新型コロナウイルスは、「目に見えない壁」を作り出しました。その壁によって会いたい人に会いたくても会えない、そんな現実が立ちはだかっています。
多くの高齢者福祉施設などでは、入所者と家族の面会を感染防止のため制限しています。コロナ時代の家族の絆を取材しました。
岐阜市にある特別養護老人ホーム・喜久寿苑です。
タブレット端末を通して孫と会話するのは砂山フジノさん、106歳。3か月ぶりに顔を見ながら会話をします。
砂山さん:
「お魚が食べたい」
孫:
「行けるようになったら持っていくでね。ちゃんと元気で待っとってーよ」
束の間の面会…。
孫:
「じゃあね、ばあちゃん。バイバイ」
砂山さん:
「(手を振りながら)バイバイ。ありがとう」
職員:
「(砂山さんが)涙が出てきてまった。また会えるで大丈夫、ね!」
この施設では新型コロナウイルスへの感染を防ぐため、2月半ばから外来者との面会を中止。入所者は家族とすら会うことができません。
そこで5月から始めたのがSNSのビデオ通話。触れ合うことはできませんが、それでも相手の表情を見ながら話すことはできます。
砂山さんの孫:
「顔が見れて嬉しかったです。ほっとしました。長いこと顔も見れなかったのでね、コロナのせいで。でも元気そうで良かったです」
ひとたび施設内で感染者が出ると、集団で広がるリスクを抱える高齢者福祉施設。外部からウイルスを持ち込まないための面会制限は必要ですが、引き換えに入所者の気持ちを犠牲にしなければなりません。
心の健康を保つために腐心するのは、砂山さんたちだけではありません。
岐阜市内に住む竹中候夫さん、81歳。認知症を患う妻は、2年前から喜久寿苑で暮らすようになりました。
妻・千秋さんが認知症を発症したのは15年ほど前。当初は自宅で介護を続けていましたが、次第に会話もままならないほどになりました。
千秋さんが喜久寿苑に入ってからも、竹中さんはほぼ毎日会いに行っていましたが、新型コロナウイルスはそれを妨げます。
竹中さん:
「会えないということはこちらもストレスですけど、おそらく向こうも、会ってもいい顔もしないけれど、おそらく認識はしてるから、なんで来ない(と思っている)」
妻を思う気持ち。施設側も、何とか夫婦に寄り添った対応をと考えていました。
竹中さん:
「お~い、分かるか?千秋さん!」
ガラス越しの再開、千秋さんの姿がありました。
竹中さんは携帯電話を使い、繰り返し妻の名を呼びます。
竹中さん:
「千秋さん、おーい。千秋さん、分かるか?おーい」
窓ガラスに顔を付けるようにして妻に話しかけます。何より、竹中さん自身が嬉しそうです。
竹中さん:
「ありがとうございました。元気な顔だけ見れただけでもね」
面会は10分ほどでしたが、竹中さんが帰ろうとすると…。
竹中さん:
「(玄関まで来た千秋さんに向かって)あ、いい顔しとる。どういうこっちゃ。さいなら、またね」
竹中さん:
「言葉がしゃべれないし、声が聞こえているのか分からないから、本当はやっぱりああやって会いたい。本当は体にも触ってやればもっとよく分かるんですよね。そういうことができないのはコロナのせいだからしょうがないけれど。たとえガラスがあったとしても、そこにいて息遣いまで感じられる」
目に見えないウイルスが作ってしまった壁。高齢者福祉施設で家族との交流をいかに実現させるのか、試行錯誤が続いています。