一度、時計の針を動かして)何時?」
児童:
「4時!」
先生:
「ピンポン!ピンポン!」
この塾では、来日したばかりの子供たちに日本語を教えている。この日は、ベトナムや中国などから来日した子供たちの初めての授業だった。
先生:
「(イラストを見せて)わかる?これ、(日本語で)わかる?言って!」
6歳の女の子(ベトナム籍):
「……」
この女の子は6歳で、2023年3月にベトナムから来日したばかりだ。日本語はほとんど話せない。
先生:
「上、下、右、左、前、後ろ」
先生が言葉に合わせて手を叩く。ここでは、体を動かしながら、楽しく日本語を教えている。
「プラス・エデュケート」森顕子理事長:
「私たちは日本語を教える最初の入口になりますので、その日本語が楽しくないとか、難しいって思わせちゃうと、その子たちの日本語学習の扉を閉めてしまうかもしれないので、まずは楽しく」
プラス・エデュケートは豊明市の委託を受け、小学校でも日本語教育を支援している。
森理事長:
「(教科書見ながら)じゃあアミエルどうぞ」
アミエルくん(10):
「きょう一緒にサッカーしない?」
別の男の子:
「うん、いいよ」
アミエルくん:
「じゃあ4時に運動場へ来て」
別の男の子
「うん、わかった。行く!」
森理事長:
「上手!」
フィリピンから来た、パメサ・アミエルくん(10)。
日本語で上手にコミュニケーションをとっているが、2か月前、初めて日本語の授業を受けたときには、全く日本語がわからなかったという。
Q.日本語教えてもらうのは楽しいですか?
アミエルくん:
「楽しいです」
Q.何が楽しいですか?
アミエルくん:
「休み時間!」
アミエルくん:
「少し(日本語)上手になりたい」
プラスエデュケートの森理事長は、外国ルーツの子供たちに教育格差があると指摘する。
森理事長:
「(教育支援は)自治体によって全然違うんですよ。まず支援があるのかないのか大きくふるいにかけられて、ここでは教育格差がうまれているのではないかなという風に思っています。子供たちは人種とか国籍、全く関係なく、等しく能力を持っていると思うんですね。ところが日本に来た時に“日本語”というものが使えなければ、彼らのパフォーマンスや力を発揮する機会がぐっと減ってしまう」
文部科学省が全国の自治体に行ったアンケート調査では、日本語の指導が必要な子供の受け入れについて、半数近くが「特段の指導体制を整備していない」と回答した。
教育支援が行き届いていない課題が浮き彫りとなった。
■頑張っても「絶対に叶わぬ夢」から生まれた新たな夢
夢花塾を開いたジゼレさんは、ブラジル国籍の父ファビオさんと、インドネシア国籍の母モニカさん、そして2歳年下の弟レオさんの4人家族で、三重県四日市市で育った。
ジゼレさん:
「日本に来て大変だったのは言語と勉強ですね。言語でいくと、小学校のお便りは全部私が翻訳しないと伝わらないし。勉強は他の日本人だったら、家に帰ったら教えてもらえるはずの勉強が、私は家に帰っても自分でやるしかないから」
母モニカさん(インドネシア国籍):
「学校の勉強とかも、算数や数学はやり方が違うんですね。学校の勉強とかも手伝うことができないですね」
両親も日本語を話せず、「言葉の壁」にぶつかったが、中学校のときに書いたノートには「夢」が綴られていた。
ジゼレさん:
「「警察官になること」「絶対あきらめない」「頑張れ自分」って書いて自分を励ましてまいした」
ブラジルで警察官をしていた祖父への憧れから抱いた夢だった。
しかし中学生の時に、日本国籍がないと日本の警察官になれないことを知り、弁論大会で、その悔しさを訴えていた。
ジゼレさん(中学時代の弁論大会):
「私の夢は警察官になることです。そのために私は毎日6時間以上も勉強しています。でもどれだけ夢を見ても、私がどれだけ勉強しても、日本で警察官になることはできません」
ジゼレさん(中学時代の弁論大会):
「私の愛する家族からもらった国籍を簡単に変えることはできない。諦めなければ夢は叶うと周りの人は言ってくれますが、私はその言葉を聞くたびにとても悲しくなります」
夢を見失ったジゼレさんだったが、自分と同じような境遇の子供たちに夢を諦めて欲しくないという、「新たな夢」を抱くようになった。
ジゼレさん:
「(子供に対して)外国籍の子たちは夢を諦めるしかないんだっていうのがすごい悔しくて、私を含めみんなが夢を叶えられる環境があったらいいのにっていうところでできた夢花塾です」
父ファビオさん(ブラジル国籍):
「ただの塾じゃないんです。ヒストリーがあるんです。すごいんです」
母モニカさん:
「たくさんの子供たちの夢を支えながら、伴走しながら頑張ってほしい」
■外国ルーツの子供たちが夢を持てるように…求められる「支援」
夢を抱く子供に伴走する塾。新たな一歩を踏みだす背中を押してくれたのも、「夢」への伴走者だった。
ジゼレさんがアルバイトをしていた飲食店を経営する廣野耕史(ひろの・こうじ)さんだ。
ジゼレさんの思いに共感し、「夢花塾」を飲食店のグループとして設立した。
廣野耕史さん:
「ジゼレみたいに本当に苦しい思い、壁にぶち当たったりとか。国籍や国柄など、そういう僕にない悩みがある人が、世の中にいっぱいいるんだなって気づかされた。ぜひそういう人がいるんであれば、微力でも僕にできることはしたいという気持ちが大きかったです」
ジゼレさん:
「ランダンくんの夢はなんですか?」
ランダンくん:
「いっぱいあり過ぎてわからない」
ジゼレ:
「いっぱいあり過ぎて?じゃあ、いっぱい書こう!」
子供たちが書いているのは「夢花ノート」。
夢を叶えるために何が必要なのか、ひとりひとりに寄り添って、一緒に考える。
ジゼレさん:
「どんな夢を叶えたいのか、その夢に対してどういう道のりで頑張っていこうというところまでぜんぶサポートをしたいなって思いますし。セカンドプレイスになれるような環境を作りたいと思っているので、ここにきたらとりあえず安心できる、先生とは思っていること全部話せる環境を作っていきたいです」
外国にルーツを持つ子供たちが「夢」を持てる日本に。「夢の伴走者」になるような支援が求められている。
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2023年5月11日放送