霜降りの牛肉に、新鮮な野菜、名産のお酒…。全て、ふるさと納税の「お礼の品」です。
来場者の女性:
「毎年やってます。食べ物系、季節のものとか」
同・男性:
「3割といわず4割5割、地域の良さを出してほしい」
ふるさと納税が集中する年末、市町村はPRに声を枯らしますが、そのウラで取り交わされていたものが…。
(記者リポート)
「これらは、ふるさと納税を仲介する業者が市町村に営業をかける際に使うセールス資料です。様々な費用の名目で10%、12%と、私たちが寄附したお金には、知られていない行き先があるようです」
10%を超える「手数料」。その実態に迫ります。
■競争で落ち込んだ寄附額がサイトでV字回復
愛知県幸田町、この町の「お礼の品の目玉」は、『エアウィーヴ』。「一流アスリートも愛用」との触れ込みで大人気の寝具で、幸田町に工場があります。
ふるさと納税争奪合戦の舞台裏はどうなっているのでしょうか。
幸田町・山本秀幸総務課長:
「総額16億6700万円の寄附を全国からいただいています。こちらのマットレスパッド、あと枕が非常に人気があって、寄付の98%がエアウィーヴの返礼品の希望です」
このエアウィーヴを武器に、集めたのが愛知県内でナンバーワン、16億円のふるさと納税。実に、予算の1割を大きく上回るお金が、人口4万人の町に。
ところが、この春からは、寄附のペースが3割ほど落ち込みました。
山本課長:
「他の自治体にもエアウィーヴさんの工場があって、同じ返礼品、同じ寄附金額、幸田町だけじゃなくなってくる。そういったことを考えるとポータルサイトを増やすしかないのかなと、一つの方策ですね」
ふるさと納税に欠かせないのが、インターネットのポータルサイト。各市町村の「お礼の品」を見比べ、クレジットカードで決済できる便利さは、まるで通販サイトのよう。
老舗の「ふるさとチョイス」。通販でおなじみ「楽天」や、ソフトバンク系の「さとふる」など、その数はいまや10をゆうに超えます。
幸田町は、「楽天」(2016年~)と「ふるさとチョイス」(2017年~)の2つを利用していましたが、今年度新たに5つのサイトと契約。落ち込んだ寄附がV字回復しました。
■市町村のPRはまさに「金しだい」の状況
激しい競争の中、ふるさと納税の「勝ち組」が頼ったポータルサイト。しかし、そのサービスはタダ…ではありません。
見せてくれたのは、ある月の楽天からの請求書。請求額は475万円です。
幸田町の担当者:
「そうですね、ここが5%…。ポイントはこれです」
幸田町によると、サイトとの契約は、寄附の金額に応じて10%程度の手数料を支払う形が多く、昨年度は2社あわせ、1億7千万円あまりを支払いました。これはサイトを通して受けた寄附額の11.1%に当たります。
ただ、市町村がポータルサイトに支払うのは、この「手数料」だけではありません。
炭火で丁寧に焼き上げる、三河一色産ウナギ。みりんなどの醸造が昔から盛んな愛知県碧南市は、うなぎのかば焼きを「お礼の品」としてプッシュ。幸田町に次いで、ふるさと納税県内2位、ですが…。
(記者リポート)
「これは、ポータルサイトの会員に送られてくる、ふるさと納税を案内するメールです。たくさんある市町村の中から、6つだけがピックアップされていて、碧南市も大きく紹介されています」
一部の市や町への寄附を特別に呼びかけるメールマガジン。実は、市町村がお金を出して買っている「広告」です。
また東海地方の別の市町村から入手した広告枠売り込みのメールからは、碧南市が利用したような、メールマガジンの広告枠は、大きさによって15万円や5万円で販売されているのがわかります。しばしば申し込みが殺到し、広告枠は抽選に…。
サイトを開くと、まず目に飛び込む市町村の名前も、別途数十万円を支払って掲載されているケースが多いといいます。市町村のPR競争も、まさに「金しだい」の状況に碧南市の担当者は…。
碧南市の担当者:
「広告(の効果)は大きいと思います。ちょっと増やしていかないといけないのかなと思っている。昔は8割還元とかあったけど3割に抑えられた。逆にPR費は上がっていく傾向にあると思う」
愛知県内寄附額1位の幸田町もこうした広告枠を活用しています。
幸田町山本課長:
「(効果は)大きいですね、とくに12月ですと、1週間単位の(広告)企画のようですけど寄附の申し込み、金額が跳ね上がる。自治体間の競争を煽るという形になってしまうかもしれないが、制度的にうまく利用させていただかないと、自治体としてうまく存続できないと、致し方なく広告に申込みをしています」
■独自調査で手数料「10%超」の実態明らかに
もともとは自分の住むまちに納めるはずの税金を、好きな町に寄附できる、ふるさと納税。最近はこの税金が、豪華すぎる「お礼の品」に姿を変えていると問題になりましたが、同じように市町村の手元に残らない高額な「手数料」や「広告料」には、これまで目が向けられていませんでした。
東海テレビはこの「手数料」に注目して、11月、東海3県の125全ての市町村に対して、アンケートを実施。そこからは驚きの実態が浮かびあがりました。
昨年度、ポータルサイトを利用したと答えたのは107市町村。2つ以上を利用した市町村は48あります。ポータルサイト経由の寄附が全体の93%のおよそ179億円と、その影響力は絶大ですが、このうち19億6千万円が手数料などとして支払われました。
「お礼の品」の購入まで、サイト側に委託している一部のケースも含んでいますが、全体の10.2%、サイト経由の寄附の11%に上ります。これが、10%を超える「手数料」の実態です。
この割合を全国のふるさと納税の総額3653億円にそのまま当てはめれば、およそ370億円がサイト側に流れた計算。「手数料」の詳細は、これまで国や県も把握しておらず、こうして実態が明らかになるのは初めてです。
アンケートの記述の中には、この「手数料」への不満の声も…。
(アンケート回答)
「サイトが乱立し、手数料も高騰してきている」(三重・多気町)
「10数%の手数料はさすがに高い。もう少し安くならないか」(岐阜・池田町)
「返礼品と違って地元には一円もお金が落ちない」(岐阜・七宗町)
一方で、ポータルサイトの効果を評価する意見も寄せられました。
(アンケート回答)
「高額と言わざるを得ないが、必要不可欠となってしまっている」(愛知・田原市)
「行政ではPRまで力入れる体力がない。費用さえ負担すれば代わりに行ってもらえるのはメリット」(愛知・常滑市)
■専門家「業者が暴利むさぼっていないか問われる」
私たちの取材でわかった「手数料」の実態に、専門家も驚きを隠しません…。
慶應義塾大学・土居丈朗教授:
「1割も手数料で取られているのは私も知らなかったわけですけど、非常に重要な発見です。もともと公益性があるということでもって、寄附で優遇すると言ってるわけですから、業者が適正な水準で手数料をとっているのか、そこで暴利をむさぼっていないかというのは問われるはずですね」
慶應義塾大学の土居教授は、ふるさと納税は、自治体にあてた「とくに公益性が高い寄附」として、税の仕組み上優遇されているものだと指摘。その寄附の1割以上が市町村に届かず、業者に利益をもたらす状況には疑問があると言います。
土居教授:
「もちろん事務の実費くらい手数料として取るのはいいが、しっかり公益に資するような形で手数料を取っているということを業者も説明求められるし、必要に応じて情報公開することは必要と思います」
一方、ポータルサイトを運営する各社は…。
トラストバンク 広報・宗形深さん:
「われわれのところに料金が高いというのは、私は把握できていない。自治体の方が選べるようになっているので高いということなら基本のプランにしていただくこともできる」
「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクは、広告機能などを省いた「基本プラン」を月々数千円で提供していて、市町村が自由に選択できると強調します。
楽天ふるさと納税事業グループ・田村裕二ヴァイスマネージャー:
「ふるさと納税は自治体が稼ぐ力をつけるというのが本質的な目的だと思う。そのあたりで私たちは得意分野なのでサポートさせていただけたらと思う」
楽天は、契約が急速に増えていて、市町村に支持されていると認識しているとしています。
「さとふる」は担当者が多忙で、インタビューを受けられないとして書面で回答を寄せました。
(「さとふる」の回答)
「各社の手数料に対してコメントする立場にないため回答を差し控えます。ポータルサイトが過度な競争をあおっているとは思っておりません」