親の介護と子育てが同じ時期に重なる「ダブルケア」の当事者は、全国に25万人以上いるとされています。晩婚化などが進むなか、今後さらに増えると言われていますが、その認知度が低く、多くの課題があります。

 三重県でダブルケアの生活を送る35歳の女性を取材すると、支援の求めづらさなどの課題が見えてきました。

■ダブルケアで目まぐるしい日々…介護と子育ての両立に奮闘する女性

 主婦の西川規衣子さん(35)は、三重県川越町の一軒家で長女・優衣ちゃん(2)と、年末に生まれたばかりの次女・衣織ちゃんと暮らしています。幼い2人の育児に追われる毎日ですが、この家にはもう一人大切な家族が暮らしています。

 父親の國男さん(78)は、6年前に脳梗塞で倒れ、歩くことや食事など「日常生活全般において全面的な介助が必要」とされる要介護4の認定を受けています。親の介護と子育てが同時期に重なる「ダブルケア」です。

西川さん:
「本当は、パン・ヨーグルトとかで簡単に済ませたいんですけど、(父は)パンとかが食べられないから…」


 朝は早くから食事の準備。國男さんは、食べ物をうまく飲み込めない嚥下(えんげ)障害もあるため、おかずは細かくハサミで切り、お茶やスープなどの液体には誤嚥しないようにとろみをつけています。

 そこに、衣織ちゃんの泣き声…。國男さんの介護の途中でも、子供たちは待ってはくれません。

 朝食を終えると、長女の優衣ちゃんを保育所へ。家に帰ると息つく間もなく、再び介護と育児が待っています。

西川さん:
「(うまく手すりをつかめなく)壁にぶつかって、壁が傷だらけになって、爪が割れてしまったりとか、何回かあったので。目の障害で遠近感が分かりにくくなってる」

 西川さんは、ダブルケアで目まぐるしい日々を送りながらも、「介護も育児も中途半端。本当は父にも子供たちにももっと色んなことをしてあげたい」と、歯がゆい気持ちがあるといいます。

■育児と介護の行政の窓口は別々…手続き複雑で支援求めづらい現状

 2016年の内閣府の調査によると、全国に25万人以上いるとされる「ダブルケア」の当事者。晩婚化などで今後さらに増えると言われていますが、その認知度は低く、多くの課題を抱えています。

 今年1月、ダブルケアの当事者たちでつくる支援団体「ダブルケアパートナー」がオンラインで開いたシンポジウム。名古屋市の熱田区役所の職員を交え、ダブルケアの課題を話し合いました。

 ダブルケアパートナーの副代表は、「育児と介護の管轄が別々で、ダブルケアそのものを受け止めてくれる行政の仕組みやサービスが無いのが現状」と訴えます。区役所の介護窓口の担当者は、「介護者に小さい子供がいるなど、そういうところまではなかなか聞き取りすることは少ない」と話します。

 行政の窓口は、“子育て”と“介護”が別々になっているケースがほとんど。支援や相談を求める際の手間や手続きが複雑になってしまう現状がありました。

■実家で父の介護をしたい…夫とは離ればなれの二重生活

 西川さんの長女・優衣ちゃんとの時間。

西川さん:
「寂しい思いもさせているので、できるだけ2人の時間を作ってあげたいなと思ってはいるんですけど…」

 西川さんは介護のため、結婚前からこの実家で暮らしていて、伊賀市の会社に勤める夫とは離ればなれです。

 夫と交際し始めた直後に、父・國男さんが倒れ、「結婚はしたいが、家で父を看たい」という気持ちが強かった西川さんは、夫に別れを切り出しました。しかし、夫からは「二重生活になってもいいから」と言われ、結婚しました。

西川さん:
「(その後)一緒に暮らしたいと何回か言われたことはあるんですけども、今のところは私がここで父を看たい気持ちが強いので」

 母親の優子さんは17年前に他界。西川さんが6歳のときに乳ガンになり、長い闘病生活を支える中でも、國男さんは家族との時間を大切にしてきました。よく家族を遠くまで連れて行ってくれたといいます。西川さんは、父のおかげで全く寂しい思いはしなかったと振り返ります。

■介護と育児が重なると悲しい気持ちに…いかに前向きに生活していくかが課題

 家族が眠りについた、午後11時。ダブルケアから少しだけ解放される時間。本音がこぼれます。

西川さん:
「介護と育児が重なると精神的にイライラしたり、悲しい気持ちになったり…。どうストレスを発散しながら前向きに楽しく生活を送っていくかが、課題というか…」

 1年後、2年後がどうなっているかは考えてもわからないため、あまり考えないようにしている話す西川さん。毎日の生活に追われ、1人でダブルケアに悩む人も多くいるといいます。

■かけがえのない家族との時間を大切にしたい…求められるダブルケア当事者への理解と支援

 この日、西川さんは名古屋を訪れました。支援団体「ダブルケアパートナー」のミーティングが開かれ、同じ境遇の仲間が集まっていました。

ダブルケア経験者の女性(33):
「お友達も育児ばかりで、介護をしている人は誰もいなくて。初めて話し合ったときに共感してくれる人がいるって、こんなに心が楽になるんだと思って」

 比較的、若い人に多いダブルケア。身近に“介護”を経験する同世代が少なく、相談しづらいといった悩みを抱えていました。

ダブルケア当事者の女性(38):
「介護は周りの方ではなかなか身近に感じている方が少ないので、話しづらいというか」

ダブルケア当事者の女性(42):
「育児しているママ友に介護の話をすると、すごく場が盛り下がってしまう」

西川さん:
「リフレッシュになりますね。かなり久しぶりですね。やはり実際に経験された方とか、同じように当事者で頑張っている方々とお会いすると力が湧いてきます」


 西川さん、気持ちがリセットされ、明日から頑張ろうという気持ちになれたようです。

西川さん:
「自由な時間がないのはあるんですけど、娘のこととか父のこととかしてあげられるのは、幸せなことなので。1日1日、一瞬一瞬を大切にしていきたいと思っています」


「介護」も「子育て」も、かけがえのない家族との大切な瞬間。ダブルケアへのより深い理解と支援が求められています。