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INTERVIEW

天竺要役 吹越満さん

「劇団ウミヘビ」の主宰・天竺はひかり(渡辺麻友さん)に舞台の持つ、魅力だけでなく怖さも教える“道先案内人”のような人物。演じる吹越さん自身も、役者として駆け出しの頃、劇団で様々な経験をしたと語ります。本作についてだけでなく、劇団で活動していた頃のエピソードも伺いました

カリスマ性のある天竺を吹越さんはどう演じていますか?
芝居の稽古って、意外なほど地味なんです。稽古自体は大変ですよ。1カ月から1カ月半かけて、ちょっとずつ作品を形にしていくので。きっとリアルな稽古の様子を1日、2日見ても、正直エンターテインメントにならないと思います。
天竺のように劇団の座長で演出家になり、役者へのダメ出しに重みがあって、役者よりユニークな人もいます。ただ今回は、天竺のキャラクターや劇団だけで引っ張る話ではなく、料亭の場面、ひかりと母親の場面、さらに劇団の場面とそれぞれのシーンが調和し、作品の世界を作っていくと思うので、劇団のところも作品のトーンにしっかり合わせること、その上で天竺の演劇にかける想いの込もったストレートなセリフをいかに成立させるかに気をつけています。

本作についての感想をお聞かせください。
過去の謎がいっぱいありますよね。まだまだはっきりしていないことも多く、さらに何か明らかになると、その都度人間関係が変わっていく。話があちこちで展開するところなんかは、ものすごく連ドラらしい連ドラであり、連ドラならではの面白みが詰まっていると思います。物語の後半、天竺に関しても非常に驚く場面が出てきます。楽しみにしていてください。
ひかり役の渡辺麻友さんはどんな方ですか?
とても物静かな女性です。それにこの作品への思い入れもあるのでしょう。ワンシーン、ワンシーン、丁寧に演じています。実際はそんなことないでしょうけど、端から見ていると、大丈夫? と思わせるはかなさがあるのが、この役に合っていますね。そういう繊細さを感じさせるからこそ、天竺と芝居の稽古を重ね、追い詰められていく中で変貌していく様が、より際立つと思いますよ。

劇団にとって稽古場があるのは、とても幸せなこと

劇団の場面は、実際の劇団の稽古場で撮影をされていますね。
天井をぶち抜いて、高さがあるのがいいですね。実際、舞台公演も行うそうで、役者からするとすごく贅沢な稽古場です。

吹越さんが役者を始めた当初、稽古場で苦労されたことはあったのでしょうか?
逆です。劇団の“げ”の字も分からないまま、ある劇団に入りましたが、すでに稽古場がありました。劇団員たちは本当に貧しくて、明日の生活も、住んでいる部屋の家賃の支払いもままならなくて、まず家賃を払えっていう状況にも関わらず、です。どういうことかというと、劇団の主宰者が「この金で稽古場を見つけてこい」と大金を用意してくれたんです。劇団員全員で頑張って、3年で返してくれ、と。稽古場があるって、幸せなことですよ。小さな劇団だと、無料で貸してもらえる区民集会場みたいな場所を借りて、ろくに大声を出せない中で稽古して、さらに稽古場を転々とする、なんてザラですから。
小劇団の運営は大変とよく聞きます。
時間や予算など、マイナスの材料はいくらでもあります。どうにもならないことを突きつけられ、その中で、消去法でいろいろなものを捨て去り、作品を作っていかなければいけないんですよ。面白いもので選択肢が狭まると、舞台を作る上でその劇団なりのルールが出来上がっていくんです。何に予算をかけるか、何を諦めるか。いろんなものが不足している中、それでもある程度のクオリティーのものを世に出すことに尽力します。そういうことを続けていると、あるとき潤沢な予算があっても「そんな予算、いらない」って思えるんですよ。マイナス要素をいろいろな工夫でプラスに変えてきたから。もちろん反対に、それまで我慢し続けて、ぼう大な予算をかけられるようになったとき、これまで出来なかったことを詰め込み、エネルギーを爆発させることもありますけど。

芝居に集中しているときは生活全般、彼女のことも二の次だった

吹越さんが役者を始めた当初の思い出話は、とても興味があります。
駆け出しの役者なんて大変なだけですよ。“犯罪者の妹”というレッテルを貼られ、15年もの間苦労してきたきひかりと、その大変さと比べることなんて出来ませんけど、僕もかつて、明日が一人芝居の初日、なんてときはまあひどい精神状態でした。まず舞台の成功が最優先で、食うことも当時付き合っていた恋人も二の次。彼女から連絡が来ると、俺がどういう状況か分かっているのか! と怒鳴ったこともあったかな(笑)。一人芝居とはいえ、劇団の冠がかかっていたから失敗させるわけにいないし、支えてくれたスタッフにも迷惑をかけるわけにいかない。そんな状況で、恋人を気遣う余裕なんてまったくなかったですよ。

そんな日々を味わいながら、それでも役者を続けてきたわけですね。
演出家の方に助けてもらった面もあります。初めて劇団以外の公演に参加したとき、演出家に何度も何度もダメ出しされて、居残りで稽古をしたこともあります。それで、「それだよ、出来たじゃん」と何とか形になって。そのとき、演出家は役者を見ているものなんだな、と感じましたね。その後も「あれ、いまの?」「いいんじゃない」っていうやりとりを繰り返し、より良い芝居を探り合って、でもそれで終わらない。本番でお客さんの反応でさらに変わっていく。芝居ってそういうものなんです。
この作品にも吹越さんのそんな経験が息づいているのですね。改めて、視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。
今後、天竺とひかりの関係も大きく変わっていきます。天竺がひかりの意外な一面をどんどん引き出すはずです。その中で、ひどい言葉を投げかけますけど、そこは一つ、ドラマを盛り上げるためと理解して、許してくださいね(笑)。