高井アナの空言舌語

東海テレビアナウンサー高井一が、正しい日本語の読みや、謂れをご紹介します。

2008/2/8
百三十二、
難民
 「ネットカフェ難民」という言葉がよくマスコミに登場します。【定住する住居がないためインターネットカフェで寝泊りする人達】を指す造語で、昨年の流行語大賞では8位にランクされました。格差社会を反映するような言葉です。また、大地震が発生すると家に帰れなくなる「帰宅難民」が大量に生まれると言われています。
 国連では「難民」を【人種、宗教、国籍、政治的意見などの理由で、迫害を受けるか受ける恐れがあるため他国に逃れた人】と定義しています。それに自然災害でも「難民」は生まれます。つまり意に反して故国を追われた人のことですが、最近日本ではある事情で行き場を失った人を「難民」にたとえる例を頻繁に見ます。
  ネットで検索してみると、驚くほど「難民」が見つかりました。
 「マック難民」は24時間営業のハンバーガー店で夜を過ごす人達。「年金難民」は年金記録消失で正当な年金を受けられなくなった人達。「高層難民」は地震によるエレベーター停止で移動不能となった高層階住人。「資格難民」は資格取得にばかり重点を置いたため、希望の仕事や企業に就職できない人達です。
  このほか「学歴難民」「情報難民」「社内難民」「ランチ難民」「結婚難民」……名詞+難民で比喩的難民はいくつでも作れそうです。
  世間に浸透する新語・造語には、簡潔に事象を説明する便利さがありますが、放送で使うには適切な表現かどうかを慎重に吟味する必要があります。
 先日、フジテレビ系列各局のアナウンサーが集まった際、この比喩的難民が話題になりました。安易に「△△難民」を作り出す風潮に疑問を感じるからです。実際、ニュースでは紛争などによる本当の「難民」を伝えるので慎重にならざるを得ません。さらに、メディアが安易に「△△難民」と名付けることは誇大表現・虚偽表現や差別につながりかねないので、注意が必要という結論になりました。
  一語で説明できる、印象的だ、との理由で新しい言葉が作られます。それも表現の多様性でしょう。しかし、安易に使うより、「△△により××せざるを得なくなった人」と、きちんと説明する丁寧さを忘れてならないと思います。