岐阜市で、中学3年の男子生徒がいじめを苦に自殺した問題から7月3日で1年です。この問題では、いじめを訴える子供たちからのメッセージが見過ごされ、学校側の対応の不十分さが明らかになりました。

いじめを巡る課題を解決するため、岐阜市が新たに導入した「いじめ対策監」という教師。その現場に密着しました。

■1人の中学生の自殺がきっかけに…いじめ対策の“専門”監

 岐阜市立長森南小学校。足早に教室に向かう一人の男性教師。授業が終わると…。

いじめ対策監の大塚先生:
「ちょうどいいや、ちょっとおいで」


小学6年のある男子児童に話しかけます。

大塚先生:
「心のアンケートでさ、(あだ名)のこと書いとったやろ。まだ言われとるん?」

男子児童:
「まだ言われてる」


大塚先生:
「誰が言うんや?どうしてやろう?」


話していたのは、男子児童が「友達からあだ名で呼ばれ、悩んでいること」について。

実はこの教師、教壇には立たずいじめ対策だけを行う、「いじめ対策監」です。

大塚先生:
「事実をつかんだ段階で、本人としてはすごく重要なことになっていると思うんです。スピード感は大事にしていきたいと思っています」


■“見過ごされたSOS”…いじめ対策監配置のきっかけとなった1年前の自殺問題

 今年度から、岐阜市立の全ての小中学校に配置された「いじめ対策監」。そのきっかけとなったのは、去年7月、岐阜市のマンションで中学3年の男子生徒が飛び降り自殺した問題です。

自宅から見つかったメモには…。

<男子生徒(自宅メモより)>
「自分が死ねば、(同級生の名前)が反省するかな」

第三者委員会の調査でわかった同級生からの「いじめ行為」は、「トイレで土下座をさせる」「ビンタする」など合わせて34件にものぼりました。

 そして、この「いじめ自殺」であきらかになったのは、学校の杜撰な対応でした。男子生徒が亡くなる1か月ほど前。同級生の女子生徒が担任教師に渡した、一枚のルーズリーフ。

<女子生徒のメモ>
「本当は言いたくないけど、○○君が心配です。私も一緒に戦います。先生、力を貸してください」

男子生徒が受けていた、複数のいじめ行為を訴えるものでした。しかし担任教師は、男子生徒に聞き取りをしただけで「問題は解決した」と判断。学校で情報を共有せず、メモを処分していました。

 さらに男子生徒が自殺する2週間ほど前にも、別の同級生が、学校のアンケート調査でいじめの事実を訴えます。

しかしすぐに対応はせず、男子生徒への聞き取りが行われたのは、アンケートの2日後の19日。

その後のケアはしていませんでした。

■担任も授業もなし…「いじめ対策」に特化した“専門”監の配置で対応が迅速に

 いじめを激化させる大きな要因となった学校での「情報共有不足」と、対応の遅れ。この問題を解決するため、岐阜市が決めたのが「いじめ対策監」の配置でした。

いじめ対策監の大塚芳樹先生。7月1日、児童から集めたアンケートに目を通していました。

大塚先生:
「○○君って分かる?ここに書いてあるで、ちょっと気を付けてあげるといいかな」

「嫌なあだ名で呼ばれている」という男子児童の訴えを見つけると、すぐさま本人に直接話を聞きに向かいます。

大塚先生:
「ちょうどいいや、ちょっとおいで。心のアンケートでさ、(あだ名)のこと書いとったやろ。まだ言われとるん?」

男子児童:
「まだ言われてる」

大塚先生:
「誰が言うんや?」

男子児童:
「5年生の女の子」

大塚先生:
「それ、どうしてほしい?」

男子児童:
「もう二度と言わせない」

大塚先生:
「っていう風に先生から言ってやろうか。分かった。じゃあ、調べておくわ」

男子児童の思いを受け止め、嫌がるあだ名で呼んだ児童への聞き取りをすぐに行うことを決めました。この「対応の早さ」こそが、「いじめ対策監」の重要なポイントだといいます。

大塚先生:
「何か事案があったときに、フットワークがすごく軽くなりました。この授業やらなきゃいけないという任務があれば、天秤にかけてしまうんですよね。そういう必要がなくなったので、早期対応ができております」


クラス担任や授業の受け持ちがない「いじめ対策監」。

大塚先生も、以前は生徒指導主事を務めながら、週に18コマの授業をしていましたが、対策監として「いじめ問題」だけに取り組むことで、より迅速な対応ができるようになりました。

■生徒や教員からより多くの情報が寄せられるように…いじめ対策監の配置で相談相手が明確に

 他にも効果がありました。いじめの問題を誰に相談していいかはっきりしたことで、教員や児童から、より多くの情報が寄せられるようになったといいます。

5年目の担任教師:
「クラスのトラブルとかあったら相談すればいいというのは、分かりやすくなったと思います」


別の5年目の担任教師:
「何か困ったときには、いじめ対策監の先生に声をかけることによって、手が回らないところのサポートをしていただける。ありがたいです」


大塚先生:
「(情報を)つかんだ段階ではもう、本人にはすぐに対応して欲しいという思いがあるからだと思うものですから。その期待には応えなければいけないというのが、われわれの責務だと思っております。こんなものだからいいやとか、それを我々が判断することではないと思います。やっぱり顔を見て話しを聞くことが、そうなってくると必要になると思うので」

 少しずつ変化を見せ始めた、岐阜市の教育現場。2度と「いじめ」の悲劇を繰り返さないために。試行錯誤は続きます。