高井アナの空言舌語

東海テレビアナウンサー高井一が、正しい日本語の読みや、謂れをご紹介します。

2006/8/11
九十九、
怒り心頭
 文化庁の平成17年度「国語に関する世論調査結果」が発表されました。
  そのうち「使う言い方・気になる言い方」の項では、激しく怒ること=『怒り心頭に発する』を『怒り心頭に達する』と誤って言う人が74.2%もあり、「発する」と正しい認識の人は僅か14.0%でした。「発する」と「達する」では怒りのベクトルが正反対です。
  この誤用の理由を文化庁は、怒った時に言う「頭にくる!」が意識にあるので、「怒りが頭にまで達した!」という感覚になりやすい、と分析しています。
  しかし「心頭」の意味は「心の中」「胸のうち」。『怒り心頭に発する』は「心の底からの激しい怒り」で、頭は無関係だったのです。
 では、『怒り心頭に発する』とはどのような怒りでしょうか。思い浮かぶのは「激怒」「激昂」「憤怒」「逆上」という状況です。こういう怒りは徐々に昂じるというより、瞬間的・爆発的な抑えきれない激しさを持っています。このように「爆発する怒り」と考えれば、怒りの感情が心の内から外に向かって広がる『心頭に発する』さまがイメージできるでしょう。
  今回の調査では『愛嬌を振りまく』を正しく認識している人は43.9%。『愛想を振りまく』と間違えている人が48.3%と、誤認識の方が多くなっていることも明らかになりました。
  言葉の誤った使い方が広まることを「誤用の一般化」と呼びますが、『心頭に達する』は正に一般化状態です。 
  皆が話す慣用句や常套句を疑わずに使っていると、自分が誤用を広めることになるかも知れません。 
  我々アナウンサーが気をつけているのは次の誤用です。皆さんは勘違いしていませんか。ご注意下さい。
▽汚名挽回…汚名返上と名誉挽回を混同した誤用
▽汚名を「そそぐ」…水で洗い清める「すすぐ」が本来
▽口先三寸…本当は「舌先三寸」の誤用
▽怪我を「負う」…「負う」のは傷=負傷・怪我は「する」
▽瞬間最大風速…最大瞬間風速が正しい