名古屋市名東区の市営地下鉄「藤が丘駅」の高架下で営業する飲食店などに、市が立ち退きを求めて裁判を起こそうとしています。問題の背景を取材しました。

 名東区の「ユニバーサル洋菓子店」。

 ショーケースには、ニューヨークチーズケーキや2種類のモンブランなど、地元の人に愛される品が並びます。

来店客:
「結構来ます。友達の誕生日ケーキとかはここで買います」


 創業50年、店主の澤村光雄さん(79)が息子と2人で営む老舗洋菓子店ですが、大きな問題に直面していました。

ユニバーサル洋菓子店の澤村さん:
「何も(補償)なしで『とにかく出てってくれ』と。元通りに何もない状態にして出て行ってくれというけど、それはないでしょうと思うんです」


 店があるのは藤が丘駅近くの「高架下」。この土地を借りて自ら建てた店ですが、市が立ち退きを求め、澤村さんたち事業者らを訴えようとしているのです。

河村名古屋市長:
「本市が所有している土地を何ら権原なく占有し、本市の明け渡し請求に応じない者等に対して、当該土地の明け渡し等を求めるものでございます」

 18日の名古屋市議会で、河村市長は関連の議案を提出。なぜ裁判沙汰に発展してしまったのでしょうか。

 実は藤が丘駅周辺の高架下は、1970年ごろから市の使用許可を得た不動産会社「東名サービス」が使用料を支払い、店に土地を貸してきました。

 その後、東日本大震災がきっかけとなり、市は高架の耐震補強工事が必要と判断。2012年に東名サービスと事業者など約40社に対し、土地を更地にして引き渡すよう求めました。

 しかし、事業者に対して市が開いた説明会は1度だけ。澤村さんは、説明を尽くさない市の対応に納得がいかないといいます。

ユニバーサル洋菓子店の澤村さん:
「報告会があったのが平成24年(2012年)にあって、その間(説明が)何もないんですよ。これじゃあどうしようもないですよね」

 高架下で飲食店を5店舗運営する会社の社長も、市の対応は「乱暴」だと訴えます。

飲食店を運営する社長:
「正規の業者の財産を『お前全部取っ払って、スケルトンにして返せ』なんてことは、もしもやれるとしてもずいぶん時間のかかる話ですよ。こんなもの本当にね、市民を敵に回して行政の力でねじ伏せるみたいなやり方というのは、最悪の選択だと思いますね」


 これに対し市の担当者は、説明も補償も責任は事業者に土地を貸している東名サービスにあるとして、歩み寄りは難しいと話します。

名古屋市交通局の担当者:
「東名サービスさん側に説明する責務がございます。東名サービスさんが原状回復義務を果たしていただければ、このようにはなっていないのかなと思っておりますけれども、訴訟いたしまして司法に判断を委ねると」

 東名サービスは「訴訟に係る話なので取材には応じられません」とコメントしています。