■「新たな環境」で立ち直る
非行に走ってしまった少年が立ち直るには、数々のハードルがあります。名古屋で再出発を果たした少年と、それを支えるNPOの活動を取材すると、必要な支援の形が見えてきました。
名古屋市中区のアパート…。間取りは1DK。そこに19歳の少年がひとりで住んでいます。
名前はマコトさん。この日、マコトさんのもとをある1人の男性が訪ねました。2年以上、支援を続けている渋谷幸靖さんです。
渋谷さん:
「お金ないとき、昔だったらコンビニに行ったら万引きとかしてたわけじゃん。今回はそういうの浮かばなかったの?」
マコトさん:「ないですね」
渋谷さん:
「浮かばなかったんだ、すごいね。2年間ですごい成長したよね、仕事にもちゃんと行けるようになったしね。(前は)週2、3回くらい仮病使っていたもんね」
マコトさん:「はい」
広島市出身のマコトさん、親のネグレクトもあり、中学生の頃から何度も補導され、15歳で逮捕され、少年院に入りました。
しかし、3年前から名古屋で新たな生活を始め、とび職の仕事で生計を立てています。
マコトさん:
「渋谷さんのおかげで自分も今、犯罪することなく生活できている。一番でかいのは、周りの先輩とかとの関係が切れた、関わりが持たなくなれたことが繋がっているなとすごく感じますね」
渋谷さんはいまも週に数回、食べ物を持って部屋を訪れ、マコトさんの様子を見守っています。
渋谷さん:
「割と最初は仕事も続かなくて、大人との関わりもなくて、居場所がない状態だった。時間をかけて関わる中で、仕事も続くようになって、今はいろいろな大人とも接するようになってしゃべることができて、だいぶ変わったと思います」
■再び犯罪に手を染めた男性「流されました」
名古屋市守山区のマンションの1室にあるNPO法人の「再非行防止サポートセンター愛知」。
渋谷さんもここに所属していて、マコトさんのように、逮捕された少年・少女たちが少年院から出た後の立ち直りを支援しています。
代表を務める高坂朝人さんは…。
再非行防止サポートセンター愛知 代表 高坂朝人さん:
「朝ご飯として、パンとか飲み物とかを届けて、アレルギーですっていう子にはその物を出さないようにしたりとか…」
ケースには支援する少年たちの名前が書かれていて、毎日スタッフが届け、住む場所も無償で提供しています。
高坂さん:
「一番多いのは、逮捕された少年少女の保護者から僕らのNPOに電話がかかってきて『息子・娘のサポートをお願いしたい』と言ってもらって。少年院でも細かいことを考えたりとか、いろんなプログラムとか、丁寧に揃っているんですけれども、少年院の生活と社会の生活は全然環境が違いすぎるので」
去年12月、高坂さんは名古屋拘置所を訪れていました。面会相手は未成年の頃から支援している岐阜出身の21歳の1人の男性。
執行猶予中に、少年院で知り合った共犯の男と住宅に侵入し、現金を盗んだなどとして逮捕・起訴されました。
なぜ再び不良仲間と連絡を取り、犯罪に手を染めてしまうのか…。判決を前に、男性に心境を聞くことができました。
Q.犯罪をやめたい気持ちはありましたか?
男性:
「まあ、ありましたね」
Q.なぜ繰り返してしまったのですか?
男性:
「そういう(悪いことをする)仲間と付き合っていたので、流されたって感じですかね」
Q.そういう仲間と縁を切ろうとは思わなかったのですか?
男性:
「そいつらもそいつらでいいところがあるので、俺はまだ仲間だと思っているので…。 まぁ流されました」
仲間と連絡を取ると流されてしまう…。再出発を望んだものの、2月、男性には懲役1年8カ月の実刑判決が言い渡されました。
■逮捕歴15回…今は少年・少女をサポート
法務省によると、検挙される少年の人数自体は年々減少傾向にあるものの、少年の検挙者のうち、再び非行に走る人の割合は、2016年には37.1%と過去最悪を記録。少年・少女らの再犯を食い止めるためにはどうすべきか…。
実は、サポートセンターの高坂さんも、若いころは集団暴走や窃盗などを繰り返し、逮捕歴は合わせて15回。
少年院や更生保護施設に入っても、退所後、地元の不良仲間と会うようになるため、なかなか更生できませんでした。
しかし、縁もゆかりもない愛知に引越し、人生を再スタート。支援団体の設立にまでこぎつけました。
大事なのは、不良仲間との関係を断つことができるかどうか。
こうした中、高坂さんは去年、大阪と広島にある支援団体と更生を目指す少年らを互いに支援するネットワークを構築しました。
例えば、ある地域の非行少年が環境を変えたいと望んだ場合、支援する団体が他のエリアの団体に繋ぎ、その団体のメンバーが、以前の不良仲間と接触しないように見守ることで、更生を後押しします。
引越しなどの費用もネットワークの事務局が負担し、これまでバラバラに行ってきた活動も、定期的に会合を開き情報を共有することにしています。
異なるエリアのNPOがタッグを組むのは全国で初めてです。
再非行防止サポートセンター愛知 代表 高坂朝人さん:
「地元を変えて、愛知県を出て、人間関係も変えながら自分を変えていきたいと思う少年もいると思うんですよね。そういうときに本人が希望してくれたことをサポートしていきたいと思っています。色んな県の、民間ネットワークだからこそ、それができるようにしていきたいと思っています」
■新天地で見つけた“居場所”
広島から名古屋に出てきて、再出発を果たしたマコトさん。一昨年から児童虐待防止の呼び掛けをする活動を始めました。自分と同じような境遇の子供たちを、少しでも減らそうと参加しています。参加のきっかけを作ったのは、渋谷さんです。
参加した男性:
「初めは全然しゃべらなかったし、目つきも大人なんか全然信用していない感じだったけど、でも今はめちゃくちゃ良い顔している。ここが自分の居場所になっていると思うんですよね」
新天地でようやく見つけた自分の居場所…。
マコトさん:
「今までは人と関わることを避けとったんですよね、こういうサポート活動をやっている人がいることを知って、渋谷さんに出会ってなければ、児童虐待防止の啓発活動にも参加できていなかったと思うので、そういう面ではこっち(愛知県)に出てきて良かったと思う」
去年のクリスマス、サンタのコスチュームに身を包んだマコトさんは、参加者とともに沿道の市民に手を振って支援を呼びかけました。
少年・少女の再犯を防ぐために必要なこととは?
再非行防止サポートセンター愛知 代表 高坂朝人さん:
「住むところを変えた場所でも、その人が孤独にならないように、うまくいかないことがあっても、心の部分を支えられるようなものがあると、犯罪性のある人と付き合うことを防げたりとか、その人が犯罪性のある人と関係が生じそうになったとしても、色々な人との関係があることが心のブレーキになればいいと思っています」