今や全国的にも知名度がある東海地方の「モーニング」。どこも豪華ですが、中でも愛知県一宮市のモーニングは群を抜いています。果たして、なぜ豪華になったのか調べました。
■街で次々名前が挙がる店…目玉は大きな「サイコロトースト」
まずは一宮駅前で地元の方に“豪華なモーニングのお店”を聞いてみました。
女性:
「クローチェ」
男性:
「クローチェとか結構有名ですね」
別の女性:
「クローチェ!クローチェ!クローチェはすごい、すごい!」
「クローチェ」というお店の名前が次々と挙がりました。
また別の女性:
「有名ですよ。結構女性に人気で、それこそ本当に1斤のパンの半分くらいかな」
相当大きなパンがついてくるとのこと。どんなものなのか、実際にそのお店へ。
広い駐車場には車がびっしり!待っている方もいました。店内へ入ると、広い店内はほぼ満席。
皆さんモーニングを楽しんでいるようで、同じく注文してみました。
頼んだのはアイスコーヒー(450円)だけですが、そこに大きな塊のパンとスープとサラダ。これはお得感があります。
街の女性が言っていた大きなパンというのは、“サイコロトースト”のこと。それにスープとサラダも付いていて、評判になるのも納得です。
実際にサイコロトーストをいただくと、やわらかくてモチモチ。量があり、食べ応えがあります。これだけでメニューになりそうなところ、サービスで付いてくるのが『一宮』です。
しかし、何故ここまで豪華にしたのか、オーナーに聞きました。
店主 伊藤直記さん:
「美味しいものを作って喜んでもらいたいのが一番。そのままだと美味しさが閉じ込められているので、1個を割って食べる贅沢感がいいよね、みたいな。たまたまボリュームが多かっただけで、基本的には美味しいものをと考えていますね」
とはいえ、採算は合うのでしょうか…。
伊藤さん:
「採算度外視でやっている部分はあります。朝の5時半には来て、夜の7時とか8時とかまでやるので、自分が作るから原価を抑えられているというのは間違いなくあります」
自分が朝から晩まで働くことで、コストを抑えていました。お客さんのためとはいえ、頭が下がります…。
さらに一宮のモーニングをリサーチしようと、オーナーの知る豪華なモーニングを出すお店を聞きました。
伊藤さん:
「メールネージュさんとか。メールネージュさんは昔の『モー1グランプリ』で金賞を2回とっているので、『The一宮モーニング』の代表ですね」
■モーニングサービスNo.1を決める「モー1」で2年連続グランプリ
一宮のモーニングを代表する有名店ということで、今度はその「メールネージュ」を訪れると、こちらも駐車場が埋まっていました。
白を基調としたおしゃれな店内には、大勢の女性客がいました。
人気は「フレンチトーストのモーニング」。過去に行われた一宮のモーニングサービスを競い合うイベント、『モー1グランプリ』で2年連続グランプリを受賞。まさしく一宮を代表するお店です。
そんな中、一風変わったモーニングもありました。
店主 遠藤由香里さん:
「テイクアウトをできるように考えました。持って帰って、どこかでモーニングサービスを食べるっていう不思議な感覚ですけど」
そのテイクアウトモーニングは、ドリンクに、自慢のワッフル生地に特製きんぴらごぼうを挟んだワッフルバーガーが付きます。お客さんの事を考えてテイクアウトにしたそうです。
遠藤さん:
「土日はお客様にお待ちいただく場合が多いので、お忙しいから次の事の間に食べられるよう持って行ってもらえるサービスができたらいいなということを考えて。皆さんが少しでもお得に楽しくモーニングサービスが食べられるようにと考えたのがテイクアウトです」
ついにモーニングサービスをテイクアウトする時代に。想像以上に一宮モーニングは進化していました。
遠藤さん:
「小さい頃からモーニングサービスってこういうものだと思って育っているんですよね。一宮といえばモーニングが文化。『おもてなしの文化』なので、楽しくみなさんが喜んでいただけるようにということですね」
モーニングは一宮の文化。だからその文化を絶やさぬように手間を惜しまないのだといいます。
■朝昼晩も関係ない…1日中モーニング!原動力は「喫茶店を次の世代に」
さらに一宮市を取材していると、気になるお店を見つけました。【1日中モーニングサービス】と書かれた看板を発見。
すでに午後でしたが、モーニングサービスを注文できるのでしょうか、訪れたのは「ありすかふぇ」。
Q.1日中モーニングは今の時間(午後)も?
ありすかふぇ マスター坂本龍基さん:
「そうです、1日中同じサービスを受けられますよって。うちはずっと閉店まで」
それだけではありません。メニューを見ると「一日中モーニングメニュー」の数がすごいことに。
その数、実に20種類!おにぎりにサンドイッチ、トーストだけでも9種類ありました。しかも、どれを頼んでも、お味噌汁が付いてきます。
常連客は、このモーニングをフル活用していました。
常連客:
「このおにぎりは夜にまわすの。一人暮らしだで」
別の常連客:
「これはお持ち帰り。これはお父さんのおみやげ」
サービスで付いたモーニングを家に持って帰るなど、生活の一部として欠かせない存在となっていました。
さらにすごいサービスが、食べきれない程のボリュームの『ありすセット(650円)』。もはやモーニングの域を超えています。
坂本さん:
「これは(種類が多くて)『迷うよ』っていうお客さんに。好きな物を3つ選んでもらって、若い方はモーニングをおかわりしたいという要望があったので、1皿で足りるようにしようと。お昼も食べられる方もたくさんいらっしゃいます」
お客さんの要望に応えようとしたら、こんなに豪華になってしまったそうです。何故ここまでするのでしょうか?
坂本さん:
「昔ながらの喫茶店は減っていっているので、幅広い世代に、次に繋げたいなと思って、おじいちゃんが孫を連れてきてもらったり、若い人にも来てもらえるように、どうすればみんなに喜んでもらえるかな…という想いだけでやっています」
一宮のモーニング文化を次世代に繋いでいきたい…そんな想いがありました。
■一宮のモーニングが豪華になった理由…「繊維の町で新しい名物を」
もう少し「なぜ豪華になったのか?」をはっきりさせたい…と向かったのが一宮商工会議所。一宮のモーニングを全国にPRする活動をしています。
その活動に初期から携わっている森さんに、なぜ一宮モーニングがここまで豪華になったかを聞いてみました。
一宮モーニング推進委員会 森副委員長:
「12年前に一宮市の知名度をもっと上げて全国にPRしようと、一生懸命いろんな企画を考えていました。その時、モーニングサービスという一宮独自のたぐいまれな食文化ということに改めて気がつきました」
高度経済成長期、一宮は“繊維の町”として栄えました。
そして時代は平成へ。商工会議所は「繊維以外でも一宮の名前を全国に広められないか」と熟考。お土産で名を広めようとも考えましたが、一宮市で最も文化として根付いているのが、『モーニングサービス』だと結論付けました。
森さん:
「これを全国に売り出そうということで『一宮モーニング』と名前を付けて全国にPRしようと」
2007年、商工会議所の青年部が「一宮モーニング博覧会」というイベントを開いて盛り上げを図ろうとすると、その2年後、市全体でも後押ししようと「一宮モーニング協議会」を設立。次第に県外からも注目を集めるようになりました。
すると、各喫茶店もサービスの向上に努め、気付けば豪華になっていったのです。
森さん:
「皆さんがそれぞれの個性・こだわりを持って、切磋琢磨してバリエーションが非常に多くなりました。これが傍からみると、“豪華”ということに繋がっているのかなと思います」
つまり、市を挙げての「モーニングを名物に」という動きに、各喫茶店のモーニングに対するプライドが呼応し、現在のような豪華なサービスへと成長を遂げていたのでした。
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