かつては“形見分け”で大切に引き継がれた遺品。最近は核家族化が進み、処分という形になる事が多いようです。そんな中、注目されているのがアメリカ発祥の『エステートセール』。

プロと共に行う生前・遺品整理のことで、物と一緒に心も整理するという日本版エステートセールを取材しました。

■処分していいのか…思い入れがあるモノだからこそプロと一緒に

依頼した女性:
「これを売ってしまっていいものなのか、どうか…」


 遺品整理をしているのは、かつてこの部屋で1人暮らしをしていた女性の娘夫婦です。亡くなったのは去年の秋でしたが、離れて暮らしていたため、なかなか部屋を片付ける事ができずにいました。

日本エステートセール協会 堀川一真代表理事:
「味がありますね、この辺(のお茶碗)はお母さんが大事に持っていらっしゃった?」


依頼した女性:
「そうですね。一通り全部見たんですけど。この数を持って帰っても使いこなせないので、使ってくれる人に」

堀川さん:
「じゃあ(売りに)出してみますね」

プロとともに片付ける遺品。「エステートセール」と呼ばれる新しい形の整理法です。

依頼した女性:
「思い入れがあって処分ができない。捨てられないものがあるので、それは(プロに)お願いしようと」

■「間違いなくこれ海外向けですね」…遺品整理で光る目利き

 アメリカで1970年代に広まった生前・遺品整理のエステートセールは、暮らしていた家を公開し、家財一式を売ってしまうスタイルで、日本エステートセール協会の堀川一真さんが2年前、日本に紹介しました。

 本場アメリカでは多いと1000人もの客が家にやって来る事もあるそうですが、日本の住宅事情などを考えると、このまま導入するのは困難。

そこで、堀川さんが考えついたのがインターネットでの販売です。しかも日本ならではのやり方があるようです。

 堀川さんが、食器棚から取り出したのは陶器の人形。

堀川さん:
「手描きの博多人形。素敵です。間違いなくこれ海外(向け)なんですね」

他にも、ひな人形に将棋の駒、碁石と碁盤も見つかりました。こうした日本の古いものは、ジャパニーズアンティークとして海外のコレクターに人気が高いのだそうです。

実際、こちらの日本人形は、ロシアの女性に35ドル、およそ3750円で売れています。

他にも漆の重箱は40ドル、およそ4300円でオーストラリアへ。

茶道具はアメリカの女性に100ドル、およそ1万700円で売れました。

 一方、国内で人気なのは抹茶茶碗などの陶器。

堀川さん:
「さすがですね、この辺の焼き物ですよね。犬山焼かな、この地方独特の美濃の織部焼。素晴らしい」

 古くからの陶磁器の産地が多い東海地方は、そうとは知らずに良い物を持っているお宅も多いんだとか。意外なお宝が眠っているかもしれません。

 ちなみに国内外問わず人気のモノも…。

堀川さん:
「ちょっと昔の作り、昭和の非常にレトロなミッドセンチュリーのにおいがする。これはすごい素敵です。これは国内に出してみようと思います。よろしいですか」

ミッドセンチュリーとは1940年代から60年代にかけアメリカで生まれたデザイン。シンプルで機能的なことから世界中にファンがいるといいます。これはプロの眼でないと見落としてしまっていたかもしれません。

■単なる不用品処分にしない・・・会話をしながら“心の整理”も

 そして、ここからが日本版エステートセールのポイント。お母さんが弾いていたという琴を見つけた堀川さん。

堀川さん:
「お琴を弾いてらっしゃるところを見たことは?」

依頼した女性:
「小さい時1回くらい。でもずっと家にあったのは知ってました。記憶はずっと残ってます。珍しいものなので」

思い出話を交えつつ依頼主との会話を重視しながら進めます。

依頼した女性:
「捨てるのは、やはり…」

堀川さん:
「できませんもんね」

堀川さん:
「日本では何が違うかというと、“物=心”。物ではなく、お客さんの心に向き合うっていう形なんですね」


 思いを聞き出すことで、物と一緒に心も整理されるようにするのが、普通の不用品買い取りと違うところです。

■これは手元に置いてください…手放さないよう示唆することも

堀川さん:
「これはノリタケ。ノリタケが1990年くらいに現代の技法でオールドノリタケを再現したものなんです。これ飾って下さい、是非。コレクションに」


 品物によっては手放すのをやめるよう、アドバイスすることもあります。価値を知り、手元に置いて大事にしてもらうことが理想だという堀川さん。

堀川さん:
「単なる不用品を販売するという作業ではなく、お客さんの心を前向きに、思いをちゃんと伝達できるように」

 終わりがけには、珍しい一刀彫の観音像も出てきました。

依頼した女性:
「旅行行ったときに買ったのは覚えているんですけど」


数十年前に家族旅行の記念に買った物で、お母さんがずっと大切にしていたといいます。

依頼した女性:
「母が大事にしてたので、思い入れがあったと思うんです。旅行に行った時に買った品とか、その頃のこと思い出しました」


毎年の家族旅行を楽しみにしていたお母さん。親子で一緒にお土産を選ぶのを喜んでいたそうです。

依頼した女性:
「自分の気持ちと向き合う事もできたし、捨てなきゃいけないっていう感覚よりも、またどこかで生かしてもらえるというのもある。(心の)整理ができるいい時間だったなと思います」

 今回依頼した女性は家族旅行でお母さんが買った観音像を売らずに持って帰りました。

 一方、手放す事を決めた物にどれくらいの値をつけて売るのかというと、「博多人形」は海外向けに40ドル、日本円で約4200円。「ミッドセンチュリーのカップソーサー」は約6000円。「琴」は約2万5000円など。

全て売れれば、合計でおよそ26万円になります。オークションサイトに掲載するなどし、1年を目安に販売。買い手が現れたら販売益の約半分が依頼主に渡るという仕組みです。

 今回の日本エステートセール協会・堀川さんへの取材は2月で、対面での遺品整理でしたが、今はコロナの影響でオンラインでの相談サービスも始まっているため、安心してお願いすることができるそうです。