愛知県警では採用試験を受ける“受験者数”が減少傾向にあります。ここ10年の数字を見ると、2010年に6428人だったのが、去年は3539人となっています。

 こうした状況を受け、愛知県警は県外にも人材確保の目を広げていて、中でも注目しているのが遠く離れた沖縄県。愛知県警のリクルート活動に密着しました。

■警察でも“インターンシップ”

警察官:
「あそこで縛っちゃって!」

 制服の警察官とともに規制線を張る人たち…。

 事務所で現金が盗まれる“窃盗事件”が発生。その現場で指紋を調べたり、目撃者から話を聞いたり。捜査の結果、1人の容疑者が浮上しました…。

 実はこれ、「事件」ではなく、愛知県警・港署が今年から始めた「インターンシップ」のプログラム。

 その後、車の中で張り込んでいたところ、“容疑者”が現われ、職務質問をすると盗まれた現金を持っていたことが分かりました。

警察官:「お金ですか?」

犯人役:
「拾ったので警察に届けようと思って…」

警察官:「ご自分のではなくて?」

犯人役:「そこで拾って…」

 男性はこの後、警察署へ“任意同行”されました…。

インターンシップを企画した警察官:
「これまでは、鑑識体験や逮捕術体験、パトカー見学など、それぞれ別々にやっていたのですが、なかなか警察の仕事のやりがいを理解してもらえなかったんです。(志望理由が)『人のために役に立ちたい仕事』ということであれば、このような事件を想定した訓練は効果があると思います」

参加した男性:
「最前線はこうなんだぞっていうのを教えてもらったのかなと思います。(この形式は)他府県警でもなかったので」

参加した女性:
「警察官になりたい気持ちがちょっとまた大きくなって、もう『なろう』って決めました」

■厳しい採用…愛知らしい理由

 一方、愛知・春日井市にある愛知県警察学校。

 ここでは、若い女性たちが寮の部屋を見学していました。部屋を丁寧に説明する女性は警察官です。

愛知県警警務課採用センター
永井希美佳巡査長:
「『え~こんなに寮きれいなんだ』とか色々な声も上がっていたので、9月の試験に向けて受験しようかしないかと悩んでいる学生さんもいますので、こういったイベントを設けて、少しでも受けてみようかなと思ってくれる方が増えてくれるといいなと思います」

 愛知県警は、なぜここまで採用活動に力を入れているのでしょうか?

 景気の回復により、有効求人倍率は上がっていて、特に製造業が多い愛知県は昨年度平均で1.86倍と、全国の1.54倍を上回っています。

 有効求人倍率が上がると、減少するといわれる公務員の志望者。過去10年の愛知県警の受験者数も、2010年をピークに減少傾向にあります。

愛知県警警務課採用センター
内田和宏所長:
「警察官採用試験の合格者の中で、例えば消防や役所に併願している人が最終的に選ぶ道として他の公務員に流れてしまう。いわゆる辞退者が増えているのも大きな課題の一つだと思っています」

 受験者数の確保と優秀な人材を集めるため、愛知県警は採用試験が行われる春と秋を前に説明会を行っていて、数年前から回数を増やしています。

■愛知県警採用担当者“沖縄遠征”のワケ

 愛知県からおよそ1300キロ離れた沖縄県・那覇空港に降り立ったのは、愛知県警の警察官。採用担当の佐々木哲也警部補です。

Q.今日はどうして沖縄に?

愛知県警・佐々木警部補:
「警察官の受験をしたい子たちを見つけて、愛知県警を受けてもらうために説明会とかを実施します」

 佐々木警部補が向かったのは、公務員を目指す人たちが通う専門学校。早速、担当者に学生たちの状況を“聞き込み”です。

佐々木警部補:
「沖縄県外での警察官試験を考えてる子の数はどうですか?」

専門学校の担当者:
「1桁…10人までいかないですね」

佐々木警部補:
「島を出ていくのにもハードルがあると思うんですけど、なかなか夢である警察官になれなくてここでずっと頑張ってるアツい子たちを警察官にしてあげたいという思いがありますので…」

 はるばる沖縄県まで来た理由…。それは、警察官を志望する沖縄在住の優秀な人材を愛知に呼び込むことです。

 実は、沖縄県警は愛知より規模が小さく、採用の枠が少ないため、全国でも有数の倍率を誇る「超難関」。

 昨年度、高卒区分試験倍率では、男子で愛知が4.8倍なのに対し沖縄は13.2倍。また女子でも愛知が9.0倍に対し沖縄は15.8倍となっています。

 佐々木警部補は別の専門学校も訪問。そこで学生たちを前にアピールです。

佐々木警部補:
「警察官というその仕事に自分で夢があるんだったらそこを目指して頑張ってほしい。別の県でも叶えることができるという希望を持ってほしいと思います」

女子学生:
「愛知県警で沖縄から採用された人はいるんですか?」

佐々木警部補:
「いるよ、ここの専門学校の先輩も何人もいるよ」

 愛知県警は、3年前から沖縄で募集活動を始め、沖縄県出身者は、去年の高卒の受験者では岐阜や三重など隣接する県に続き5番目の多さとなっています。

佐々木警部補:
「ここの卒業生で、今愛知県警で活躍している子が何人もいます。そこで『リアルな話を聞かせてあげてほしい』と聞いたら、第一声は『給料がいい!』って」

学生一同:「(笑)」

 初任給で愛知の方が数万円高いとアピール。

 また、交番勤務などの警察官は「当番→明け→休み」といった3日間サイクルでの勤務を繰り返します。原則365日このサイクルが続くため連休はありませんが、愛知県警は数カ月に一度、当番日を休みにして連休にする制度を設けていて、この制度で帰省する沖縄出身の警察官もいます。

佐々木警部補:
「ホームシックにもならないし、適度に帰ってこられるし、友達とも顔合わせられるしっていうので全然大丈夫です」

 話を聞いた学生たちの反応は…?

男子学生:
「ずっと沖縄県警を考えていたんですけど、今日愛知県警の話を聞いて『内地』の警察もいいということを感じました」

女子学生:
「警察官という夢は諦めたくないので、沖縄で貢献できなくても県外で貢献してみようって」

■沖縄には警視庁などの“ライバル”も…

 一方で、この専門学校では、警視庁や大阪府警のほか、神奈川、埼玉、千葉などの県警からのアプローチもあるといいます。

専門学校日経ビジネス・下里哲志さん:
「ここ最近、熱心に県外の警察からのアプローチは実際にあります。沖縄県警は採用数が少ないので、そのへんも見込んで沖縄に目を向けてるのかなとは感じますね」

 どこの警察組織も、優秀な人材を確保するため、必死です。

 さらに別の専門学校では…。

女子学生:
「愛知県警以外に、神奈川と迷ってるんです。あと東京…」

 白バイ隊員を目指し、神奈川県警や警視庁と迷っているという女子学生に佐々木警部補は、愛知県警ならではの「やりがい」も熱く伝えます。

佐々木警部補:
「白バイ隊員になりたいといっても、沖縄県警で白バイ隊って少数精鋭だと思うし、愛知県警だと白バイ隊員の女性も多い。愛知県警だと名古屋ウィメンズマラソンの先導を必ず女性警察官がやるんだけど、テレビの全国ネットなので、あれで映ったら沖縄の子たちも『オォー』ってなると思う」

 その後も、専門学校を回って愛知県警の“売り込み”に努める佐々木警部補。人材確保にかける想いを聞きました。

愛知県警・佐々木哲也警部補:
「私がここで頑張って熱を持って話をしないと誰も来てくれないと思うし、私が『あの人と一緒に働きたい』と思っていただけないといけないかなと思っています。愛知の安全と安心を守ってくれる、この子なら任せられるって子が全国にいっぱいいると思うので、その子たちを見つけたいなと思います」