全身の筋肉が動かなくなる難病、「ALS」の患者で、安楽死を望んだ女性を殺害したとして医師2人が逮捕された事件。ALSと闘う岐阜市の男性に思いを聞くと、ALSの患者が命の選択を迫られてしまう課題が見えてきました。
■ALS患者で元FC岐阜社長の恩田さん「大切な人が延命治療対象になっても同じことが言えますか」
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サッカーFC岐阜の元社長・恩田聖敬(さとし)さん、42歳。全身の筋肉が動かなくなる難病「ALS」の患者です。
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人工呼吸器をつけているため、言葉を発することができない恩田さん。まず、ヘルパーが「あ・い・う・え・お」と母音を読み上げ、恩田さんは表情で合図して止めます。
次に、ヘルパーは「お・こ・そ・と・の」と横に読んでいき、伝えたい言葉を一文字ずつ選んでいくのです。
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今、恩田さんは「ある事件」に心を痛めています。
恩田さん(ヘルパーが代読):
「ついに起きてしまったと感じました。無念でなりません」
7月23日、京都府警に逮捕された医師の大久保愉一容疑者(42)と山本直樹容疑者(43)。2人の容疑は「嘱託殺人」です。
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去年11月、ALS患者の林優里さんの依頼を受け、薬物を投与して殺害した疑いが持たれています。
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逮捕された2人は林さんの担当医師ではなく、SNSを通じて知り合ったとみられていて、山本容疑者の口座には林さんの名義でおよそ130万円が振り込まれていました。
大久保容疑者は宮城県でメンタルクリニックを経営していましたが、延命治療を受ける高齢者などをたびたび「ゾンビ」と表現していました。
<大久保容疑者のものとみられるブログ>
「もう見るからにゾンビとなって生きているので痛々しいしですし、こういう人に医療行為を続けるのもためらわれる」
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Q.逮捕された医師は、延命治療の患者はゾンビ発言をしていました
恩田さん:
「思想は個人の自由ですが、もし自身や自分の肉親など大切な人が延命治療対象になっても同じことが言えますか?躊躇なく殺せますか?と問いたいです。私もALSになったからこそ当事者としての思いを語れていますが、もし健常者のままだったら本件を重く捉えなかったかもしれません」
■恩田さんは「無念」…「生き地獄」から解放されたい思いは理解示すも「死しかなかったのか」
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岐阜県山県市出身の恩田さん。2014年、FC岐阜の社長に就任。ALSを発症したのは、それから1年も経たない頃でした。
恩田さん(2015年):
「私は、通称ALSと呼ばれる筋萎縮性側索硬化症を発症しています」
まだ自分の声が出せる時に、病気を告白した恩田さん。
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そこから病状は次第に悪化し、2018年からは人工呼吸器をつけた生活になりました。自分と同じ病気の女性が自ら死を望んだ今回の事件、恩田さんの思いは…。
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恩田さん(ヘルパーが代読):
「ついに起きてしまったと感じました。ALSと共に生きることはたやすいことではないと、1人の当事者である私は理解しています。本件の患者様の生き地獄から解放されたいという思いは心底わかります。しかしながら、生き地獄から解放される手段が「死」しかなかったのか?命を保ちながら彼女の心のケアをする選択肢はなかったのか?そう考えると無念でなりません」
「生き地獄からの解放」という表現を使った恩田さん。殺害された林さんも、生き地獄を味わっていたのでしょうか…。
<林さんのツイート>
「安楽死させてください」
林さんのツイッターには、以前から「安楽死」についての書き込みがありました。
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そこには大久保容疑者とみられるアカウントとのやりとりも。
<大久保容疑者からとみられる返信>
「作業はシンプルです。訴追されないならお手伝いしたいのですが」
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<林さんのツイート>
「『お手伝いしたいのですが』という言葉が嬉しくて泣けてきました」
林さんの父親は…。
林さんの父親:
「こんなつらい病気を抱えて、自分の意志でアクションできない体だったら、いっそね、安楽死したいと。それをずっと計画していたように思いますよ」
■音楽が好きだった女性「自分も家族も忍びない」…ALS患者が「生死の選択」に迫られる時
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これまでに20人ほどのALS患者を診てきた、名古屋市中区にある「本町クリニック」の服部優子副院長。ALS患者の中に安楽死を望む人がいる背景には、その症状が深く関係していると言います。
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服部副院長:
「だんだん手足、呼吸の筋肉、嚥下する筋肉が悪くなっていくので、1か月前にできていたことができなくなったりすると、やはり不安ですよね」
現在、国内におよそ1万人の患者がいるといわれるALS。効果的な治療法は見つかっていません。
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服部副院長:
「だいたい(発症から)3年から5年で呼吸筋の障害が出てきて、呼吸器をつけないといけない状態になります。人口呼吸器をつけるかどうか自己選択というか、いわゆる『生死の選択』をしなければならない」
ALSは、病状が進行すると呼吸障害が起こり、生きていくためには恩田さんのように人工呼吸器が必要となる場合がほとんどです。
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人工呼吸器をつけて生きることを選ぶのか、それとも、人口呼吸器を付けずに死を選ぶのか。人工呼吸器をつけない選択をした患者はおよそ7割にのぼると言われています。
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服部副院長が演奏する曲、「私の秋」。作詞作曲をしたのは愛知県春日井市の、林いつこさんです。
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家族やヘルパーに囲まれて歌う、いつこさん。服部副院長が訪問診療を行っていたALS患者です。音楽が好きで、自分で作詞や作曲もするほどでした。
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服部副院長:
「この方もすごく音楽が好きだったんですけど、もちろんやっぱり手が動かなくなってピアノが弾けなくなって、ただ、何とか声は出たんですね。進行がゆっくりで、まだ人工呼吸器をつける状態ではないという感じだったが、その方はつけないと決めていた」
「回復の見込みがなく、これ以上苦しむのは自分も家族も忍びない」という理由から、人工呼吸器をつけないと決めていたと言います。2018年、呼吸困難になった いつこさん。意志を貫き、66歳で亡くなりました。
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服部副院長:
「本当に命を終わらせたいのかどうかっていうのはなかなか難しい問題。(他のALS患者にも)生きがいとかを一緒に考えてあげられるような人を作ってあげたいなと思います」
■「死を考えたことない」…元FC岐阜社長の恩田さんは「生き地獄から解放されて生き続ける」
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ALS患者で、2018年に人工呼吸器をつける選択をしたFC岐阜の元社長・恩田さんは、「私は死ぬのが一番怖いので死を考えたことはありません。本件で直ちに安楽死そのものの是非の議論をするのは性急だと思います」と意思を示しました。
「死を考えたことがない」という恩田さん。症状が進み、FC岐阜の社長を退任した後も、スタジアムに観戦に行ったり新しい会社を立ち上げたりとアクティブに生きています。
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自分で文章を入力することもできる恩田さん。空気が流れているセンサーを口にくわえ、それを噛むことでiPadのキーボードを指定し、時間をかけて1文字づつ入力しています。
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この方法で、日々ブログを更新していて、今回の嘱託殺人事件についても書いていました。
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<恩田さんのブログより>
『生き地獄を味わいながら生き続けるか、生き地獄から解放されるために死ぬか?』
二者択一だとALSという病気は世間から思い込まれています
私は2つの選択肢は選ばず、『生き地獄から解放されて生き続ける』選択肢を選びます
彼女の周りに一人でも『第3の選択肢』を本気で提案する人が居れば結末は変わったかもしれません
人は誰もが明日には障害者になる可能性を秘めている
私も何の前触れもなく ALSを発症した
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望んで障害者になる人などいない
今元気なあなた、もし ALSになったら、躊躇なく死を選べますか?