世界の貧困や差別などをなくす一方で、環境保全と経済発展の両立を目指す17の目標を掲げた取り組みが、SDGsです。

 愛知県豊橋市に障害者や介護中の主婦、不登校の人や引きこもりの人など、様々な人が働く人気のチョコレート専門店があります。

 世界の厳選したカカオに、日本各地の素材を混ぜ合わせたこのお店のチョコレートには、SDGsの様々な目標をかなえる未来へのヒントがありました。

■厳選したカカオと日本各地の食材の組合わせは150種類…人気のテリーヌチョコレート

 日本一のチョコレートの祭典、JR名古屋タカシマヤの「アムール・デュ・ショコラ」。世界中の一流ブランドが並ぶ中「久遠チョコレート」は、4年連続で出店しました。

男性客:
「カラフルでかわいい」

女性客:
「組み合わせのバリエーションの多さがすごく好きです」

 看板商品のテリーヌチョコレートは、世界30か国から厳選したカカオに、豊橋の柿や北海道の黒豆など日本各地の食材を混ぜ合わせ作られます。その組み合わせは150種類。

■障害者など様々な人と歩んで7年…従業員500人で年商10億円のトップブランドに

 愛知県豊橋市にある久遠チョコレートの本社工場。

女性スタッフ:
「置く時もこうじゃないよ、こうじゃなくて自分の体でおろしてあげる」

 女性スタッフから指導を受けている男性は、特別支援学校を卒業して、久遠で働いています。ここには、有名なショコラティエはいません。チョコレートを作るのは障害者やシングルマザー、不登校の人や引きこもりの人など様々です。

左半身にまひがあるスタッフ:
「自分自身が新たなチャレンジとしてやってみたいなと思った」

 代表の夏目浩次さん(43)。7年前に久遠チョコレートを開業し、全国57か所に展開。従業員500人、年商10億円のブランドに育てました。

 夏目さんは17年前に障害者4人とパンのお店を経営していましたが、パンづくりは火を使うためヤケドをする人も多く、単価も安いのが悩みのタネでした。

夏目さん:
「パンは1日、2日には売り切らなくてはいけません。チョコレートは失敗したらまた溶かせるので、捨てるところがないです」


 より多くの人が稼げるようにと、チョコレート作りを始めました。

■チョコレート作りを10個の工程に…1人1人の得意・不得意を考えて「適材適所」で力を発揮

 野口和男さん。ホテルなどのチョコレートを監修するトップショコラティエで、夏目さんの師匠です。

野口さん:
「誠実さが素晴らしいですよ。融通が利かないくらい誠実。きちっと教えなくちゃならないけど、やったことはきちっと守ってやる」

 野口さんが言うには「チョコレートづくりは難しくない。正しい素材を、正しく使えば、誰だっておいしく作れる」。久遠では経験が無い人でもおいしいチョコレートを作れるような仕組みを作りました。

女性スタッフ:
「それぞれ、やりたい事やりたくない事もありますし、得意、不得意もあるので。細かく分けて仕事を振り分けて」

 久遠ではプロの職人がやっている工程を10段階に分けました。材料は世界中から仕入れたカカオ。まずは口どけを滑らかにするために、カカオの油脂を安定させる“テンパリング”をします。50℃まで加熱して、その後27度に冷却。この作業は集中力が高い人が担当します。

 続いては黒豆やきなこなど様々な食材を混ぜ合わせます。繰り返しの作業なので、まじめで根気のある人が担当します。

 絵が得意な自閉症のこの男性は手先が器用なので、チョコレートの飾りつけなどを担当。

自閉症の男性:
「美味しく作っています、僕。今日は落とさず頑張りました」

■企業や社会の足腰を強くするのは「もがき」…多様な人が一緒に働き生まれる相乗効果

 そして仕上げの袋詰めは女性スタッフです。久遠は元々障害者のために始めた会社ですが、最近では様々な女性が活躍しています。

 夏目さんは、午前9時-午後3時頃までなら力を発揮できる女性が大勢いるのに、働けていない現状を目のあたりにし、女性でも働きやすい職場を作ってきました。

子育て中の母親:
「いつでも休めるのが一番、時間も融通が利いてくれるので」

母親を介護中の女性:
「姑が車いす生活をしていて。それぞれの家庭の事情のことも分かってくれる」

 久遠の従業員は障害者と女性で9割。働く時間や仕事の内容は、その人の事情に合わせます。給料は障害者も健常者も全員同じで、時給950円以上です。

夏目さん:
「多様な人を雇用するのが良いとか悪い事とかじゃなくて、色んな人が入ってくればどうやっていこうかって考え、それが1つのもがきになるじゃないですか」

 そのもがきこそが、企業や社会の足腰を強くすると夏目さんは話します。

■チョコレートの力で街に賑わいを取り戻す…震災から26年 高齢者ら様々な人が働き輝ける場を

 3年前にできた久遠の豊橋工場は、コールセンターの大手「ベルシステム24」と共同で運営しています。現在、久遠は、全国53か所に展開していて、そのうち25か所はパートナーシップによるお店です。働きがいと経済成長を両立させたい。そんな企業や団体が、夏目さんのもとを訪れます。

 2020年10月にオープンした神戸店は、初日から久遠チョコレートのファンで賑わいました。震災から26年、久遠は神戸で新たな挑戦を始めていました。

 神戸店の代表、廣田恭佑さん。リハビリや訪問介護をする会社を経営しています。

神戸店代表の廣田さん:
「この街の活性化に携わりたいということが大きいですね。もともと居た人が震災で散り散りになってしまったので、なかなか戻ってこず、商店街も賑わいを取り戻せず、ずっとやきもきしているような感じで」

 震災から26年経った商店街。高齢化が進み、シャッター街になっています。廣田さんの会社は空き店舗にリハビリ施設や保育所などを作り、街の活性化につとめてきました。

 久遠チョコレートの力で、街に賑わいを取り戻す。将来は廣田さんのリハビリ施設の卒業生や高齢者も働く、新たな雇用の場を作る計画です。

■様々な人たちが力を合わせて作る…久遠チョコレートが示す「世界が目指すべき未来のカタチ」

 久遠は今年、全国17か所のデパートに出店。チョコレートのトップブランドに成長しました。世界中から集めたカカオを日本各地の食材と混ぜ合わせ、様々な人たちが力を合わせて作るチョコレート。世界が目指す未来のカタチです。

夏目さん:
「もがき続ければ、必ず成長に繋がるし、そこにイノベーションが起こると思うし。それをこれから日本や世界はやらなくてはいけない」

 「より多くの多様な人が働き、輝く。久遠チョコレートが一つの道しるべになれば」と、夏目さんは未来を描きます。