愛知県南知多町に、旬のあなごを使った極上のみりん干しがあります。凝縮したうま味に、脂がのったこの干物は、全国から注文が入る店の看板商品です。

 太陽と自然の恵みで、素材の美味しさを最大限に引き出すのは、この道50年以上の80歳の職人の技と勘です。

■全国から注文入る旬のあなごを使った「極上みりん干し」

 愛知県南知多町。県下屈指の水揚げ高を誇る豊浜漁港の近くに、昭和44年創業の「魚新商店」はあります。店頭には、カマスに太刀魚、アジやフグなど、地元で揚がった魚を使った干物が並びます。

【画像20枚で見る】全国から注文入る旬のあなごだけを使った凝縮したうま味に脂がのった極上のみりん干し

 中でも人気は、全国から注文が入る「あなご味醂干」(85グラム580円)です。

女性客:
「あなご美味しい、今から旬だもんね」

別の女性客:
「シンプルに焼いてお茶漬けのお供にしたり、人にプレゼントしたりとか」


■この道50年の職人がこだわるのは「旬」…使うのは脂がのったあなごのみ

 作るのはこの道50年以上の高浪達明さん(80)です。

高浪さん:
「夏に美味しい魚を冬に(干物を)作ったっておいしくないもん。まず一番に、季節、旬」

 高浪さんがこだわるのは、旬。秋の産卵を前に栄養を蓄え、脂がのっている梅雨から8月に獲れるあなごのみを使います。

 自慢のみりん干し。まずは氷水に入れ締めたあなごを、一匹一匹手作業でさばいていきます。エラの付け根に刃を入れると、骨に沿って腹を開き、内臓を骨と一緒に取り除きます。一匹にわずか10秒。無駄のない見事な包丁さばきです。

高浪さん:
「(あなごは)丸いから慣れるまでが大変です。背に穴をあけない。刃先が出ると商品価値がなくなっちゃう」

 最初は、10キロさばくのに1時間~1時間半かかっていましたが、今では30分ほどでできるようになりました。

■太陽の恵みで素材のおいしさを引き出す…こだわる昔ながらの天日干し

 4人がかりで1時間。1000匹以上をさばくと、続いて味をつけます。材料は醤油とみりんと砂糖だけ。絶妙な配合で、あなごのうま味を引き出します。甘すぎず、辛すぎず、子供でも食べられる味を目指します。

 味をつけたら網へ。最近は機械で乾燥させるところも多いですが、高浪さんは昔ながらの天日干しにこだわります。

高浪さん:
「天日干しは太陽の紫外線が当たって水分が芯までとれて、アミノ酸が凝縮されて、美味しいあなごができる」

 今はスマホで瞬時に天気予報を見られますが、高浪さんが干物作りを始めた50年前は、毎日天気予報と空とのにらめっこが続いたといいます。

■地元の魚を無駄にせず美味しく食べてほしい…漁師をやめ店を開業

 父親が漁師だった高浪さんは、中学を出て24歳まで漁師をしていましたが、ある事をきっかけに船を降りました。

高浪さん:
「とってきた魚が安くて…。東京まで行って市場へ出しても、店舗の都合だ何だといって捨てる時代に。この魚を何とかして自分で商売をやってみたいというのが原点です」

 地元で揚がった魚を無駄にせず、美味しく食べてもらいたい。その思いから4年間の修業を経て、29歳で開業。当時は、主に車で移動販売を行っていたといいます。

 みりん干しは、巻き寿司などにあなごを入れる食文化がある地元の常滑市や知多市でたちまち評判に。注文が増え続けましたが、旬のあなごを使うこだわりは守り続けました。

高浪さん:
「(食べた人が)美味しいとおすそ分けしたものが広まって、今があるんです。だから私は商売に関しては、正直に真心でやるということで今がある」

■見極めは手と目…おいしさを引き出すのは職人の経験と手仕事

 その真心込めたあなごのみりん干し作りも佳境に。天日干しをしてから3時間ほどで裏返します。水分が残っていると臭みが出たり、傷みが早くなるためしっかり魚の芯まで水分を飛ばします。その見極めは、高浪さんの手と目です。

高浪さん:
「(手を)付けたときに、くっつかなくなってカラッとした時が出来上がりです」

 晴天だったこの日、みりん干しは最高に仕上がりました。高浪さんは、出来上がるとすぐに焼き自分で味を確認します。炭火で焼くと、ぷくぷくと脂が吹き出してきました。

 高浪さんの長年の経験と手仕事が生み出した、ふわっとした食感の「あなご味醂干」(580円)は、噛むと凝縮されたうま味が口の中いっぱいに広がります。箸が止まらなくなる極上の豊浜名物です。

高浪さん:
「80歳になって、健康で毎日市場で魚を買う時は、人生の最高ですよ。とにかく、魚なしじゃおれん。魚と向き合えるということが、一番の生きがい。自分の好きな旬の魚を食べて、人生万々歳です」

「お客さんが喜んで食べてくれるのが、一番うれしい」と話す高浪さん。これからも極上のあなごのみりん干しを作り続けます。