■当時2歳の息子は母を「全然覚えていない」…未解決のまま20年

 未解決のまま令和を迎えた名古屋市西区の主婦殺害事件。関係者を改めて取材すると、犯人が残した「血痕」に関する新事実が明らかに。さらに7年間捜査に携わった元刑事が犯人像を語りました。

 名古屋市内の自宅でアルバムを見る父親と息子…。息子は母親のことを全く覚えていません。

Q.航平くんは母親のことを全然覚えていないと思いますが?

高羽航平さん:
「そうっすね、全然覚えてないっすね」

航平さんの父親・悟さん:
「ぜーんぜん、記憶にないよね?」

航平さん:
「めっちゃアルバムあるね」

悟さん:
「これは新婚旅行だ。トルコ、イスタンブールと、写真撮るのは好きでしたね」

 映っていたのは、高羽奈美子さん(当時32)。写真を撮るのが好きでした。

 夫・悟さんに初めて航平さんが抱かれた時の写真には「パパとご対面(この人誰だろ??)」というコメント。日付や場所、それにコメントも全て自分で書いていました。

航平さん:
「めっちゃ脚きれいじゃね?自分の母親やけど。モデルかと思った」 

悟さん:
「手足長いし、もう…」

 白くてスラリとした長い脚。息子の航平さんは、似ているところを見つけました。

航平さん:
「僕、めっちゃ美脚って言われるんですよね、いろんな人たちに。女子とかからも。めちゃめちゃスタイルいいねって。多分そこですね、(母親と)似てるのは」 

 航平さんは来年大学を卒業し、東京の会社に就職します。

Q.平成というのは高羽家にとってどんな時代でしたか?

悟さん:
「うーん、うん、そうですね、まあ奈美子と出会ったのも平成に入ってからですし、結婚して航平を授かったのも平成の時代、ただまあ事件にあったのも残念ながら平成の時代ということで、一言ではね。なかなかその時代が良かったとか悪かったとか言えないんですけど。就職が決まればひとつね、責任は果たせたかなという気持ちにはなります」

 事件があったのは、今から20年前の平成11年11月13日。

 名古屋市西区稲生町5丁目のアパート。この一室で奈美子さんは殺害されているのが見つかりました。夫の悟さんは仕事で外出中。2歳だった航平さんは奈美子さんと一緒にいましたが、無事でした。

■夫は事件から20年経った今も現場の部屋を借り続ける

悟さん:
「殺人事件なんて自分の身にふりかかることだとは本当に思ってもなくて。呆然と『何でこんなふうになっちゃったんだろう』と言うしかなかったのは、昨日のようには思い出すんですけども…」

 現場となったアパート。事件後も悟さんは部屋を借り続けていて、当時の状況のまま残しています。奈美子さんは、廊下と居間の間で首などを刃物で刺されていました。

悟さん:
「(奈美子さんは)膝から下くらいが廊下に出ていて、こっち(居間側)にうつぶせで顔を右側にして倒れていまして、胸の下は血だまり。ここ(廊下の壁)に血しぶきが飛んでましたんで、ここ(玄関)の下に犯人の血がついているんですね」

■犯人はB型の女…年齢は現在60歳~70歳か 現場には女の血痕も

 玄関に残る「血痕」。

悟さん:
「この辺が犯人の靴の跡なんですけども。24センチというのが見えるような跡があります」

 犯人は、奈美子さんともみ合いになった際、手に傷を負ったとみられ、足跡も残っていました。愛知県警は目撃情報から犯人を女と断定。血液型はB型で、年齢は現在60歳~70歳くらいとみています。

 悟さんや航平さんも、これまで事件発生の日に合わせビラ配りをし、情報提供を呼び掛けてきました。しかし、ここまで犯人像が絞られているにも関わらず、令和になっても未解決のままです。

 現場となったアパートの前に立つ1人の男性。

元愛知県警捜査一課 岡部栄徳さん:
「遺族の方の人生まで狂わせてしまった犯人には、どうかそれに見合った罰を受けてもらいたい、という思いでずっと捜査してきましたし、今もそう思っています。捕まえられなかったのは悔しい限りです」

 愛知県警元捜査一課の岡部栄徳さん(61)。未解決事件ばかりを扱う「特命捜査係」の班長として、7年間この事件に携わってきましたが、去年3月退職しました。

 発生直後の初動捜査でもカギとなったのは、アパート周辺でも見つかった、犯人のあの「血痕」でした。

岡部さん:
「ダーッと流れておる状態ではなくて、ポタ、ポタ、という感じ。一定のリズムではなくて、トットッとあって、また離れてポッとあってという感じですね」

 路上には、自宅から北東の方向におよそ500メートルにわたって、犯人の血痕が点々と残されていました。しかし…。

岡部さん:
「この辺りから血液の滴下が分からなくなってしまってですね、そこで例えば完全に消えちゃった、止まったよっていう確認ができれば一番よかったとは思うんですけど、そこから先が探したけど探せなかったのか現実に無かったのかってのがわからない」

 血痕は、道の途中で途絶えました。

 当時を知る複数の捜査関係者によると、実は奈美子さんが殺害された日の夜、愛知県警は警察犬を使い、血痕を追っていました。その後、この血痕を一部の報道機関も追い始めたため、当時の捜査幹部が一時中断を指示。

 するとその夜、現場には雨が…。血痕が消え、追うことができなくなったといいます。あの時血痕を調べていれば、あるいは犯人にたどりつけていたかもしれません。

 一方で、岡部さんは捜査で浮かび上がった犯人像についてこう話します。

岡部さん:
「どっかで奈美子さんに逆恨みした、地元で接触のある人物。ただご主人やお友達の方も身内の方も聞いたことない人。それと奈美子さんの慎重な性格、もろもろ考えて奈美子さんと接点のある友人知人の中の一人ではないかなと。ただ奈美子さんよりも年上、どちらかというとお母さんに近いくらい」

 その上で、血痕が消えた先で、犯人が通ったとみられるルート周辺での目撃情報を愛知県警に寄せてほしいと話します。

岡部さん:
「埋もれた情報がいくつもあると思うんです。そこらへんを警察の方へ情報提供いただけると、犯人に結び付くかなと。よりここから先の目撃者の方が出るかなと思いますので、是非協力していただければ」

■自首してくれって言うしかない…解決のカギは採取されたDNA 急転直下で逮捕の可能性も

 事件現場のアパート。悟さんは、今もここで奈美子さんが使っていた遺品を保管しています。

悟さん:
「私もここへ来て、少しずつ手に物を取ると、奈美子が大事にしてたんじゃないかなと思うと、なかなか捨てられなくてですね…」

「事件を風化させないため」そんな思いで借り続けてきた部屋。事件から20年がたち、手放そうとも思いました。

 しかし、大家さんが家賃を下げてくれたこともあり、もうしばらく借りることに…。

悟さん:
「僕らは中途半端な被害者なんで、これが指名手配されていればね、犯人の家族を調べようとか、犯人の住んでたところはどこでとか、いろいろ情報収集するでしょうから。犯人の親に対する恨みとか出てくるでしょうけど。どこでどう育ってということも分からない。ただ女性で(当時)40~60歳って聞いているだけで、本当にそれも正しいか捕まえてみないと分からないですし。自首してくれって言うしかないですよね。出てきて本当のことを喋ってくれとしか言いようがないですよね」

 罪を償うことなく市民に紛れて生活をしている犯人の女…現場からは女のDNAも採取されていて、事件はいつの日か急転直下する可能性もあります。愛知県警西署は情報提供を呼びかけています。(電話番号:052-531-0110)