岐阜県高山市といえば、飛騨牛やお団子など様々な名物がありますが、地元に愛され続けているうどんの店があります。84歳となった今でも厨房に立ち続けている店主が営む、高山の人気うどん店を取材しました。
■近所の人たちは朝ごはんに「うどん」
JR高山駅の北、観光スポットから少し離れたところにある、「新井こう平製麺所」。多い日には1000人が訪れる人気店です。
看板メニューは、かき揚げとゆで卵が乗ったうどん。やわらかい麺に、濃い目のしょう油だしがよく合います。
切り盛りするのは、店名にもある新井浩平さん(84)。今も毎日厨房に立ちます。
新井さん:
「味が大事。値打ちもしなくちゃだめ。やっぱり安く、早く、おいしい」
午前4時。新井さんは、毎朝、この時間から仕込みに入ります。早くから仕事に行く人もいるからと店が6時開店のためです。 店名にもある通り、元は製麺所、麺作りにはこだわります。
のどごしを良くするために、小麦粉は長野と北海道産の2種類をブレンド。 2時間ほどで、1000食分の麺を仕込みました。
午前6時。開店前から店の前には客が。この日並んだのは4人でしたが、多い日は30人ほどが並びます。開店から10分、早くも店内は賑わいます。
男性客:
「釜揚げを一番に食べるのはなかなかできないので。製麺所の一番のうどんを食べるということだね」
別の男性客:
「朝ごはんがわり。普段は家で食べるのですけど、週末は仕事のないときだけは、ルーティンみたいなもので」
朝ご飯にうどん。近所の人たちの定番です。
■旨い、安い、早い「こう平うどん」
だしは、いりこをベースに、金沢から仕入れたしょう油で作った「かえし」を加えます。真っ黒で、深みとコクのある濃い目の味です。
男性客:
「結構味は濃いんのですけど、地域柄、高山は漬物文化なので、塩気の強いものを食べます。割と味は濃いのが好き」
別の男性客:
「初めての方は辛いと言われるけど、慣れてくるとおいしいです」
発券機でまずは麺の量を選びます。半玉270円から4玉590円まで。トッピングはかき揚げと煮卵のみです。かき揚げも、もちろん毎朝手作りです。
一番人気は、うどん1.5玉のかき揚げ、ゆで卵入り(560円)。少し柔らかめのモチモチとした麺に濃い目のだしがよく絡みます。
忙しい日でも、客を待たせずに提供できるようにと釜にいくつもの仕切りがあり、時間差で20分ほどかけて茹でていきます。
注文すれば、1分ほどでカウンターに。まさに、旨い、安い、早いです。
また、メニュー表にはありませんが、お店で“まじり”と呼ぶ、うどん、そば、きしめんを好みに相盛りする食べ方も人気です。
■店主の人柄も“味付け”
時間を追うごとに、どんどん人がやって来ます。さらにもう一つ、人気の秘密があります。
忙しくなると、浩平さんは麺茹でを手伝ったり、注文をこなしたり。また手が空くと、厨房から出て常連客に声をかけます。
男性客:
「人のよさかな、お店の人も、おやじさんも。時間があると(厨房から)出てきて、声かけて話したり」
別の男性客:
「この店がないと困る人多いんじゃないですか、知り合いばっかりで、小さい町なので」
実はこの浩平さんの気さくな人柄も、“いい味付け”。まるで、親戚の家にでも来ているような感じです。
■84歳「頑張れるだけ頑張ってみる」
お昼近くになると、観光客もやってきました。
名古屋から来た客:
「まずはやっぱり、こう平うどん。朝早くから食べに行こうということで」
消毒液を置き、飛沫防止のビニールカーテンも付け、コロナの感染予防に心がけますが、それでも、観光客は随分と減りました。
新井さん:
「売上が、2、3割は落ちました。でも地元の人が、昔から来てくれているのでそれでまだ維持できています。これは感謝です」
最も苦しい時、地元の人が支えてくれたと言います。
元々は、65年前に製麺所としてスタート。朝からうどんを食べたいという声に、当初は、製麺所の傍らにテーブルを一つ置いただけでした。いつしか「こう平うどん」と呼ばれ、高山市民に親しまれてきました。
新井さん:
「畳一枚くらいのテーブルから、今まで我慢してやってきたかいがあって。感謝しています」
午後2時半。開店時間が早い分、早めの閉店です。結局この日は、800杯が出ました。
新井さん:
「毎日毎日不安ですけど、『美味しかった』とかうれしいです。残す人一人もいない。それで毎日頑張っています。体の動く限りは、頑張れるだけ頑張ってみようと」
「新井こう平製麺所」は、観光スポットからは少し離れたJR高山駅の北西にあります。