高井アナの空言舌語

東海テレビアナウンサー高井一が、正しい日本語の読みや、謂れをご紹介します。

2004/10/22
六十、
…んです
 元NHKアナウンサーの鈴木健二さんとお話しする機会に恵まれました。
  番組では「クイズ面白ゼミナール」、著書では「気配りのすすめ」でご記憶の方が多いことでしょう。現在は本の読み聞かせ指導など、様々な文化活動をされています。
  鈴木さんは東京下町生まれの江戸っ子。「べらんめえ口調」「広島がシロシマ」の江戸弁が抜けず、入局早々「共通語のアナウンスは無理です」と宣言したそうです。
  昔とはいえ天下のNHKでそれで許されたのか、と驚きますが、それでも「正しく丁寧な言葉づかい」だけは心がけようと誓ったそうです。
  その基本が「…です」「…ます」と、語尾を丁寧にしっかり言い切ることでした。ソフトな語り口でも、画面の鈴木さんが生真面目に見えたのはその言葉づかいのせいでした。
  鈴木さんが最近の若者の言葉遣いで指摘されたのは「…なんです」「…たんです」と、語尾に「…んです」を多用することです。
 「この本なんです」「美味しいんです」「良かったんです」とアナウンサーも放送でよく使います。この方が親しみがあるという心理が働くのでしょうが、「… んです」を乱発すると鼻についてきます。鈴木さんは「視聴者は友達ではない」と今のアナウンサーを戒めています。
  年配の出演者に親しみを込めたつもりで「…んです」を使うアナウンサーもいます。これは無礼です。
  「年長者が友達でない」のは当然です。
  アナウンサーでなくてもこれは大切なことです。
  上司や先輩と話している時に「…んです」を連発すると、たとえ話し相手は許容してくれても、傍で見ている人には「けじめをつけられない人」「だらしのない人」という印象を持たれます。
  親しみのある表現と、けじめある表現の違いを心掛けること。これが大人の話し方の第一歩です。
  「…んです」の「ん」には意味がないのですから、「本です」「美味しいです」と、普通の「です」「ます」で話せば十分です。