「名古屋めし」といえば、味噌煮込みうどんにひつまぶし、味噌カツに、きしめん…と、今や多くが全国に知られるメジャーなグルメになっています。

 では「志の田うどん」をご存じでしょうか。知る人ぞ知る名古屋めしとされていますが、どのくらいの認知度があるのか、そして一体どんなうどんなのか、さらに、そもそも本当に名古屋めしなのか、取材しました。

■志の田うどんについて名古屋の人たちはどれくらい知っているのか

Q.志の田うどん、知っていますか?
女性2人組:
「わかんない」

Q.聞いたことは?
女性2人組:
「ない!味噌煮込みうどんしか出てこん!」

別の女性:
「全然わかりませんね。(画像を見て)なんですか?これ。普通のうどんですね」

 40代以上の人たちにも聞いてみても…。

Q.志の田うどんって知っていますか?

男性:
「知らないです」

別の男性:
「味噌煮込みとかってなると、『あっ、名古屋』って思いますけど、普通のうどん」

 やはり知らない人がほとんど。なぜその名前で、ルーツは一体どこに…詳しく探るべく、名古屋で街のうどん屋さんを訪ねてみることに。

■きしめんの有名店「芳乃家」で志の田うどんとは何か尋ねる

芳乃家 二代目・野嶋さん:
「白だしですので、白醤油を合わせてあるだけ」

1.白醤油ベースのつゆ
2.刻んだ油揚げとネギ
3.かまぼこ

 この3つがのった、シンプルなうどんとのこと。食べてみると、とにかくあっさりしていて「すまし汁」っぽい味。本当に、濃厚な味が多い名古屋めしかと疑ってしまうほどです。

Q.どのくらいの頻度で注文がありますか?

芳乃家・野嶋さん:
「1日1杯出ないです。ほとんど出ない…。志の田うどんは、最後に取り残された、最後の名古屋めし」

 マイナーなメニューではあるものの、味の決め手でもある「白醤油」は地元産。さらにこの白醤油は使われているのも東海地方がメインということで、どうやら、名古屋めしということは間違いなさそうです。

 一体いつ頃からあるものなのでしょうか?

芳乃家・野嶋さん:
「うちのオヤジの代から志の田うどんはある。知らずにやってる」

 ある程度の歴史があることは間違いなさそうですが、それ以上詳しいことはわからずじまい。

 手がかりを探るべく、もう1軒すぐ近くのうどん店「手打ちまことや」で取材を続けたところ…。

まことや 二代目・横井さん:
「志の田うどんでテレビ局が来るのは始まって以来じゃないかな。お電話来たときに本当にいいのかしらと思って」

 店のウリは、味噌煮込みうどん。志の田うどんでテレビ局が取材に来るのは初めてとのことでした。

「まことや」の志の田うどんも、見た目は「芳乃家」と変わらず、白だしをベースに刻んだ油揚げにネギ、それとかまぼこ。“志の田うどん”の定番は、このスタイルのようです。

Q.ルーツは?
まことや・横井さん:
「先代の大将が「やろうか」ということで、それでやったというくらいしかないと思う。どうしてやったかというのは分かんない!あるからやったって言うだけ(笑)それ以上のことは…分からん!知らん!」

 分からん!知らん!とバッサリ…。

 やはり謎多き名古屋めしですが、ここであることに気付きました。店の看板メニュー・味噌煮込みうどんを頼んでみると…。

リポーター:
「気づいちゃったんですけど、汁の色は違いますけど、上にのってる具材が…」

まことや・横井さん:
「みんな同じです」

 名古屋めしの代表格・味噌煮込みうどんと比較してみると、味噌と醤油の違いだけで、全く同じ具材を使用していました。

 重要な手がかりを発見しましたが、なかなかそれ以上のことは分からず、名古屋めし専門の研究家 Swindさんに聞いてみました。

名古屋めし専門の料理研究家 Swindさん:
「名古屋めしとしての志の田うどんというのは間違いなく言えるかなと思います」

Q.ルーツは?
料理研究家・Swindさん:
「これがですね、調べてみてもさっぱりわからなくて」

 名古屋めし専門家も詳しく知らないという、まさに“忘れられた名古屋めし”…。

 それでも諦めず、老舗を頼って取材を続行。昭和2年創業、名古屋でも歴史の古い「えびすや」へ。すると、意外な手がかりが見つかりました。

■創業90年以上の老舗で聞いたヒント…出てきた別の地名

総本家えびすや本店 三代目・中山さん:
「(お店が)大阪にあるのは間違いない。マツバヤさんっていう船場のほうに」

 志の田うどんのルーツは『大阪』?

 忘れられたと思いきや、名古屋めしですらないのかもしれないというまさかの展開に…。混乱したまま、大阪の「マツバヤ」へ。

■大阪の「うさみ亭マツバヤ」にあった『信太うどん』

 メニューを見てみると確かにありました。しかしそれは「信太(しのだ)うどん」。読み方は同じですが、字が全く異なります。

 注文してみると、名古屋の志の田うどんと全く違ううどんが登場…つゆの色や油揚げの形も違いました。これは馴染み深い、いわゆる“きつねうどん”のように見えました。

Q.これは、きつねうどんでは?
うさみ亭マツバヤ 三代目・宇佐美さん:
「お揚げが2枚入っているのを、ウチでは信太うどんって言ってます」

 どうやら大阪ではきつねうどんに揚げを1枚プラスしたものを、信太うどんと呼んでいるようです。その味は…。

リポーター:
「あー、甘い!甘いです、汁が。今までの出汁の効いてた汁と違う」

 甘いあげが効いた、まさにきつねうどんの味!

Q.どうして信太うどんという名前に?
うさみ亭マツバヤ・宇佐美さん:
「信太(しのだ)という駅があって、そこにきつねの伝承の神社があって、その場所から名前をとりました」

 ご主人によると、大阪の信太森葛葉稲荷(しのだのもりくずのはいなり)という神社がきつねを祀っていることから、きつねの好物のアゲをプラスしたうどんを、信太うどんと呼ぶようになったといいます。

 どうやら名前は大阪由来のようですが、名古屋の「志の田」とは漢字が異なる理由も宇佐美さんに聞いてみましたが、何かいわれはあると思うというものの、理由については知りませんでした。名古屋の志の田うどんの画像をご主人に見せてみると…。

うさみ亭マツバヤ・宇佐美さん:
「お揚げは入ってますわね。親戚みたいなもんや!」

Q.名古屋の「志の田うどん」を知っていましたか?
うさみ亭マツバヤ・宇佐美さん:
「いや、知りません。初めて…見ました」

 調査の結果、志の田うどんが名古屋めしということは判明。しかし、名前のルーツは実は大阪らしく、また同じ「しのだうどん」でも名古屋と大阪では中身が全くの別物ということまで判明しました。

 そしてその後、名古屋めし専門料理研究家のSwindさんがある説を教えてくれました。

 大阪で生まれた信太うどんは、お隣の京都に伝わった時に舞妓さんが化粧や着物を汚さず食べられるようにと、あげを細かく刻むようになり…

 さらに、東海地方に入って来て名古屋の人になじみ深い白醤油のダシに変わったのではないかという説があるということです。