静岡県熱海市で7月3日に発生した大規模な土石流で、改めて土砂災害の恐ろしさを痛感させられましたが、三重県いなべ市もかつて毎年のように土石流の被害を受けていました。

 度重なる土石流の発生を受け、木々の間に作られたいくつもの「砂防ダム」には、土砂災害と隣り合わせの集落の歴史が刻まれていました。

■毎年のように発生する土石流…切り立った山のふもとに広がる集落を襲う

 三重県の北の端、いなべ市藤原町。滋賀県や岐阜県と県境を接し、切り立った山のふもとに集落が広がっています。

 藤原町の大貝戸地区と坂本地区では約20年前から大雨のシーズンになると、毎年のように土石流が発生。住民たちはその度に避難を強いられてきました。幸いにもこれまでに土石流の犠牲になった人はいませんでした。しかし…。

リポート(2002年7月17日):
「土砂災害を防ぐために作られた砂防ダムですが、今日の大雨で大量の石や木を含んだ泥水が一気に流れ込みました」


 たびたび砂防ダムを越えて流れてきた泥水と土砂が、住宅や道路一面にあふれ出していました。

住民の女性(2003年8月11日):
「雨の降った時、状況は夜でわかりませんけど、ここにおること自体がもう不安というか…毎日です」

三重県の野呂昭彦知事(2003年の現地視察時):
「予想以上にですね、崩れが激しいと…。甚大な被害も起こりうる状況」

 国は2016年、2つの地区を「土砂災害特別警戒区域」に指定し、山から流れ込む2つの渓流に砂防ダムを次々に増設していきました。

■食い止められる土砂量は熱海の半分ほど…6基の砂防ダムで備えるも万全といえず

 大貝戸地区の自治会長、森川敏之さん(65)。

森川さん:
「止めるダムが下まで6基ありますから、たまったらそこを越流しても次のダムで止めて、また越流してもまた次のダムで止めて、という形になっていくので」

 渓流に沿って6基の砂防ダムがあり、さらに支流にも2基のダムがあります。集落の手前には、「導流堤」という高さ5メートルほどの堤防もあり、段階的に土石流をせき止めていくことで集落まで届かない仕組みになっています。

 砂防ダムには監視カメラも設置してあり、土石流の発生状況は公民館で確認できるようにしていますが、これだけの砂防ダムを備えていても食い止めることができる土砂の量は、全体でおよそ6万6000立方メートル。

 約10万立方メートルの土砂が流れ出た今回の熱海市の土砂災害の半分あまりの量で、万全の備えとは言えません。

■あと50センチで越流…ハード面が整備されても求められる高い防災意識

 隣の坂本地区には、流れ込んだ土砂のため池になる「遊砂地」が整備されました。しかし…。

坂本地区自治会長の児玉豊さん(63):
「(2012年当時)ここは満砂でした。あと、50センチぐらいでここを越流するところでしたね。その時は避難指示が出て…」

 2012年の大雨の際には、あふれ出る寸前のところまで土砂が迫ったといいます。「大切なのは高い防災意識を持って早く避難すること」と、児玉さんは警鐘をならします。

森川さん:
「やはりハード面が整備されていくと、なかなか避難しようかってことにならないかも」

 ハードが整備されても「早めの避難が重要」と口をそろえます。

■いざという時は安全な場所にいる家族のもとへ…若い世代26世帯が山から離れた一角に移転

 山を背に隣り合う坂本地区と大貝戸地区。度重なる土砂災害を受け、町は山から離れた一角に住民の移転先の住宅地を整備しました。新しい場所に移住した人は…。

移住した男性:
「安心ですよね。大雨来ても逃げなくていいじゃないですか。それだけでも安心ですよね」


 現在、ここに暮らす26世帯の多くは若い世代です。高齢者はもとの場所に住み続ける人が多いそうですが、新しい避難の仕組みにつながるといいます。

森川さん:
「地元の方たちはなかなか自分の家を離れることができないので…。息子さんのお家とか何かあった時にはこちらへ避難することができる」

 いざという時には近くて安全な場所にいる家族のもとへ。高齢者の避難を促す取り組みが進められています。