二百四十七、
2013/6/18
ムシッと
最近、情報番組や天気予報で聞くようになった「ムシッとする」という表現が気になります。蒸し暑いことを言っているのは分かりますが、こんな言葉はあったでしょうか。
蒸し暑いことは、普通「ムシムシする」と表現します。この「ムシムシ」を短縮したのが「ムシッ」だと考えられます。
短縮ということでは、「ドキドキする→ドキッと」「ゴロゴロする→ゴロッと」「デレデレする→デレッと」のように、「擬態語+する」を短縮した「〇〇ッと」は少なくありません。
短縮によって雰囲気が変わるものもあります。「バタバタ倒れる」と「バタッと倒れる」を比べると、「バタバタ」は大勢で「バタッ」は一人だけを示します。
「ゾクゾク」と「ゾクッ」、「ジロジロ」と「ジロッ」、「ドキドキ」と「ドキッ」では、短縮することが意味の強調にもなるようです。ですから、「ムシッ」は高温多湿の不快感を強調するために短縮されたと考えることもできます。
短縮のほかに、「ムシッと」は副詞的用法でもあり、昨今の言葉にありがちな、断定を避けた曖昧表現とも言えます。湿度や気温など数値の範囲を示すものでもありません。どれほど蒸し暑く「ムシッと」するかは、個人の体感で違います。
「ムシッとする」は「ムシムシする」より言いやすく、感覚的な言葉です。使う人をどんどん増やす強い感染力を持っていると思われます。楽で便利な言葉はアッという間に拡がってしまうものです。
年々強くなる夏場の高気温化傾向も、「ムシッと」出現の背景にあるのかも知れません。
とはいえ「ムシッとする」は、まだ造語・俗語の域を出ていません。我々アナウンサーが平気で使える言葉ではありません。私はまだしばらく様子を見るつもりでいます。でも実際は、来年・再来年には多くの人が口にする言葉になっているような、そんな気がしてなりません。