新型コロナウイルスの影響で夏の甲子園が中止となりましたが、各地域では独自の地方大会が開かれています。愛知県の大会に出場している愛知黎明高校の金城孝夫監督は、甲子園で優勝経験もある名将です。

子供たちの夏の甲子園の夢が絶たれた今、目指しているのは「心を育てる野球」です。

■朝は“校内の清掃”に“読書や勉強”…名将の「心を育てる野球」

金城監督:
「甲子園が中止になったけど先生の方針は、チーム内競争でよりベストのメンバーを選んで戦いに行く。甲子園が無くなったから、特別に3年生だけの大会にする、これ考えたこともありません」


 甲子園という大きな目標を失った高校球児にこう話すのは、愛知黎明高校の金城孝夫監督、66歳。沖縄尚学高校の監督として、甲子園優勝の経験もある名将です。

去年4月母校に戻り、この夏、生徒の「心を育てる野球」で愛知の頂点を目指します。

 弥富市にある愛知黎明高校。野球部では朝、掃除の時間を設けています。

野球部員:
「野球以外のことでもしっかり細かいところに目を配りながら周りをみてやることで、野球にも生かしていけると思っている。そういうところに関して、掃除は大切だと思います」

さらに掃除の後は、図書室で読書や勉強の時間です。

金城監督:
「野球は感性のスポーツだから、感性を磨くために読書。それがやっぱり、テストが近づくとテスト対策もしないといけないから、勉強会に置き換えているということですね」


■新天地で成し遂げた念願…甲子園出場を逃し続けて気づいた“意外な効率”

 金城監督は中京大学を卒業後、愛知黎明高校の前身、弥富高校で監督に就任し、20年にわたり指導。あと一歩のところで甲子園出場を逃し続けていました。

金城監督:
「(弥富高校監督当時は)夜11時、12時まで練習をしても勝てない…。練習は嘘をつかないかもしれないけど、(長時間練習すると)練習をやる子供が嘘をつく、というか手抜きをする。そうすると効果が上がらないということに気づいて、それだったら嘘をつかない、人間性の豊かな子を育ててから、野球を教えたほうが早いんじゃないかなって」

 転機となったのは、故郷・沖縄での監督就任でした。ここで今の指導の原点である「心を育てる野球」に重きを置いた指導に方針を切り替えました。

すると監督として初めてチームを甲子園へ。沖縄県勢初の優勝を果たし、これまで春夏あわせて6度、甲子園へ導いています。

■「悪いところは悪いと言えるのが本当の良いチーム」…去年4月に母校の監督に復帰

 65歳で引退しようと考えていた金城監督でしたが、ここ数年低迷したチームを立て直してほしいとOBから強い要請があり、去年4月に監督に復帰しました。

大会を1週間後に控えたこの日、練習試合で9失点と投手陣が打ち込まれました。

主将:
「自分たちでやらないといけない部分は多いと思うので、ピッチャー陣は。意識を高く持ってやってもらいたい。他、いい?大丈夫?」

黙って聞いている選手に監督は…。

金城監督:
「なんで(何も)言わないの?嫌われても言ってでも、悪いところは悪いと仲間同士で言えるのが、本当のいいチームだと思う。勝つ可能性を高くするために、なんで言いにくいことを言わないの?自分たちの3年間を考えてみろ。やっぱり頑張った分は報われなきゃ。この1週間で技術だけじゃなく、そこらへんも作り上げてくれ」

 大会に臨むメンバー選びにも強いこだわりがありました。

金城監督:
「7番早川、人間性で買った」
「8番鈴木拳太、激しくな、プレーは。優しさだけでは勝てんぞ」
「15番城、何で重たい番号か、よく考えろ」

「選ばれたら責任を感じてそれをどう生かすか、外れたらその悔しさをバネにしてどう生かすか。嫌な思い苦しい思いを経験することも、長い人生で大きくプラスに切り替えることができる。全て、これからの人生に結びついてきますから」

数日後、メンバーから外れた3年生が下級生に交じってグランド周りの整備をしていました。その中の1人は…。

グランド整備にあたっていた3年生の部員:
「全員のためにという気持ちをもって、環境を整えています。この悔しさをバネにして、社会に出てからもこういう場面があると思うので、その場面では勝てるように頑張っていきたいと思っています」


■「まだ選手らに勉強させられる」…始まった夏の大会 初戦から波乱の幕開け

 迎えた大会当日、初戦の相手は県立小牧高校。5回まで両チーム無得点でしたが、6回表に守備のミスが重なり、3点を先制されます。その直後の円陣で金城監督は…。

金城監督:
「いかに自分たちが切り替えて、練習してきた力をどう発揮するか。10じゃなくて、7か8あったら楽に勝てる。まだ半分も出していない。まだイニングがある、慌てる必要はない。やるべきことをしっかりやって」


金城監督の言葉で、気持ちが楽になったという選手たち。すると6回裏に同点に追いつき、延長でサヨナラ勝ちしました。最後の大会、追い込まれた状況下での大逆転勝利。試合を終えて金城監督は…。

金城監督:
「ある意味で、まだ選手らに勉強させられるのかと。悪いなりにも(昨夏の新チームから)1年間それなりにやってきましたから、それが最後に出たのかなと思っています」

 金城監督のもとで心を鍛えてきた愛知黎明の選手たち。この夏、監督と共に愛知の頂点を目指します。