二百二十七、
2012/6/25
コンパクト台風
台風4号が東海地方を通過した後、ベテランの報道記者がこんなことを言いました。「今度の台風を“コンパクト台風”と伝えていたケースがあったが、コンパクトはどうなんだろう……」。
コンパクトというと、「小型・小さい」という印象が先行するので、「大した台風ではない」という油断を招いてしまう。そんなことを危惧しての言葉でした。
実際に台風4号が愛知県豊橋市を通過した時には最大風速35m/sでしたから油断は禁物の台風でした。静岡県では死者も出ましたし、愛知県の農林水産業には1億円以上の被害がありました。
気象庁は台風の規模を、大きさは風速15m/s以上の強風域の半径で、強さは最大風速で分類しています。「大型で強い」とか「超大型で猛烈な」のように発表しています。かつては「ごく小さい」とか「弱い」という表現も使っていましたが、小さくても台風は強風が吹くのだから安心させてはいけないと、「中型」以下、「並の強さ」以下の表現を現在は使わなくなりました。今回の4号はかつての分類では「小型で強い」台風でしたが、気象庁は風速35m/sだけを重視して、「強い台風」として情報を出していました。
では、「コンパクト台風」はどこから生まれたのでしょうか。「小さくとも威力が凝縮した台風」というニュアンスで注意を呼びかけようと、「コンパクト」という表現が使われたとも推測できます。かつて暴風域が小さい台風を「豆台風」とする気象用語がありました。これも油断を避けるために使わなくなりました。「豆」が使えないから「コンパクト」にしたとも考えられます。
コンパクト台風は気象用語ではなく、マスコミの造語です。ゲリラ豪雨もそうですが、何でも新しい呼び名を付けたがるのはマスコミの悪癖です。実態を正しく伝えなかったり、実際以上に大袈裟だったり、過小評価だったり……。
少なくとも台風情報という、被害を防ぎ注意喚起するための報道で、安心や油断を招きそうな「コンパクト」は問題があります。こうしたネーミングは慎まなくては、と思いを新たにした台風4号でした。