【番組プロデューサーより】
この番組は、司法ドキュメンタリーシリーズの第五弾です。今回は犯罪被害者の遺族と死刑について考えてみたいと思います。裁判員制度は、この5月から始まります。しかし、裁判員になる私たちは、十分な知識があるといえるでしょうか。番組では、被害者遺族3人の皆さんをドキュメントします。一口に遺族といっても、その心持ちは一様ではなく、遺族のみなさんが置かれている厳しい現実から、私たちの社会のありようが見えてきます。さて、裁判員は、有罪無罪の判断だけでなく、刑罰つまり量刑まで決めなくてはなりません。その究極の刑罰が、死刑です。全国で発生する殺人事件は、毎年1200件を超えています。被害者遺族は、その数の何倍も存在し、裁判員が死刑を判断しなくてはならない事件も、わずかではないことを意味しています。番組が、罪と罰について考え、よりよい社会を作っていくための機会になればと願っています。どうぞ、ご意見、ご感想をお寄せください。
【藤原竜也さんコメント】
この番組は、今、社会が抱えている問題に、鋭く切り込んでいるという意味で、僕が、今まで眼にしたことのないドキュメンタリーです。
実は、名古屋・闇サイト殺人事件については、個人的に、人間として許せない余りにも卑劣な犯行だと思っていて、裁判の行方も注目してきました。この番組に参加できたことは、とても嬉しく、貴重な体験でした。
番組は、死刑を下すことを伴う裁判員について考えて行くことになりますが、僕自身は今の段階では、未知な部分もありますが、裁判員は、余りにも責任が重過ぎると思っています。
ナレーションの仕事は、これが初めてではありませんが、いままで読んだことのない異質なものもありましたが、たんたんと取り組んだつもりです。すごい番組なので、そのテーマが伝わればと思っています。
番組をご覧いただいて、遺族の思い、復讐の連鎖、断ち切らなくてはならないことと、否定しきれないこと、罪と罰について、様々なことを考える機会になれば、と思います。
2007年、名古屋市千種区で発生した『闇サイト殺人事件』。被害者遺族、磯谷富美子さん(57)は、強盗殺人事件の場合、一人殺害では「死刑」になりにくいという判例を越えて、死刑を勝ち取りたいと署名活動を始めました。日本の裁判を変えることが、娘 利恵さんの生きた証だという信念でした。目標に掲げた30万人の署名は、着実に集まり、年内に達成しました。死刑を求める遺族に思いを寄せることと死刑という人の死を求めること。被害者遺族の悲しみに思いを寄せることは、ごく当たり前の感情かもしれません。19回に及んだ公判のあと、その感想を磯谷さんのご自宅で取材し続け、遺族感情と三被告に下された名古屋地裁の判決について考えて行きます。
26年前に弟を保険金殺人で失った兄、原田正治(61)さんは、憎くてならない被告と面会するようになり、死刑を待ってほしいとまで、法務大臣に願い出ました。しかし、決して赦した訳ではないのです。弟を殺害した死刑囚はやがて処刑され、原田さんの最後の面会は、棺の中で、黒く焼け焦げたようなロープの跡が首に残る無残な姿でした。原田さんは「命は、死で償えるものではないと実感した。憎むべき相手があってこそ」と語ります。さらに、原田さんは死刑制度について疑問を呈し、犯罪の被害者と加害者の出会いで何かが変わらないかと市民団体を作り、死刑判決を受けた被告との面会を始めます。しかし、その活動は理解されず、無言電話や非難の手紙となって、原田さんは攻撃されます。弟を失い、そして、死刑を考えることで孤独になる原田さん。犯罪被害者に、勝手なイメージを押し付けている社会が見えてきます。
江崎恭平さん(64)は、15年前、息子を集団リンチ殺人で奪われた。江崎さんは、一貫して、死刑を求めてきました。犯行当時は少年だったという被告から手紙が来ますが、その手紙にも、「償うというが、どうやって償えるというのか。きれいごとではないか。」と問い返します。
事件事故で亡くなった人たちの思い出の品を展示する「命のメッセージ展」という催しがあります。事件から15年、人命の尊さを伝えるこのイベントの運営に、江崎さんは関わっています。命の大切さを訴える催しと、被告の命を奪うことを求め続ける自分。その間で、江崎さんは激しく逡巡しています。