4年前、岐阜県大垣市で当時生後3カ月の長男を激しく揺さぶり、脳などに重い後遺症を負わせたとして傷害の罪に問われていた母親に対し、岐阜地裁は25日無罪を言い渡しました。
実はこうした乳幼児のゆさぶりを巡る裁判では、全国で無罪の判決が相次いでいます。その背景には何があるのでしょうか。
<裁判長>
「主文。被告人は無罪」
その瞬間、母親はうつむき涙ぐみながら何度も目を抑えていました。
生後3カ月の長男への虐待を疑われた母親に無罪判決…。
<裁判長>
「これから家族との時間を大切に過ごしてください」
<浅野被告>
「ありがとうございます」
母親と長男との間に一体、何があったのでしょうか。
2016年5月24日。この日を境に親子の暮らしは一変しました。
起訴状によりますと、大垣市の浅野明音被告(27)は自宅アパートで、当時生後3か月の長男の体を激しく揺さぶる暴行を加え、脳などに重い後遺症を負わせたとされていました。
問われたのは傷害罪。
検察側は「身体を激しく揺さぶるなどの方法により、頭部に衝撃を与える暴行を加えた」と指摘し、懲役5年を求刑。
一方、弁護側は「授乳クッションを枕に、ソファで寝ていた長男が床に落下した事故」と反論。浅野被告も起訴内容を否認しました。
双方の主張が真っ向から対立した裁判で、検察側はある根拠をもとに「揺さぶり虐待」と主張していました。それは「乳幼児揺さぶられ症候群=SBS」理論です。
硬膜とくも膜の間に出血する硬膜下血腫、網膜出血、そして脳が腫れる脳浮腫。この3徴候があった場合、揺さぶられ症候群である可能性が極めて高いと診断する考え方です。
厚生労働省は2013年に改定した虐待対応の手引に、経緯がわからない硬膜下血腫は「SBSを第一に考えなければならない」と記載。
検察官の児童虐待捜査のマニュアルにも「診断の際はSBSの3徴候を確認する」と記してあります。
要するに明らかな原因が見当たらない場合、3つの症状あれば虐待とみなされるケースがあるのです。ただ、ここ数年その理論が揺らぎつつありSBSを巡っては無罪判決も相次いでいます。
今回の裁判でも長男に3つの症状が確認されたため、検察側は「暴力的な揺さぶりが原因」と結論付けましたが、母親の「動機は明らかでない」などと裁判でその背景についての立証はほとんどありませんでした。
迎えた25日の判決。岐阜地裁の出口博章裁判長は…。
<裁判長>
「被告の暴行によるものではなくソファからの落下の可能性が否定できない。長男の障害がゆさぶりで生じたとするのは合理的な疑いが残る」
として、無罪を言い渡しました。そして、最後に裁判長はこう語りかけました。
<裁判長>
「今日までの4年間不安で大変な苦労があったと思います。これから家族との時間を大切に過ごしてください」
<浅野被告>
「ありがとうございます」
秋田弁護士(判決後の会見):
「3徴候があれば交通事故か3メートル以上の高位落下がない限り、SBS=揺さぶりと判断していいんだというとんでもないアルゴリズムがある訳ですけれども、これを根底から覆すものなんだときっちりと認識していただかないといけないですし、SBS仮説に重大な疑問を投げかけたという位置づけになると思います」
母親・浅野明音さんは無罪判決を受け、次のようにコメントしています。
<浅野さんのコメント>
「無罪を勝ち取れてもすぐに元の生活が戻るわけではありません。私が逮捕されてから判決までの期間は3年以上でした。本当なら警察や検察、協力した医師たちにその時間を返して欲しいです。
正しい判断を司法に携わる方にはして欲しいです。全く身に覚えのないことをでっちあげられ押し付けられ身勝手に犯罪者に仕立て上げられ世に晒されて平穏な生活を理不尽に奪われるのです。
今後はいままでよりも堂々と息子に会いに行けることがたまらなくうれしいです」