重症者の治療に欠かせない人工肺装置=エクモ。重症者が増える中、かつてエクモによる治療を経験したという男性を取材すると、医療現場が抱える新たな課題が見えてきました。
苦しそうに咳き込む男性。機械から伸びた複数の管が体に繋がっています。蒲郡市の杉浦光行さん、66歳。
5年前「敗血症」になり、3週間にわたり意識不明の状態になりました。
杉浦さん:
「気が付いたら両手両足が縛られた状態で、僕はエクモという機械でもって、命を助けてもらったんだな」
杉浦さんを救ったのが人工肺装置=エクモ。人間の「肺」の代わりとなり、人工呼吸を行います。新型コロナの重症者の治療にも重宝される、まさに最先端医療です。
愛知県豊明市の「藤田医科大学病院」。今年2月には、ダイヤモンド・プリンセス号で新型コロナに感染した患者を受け入れました。
現在は重症者の治療にエクモを活用しています。その治療にあたるのが、中村智之医師です。
中村医師:
「間違えてはいけないのが、エクモをすれば病気が治るというわけではなくて、エクモはあくまでも対症療法。肺がうまく機能しないときの、肺の代わりをしてくれる機械になります」
コロナの感染者が重症化して呼吸困難に陥った場合、まずは「人工呼吸器」を装着。「人工呼吸器」は肺に圧力を加えて動かすため、コロナで傷んだ肺をさらに痛めつけてしまう恐れがあるといいます。
中村医師
「人工呼吸器では肺が持たない、肺を痛めすぎてしまうと判断した場合に、エクモで本来肺が行うべき酸素を吸って二酸化炭素を吐き出すということを、体の外で行うということになります」
感染者の体から管で血液を取り出し、エクモで血液に酸素を吹き付け、二酸化炭素を飛ばします。その綺麗な血液を、体内に戻しています。
中村医師:
「重症な時期に、いかに肺にダメージを蓄積しないように管理をするか。エクモは最終手段であって、肺を休ませてあげる、休んでいる間に患者さんの肺が自分の力で良くなるまでの時間稼ぎ」
コロナウイルスにおかされた肺の状態が良くなるまでの間、エクモの治療が効果的といいます。いわばエクモは、肺に負担をかけない人工呼吸器です。
5年前に「敗血症」でエクモ治療を受けた杉浦さん。現在は自ら経営するリサイクル工場で、元気に働いています。
杉浦さん:
「(首の痕を見せながら)分かります?ペンぐらいの太さ(の管)です」
エクモの治療では、死への恐怖を感じたといいます。
杉浦さん:
「常に(病室を)出るときもエクモの機械を持っていって検査をするとか、もしそのパイプが外れたら私の命はなくなっちゃう。肺の代わりをしているので、人間は空気を吸えない、息をしなくちゃ死んじゃうんで。その命綱というのですごく怖い思いをしたことがあります」
エクモに万が一不具合があると、体に血液が行かなくなり、死に繋がる危険性があります。そのため、24時間体制でモニターなどの監視が必要です。
訓練をする医師ら:
「エクモのフロー(流れ)が落ちています。回路確認します。エアー(気泡)来ています」
藤田医科大学病院で医師と看護師らが行っていたのは、エクモのトラブルを想定した訓練。血液が通る管が体から抜けたり、管に血液が詰まったりした際の対応を確認します。
中村医師:
「長期間の治療になるので、優れた医者1人でできるようなものではないので、みんながエクモのことについて精通していないとできない治療になります」
次第に重症患者が増えている新型コロナウイルス。エクモを管理できる医療従事者を増やすことも、今後、重症者を救う鍵となります。
藤田医科大学病院の岩田救命救急センター長:
「当初は20代30代の入院依頼が多かった。それが現在の入院依頼は高齢者たち。そのうちの一定の割合の方は重症化してくるということは、エクモが必要な患者さんが県内で増えてくるのではないかと、すごく懸念しています」
藤田医科大学病院によりますと、日本のエクモ治療は1施設で年間1,2例で、欧米では1施設で年間およそ100例があるといいます。
また、日本にエクモに精通している医師は60人ほどしかおらず、医療従事者の確保や治療の訓練が急務ということです。