東京オリンピック・ボクシング男子フライ級代表で、岐阜県多治見市出身の田中亮明選手は、弟がWBOフライ級など3階級を制覇した、元世界チャンピオンの田中恒成選手です。

 華々しく世界で活躍する弟に対し、リオオリンピックの最終予選で敗れた亮明選手は、競技人生をあきらめかけていましたが、現役の高校教師を続けながら念願の東京五輪への切符を掴みました。支えてくれた妻とおばあちゃんのために…。亮明選手は、初めての夢の舞台に挑みます。

■一番お手本にできる先生…高校のボクシング部顧問しながらオリンピックへ

 東京オリンピック・ボクシング男子フライ級日本代表の田中亮明選手は、岐阜県瑞浪市にある中京高校でボクシング部の顧問をしています。その素顔は…。

【画像20枚で見る】弟がプロの世界王者なら五輪に…高校教師でボクシング代表・田中亮明 支えてくれた祖母・妻のために

教え子:
「優しいときは優しいんですけど、怒るときはピシッと怒るので…。一番お手本にできる先生だと思っています」

他の教え子:
「(田中選手に)憧れて入ったのと同じなので、かっこいいです」

亮明選手(会見):
「僕に教えてもらってるんだよって自慢してもらえるように、(五輪では)かっこいい姿は見せたいと思っている」

■自分はオリンピックに…世界チャンピオンになった弟に負けない

 亮明選手は幼い頃は空手を習い、中学1年でボクシングを始めました。弟はWBOフライ級など3階級を制覇した、元世界チャンピオンの田中恒成選手です。早くからスポットライトを浴びる弟に対し…。

亮明選手:
「将来の目標はって聞かれたときに、僕は『インターハイチャンピオン』を口にしていたんですね。弟は、『世界チャンピオンになる』ってその時から言っていて…」

 世界チャンピオンを目標に掲げる弟に対して、自分は高校チャンピオン…。そのスケールの違いに恥ずかしさを感じていた亮明選手は、次第に「オリンピック」を意識するようになりました。

 弟がプロの世界チャンピオンなら、自分はオリンピックに…。そんな思いを胸に、大学4年で全日本選手権優勝(2016年)に挑みますが、最終予選で敗退しました。

亮明選手:
「めちゃ悔しかった…。リオの予選に負けてもうボクシング辞めるって言っていたんですよ」

 夢の舞台まであと一歩、届きませんでした。

■オリンピックでの勇姿見せたい…小さな記事でも見つけてくれた祖母のために

 岐阜県土岐市の亮明選手の祖母・和枝さん(79)の家には、孫たちの写真やポスター、ボクシング雑誌が並んでいます。

亮明選手:
「名前だけが(雑誌に)載っていても、赤ペンとか引いてくれて…。どこに自分がいるかわかるんですよ」

 付箋がしてある雑誌の束。和枝さんは、写真付きで大きく取り上げられる弟の恒成選手に対し、どんなに小さくても亮明選手の名前を見つけてはペンを引いていました。掲載されること自体少なかった亮明選手でしたが、おばあちゃんはどんなに小さな記事でも見つけてくれました。

和枝さん:
「亮明の試合ってあんまり見る機会がないもんね、結局は。アマチュアの方はね」

亮明選手:
「オリンピック出れば、すごく久しぶりに僕の試合をテレビで見ることになると思うので。これがおばあちゃんが喜ぶことにつながる…」

 おばあちゃんに勇姿を見せたい。亮明選手の原動力の一つでした。

■妻のおかげで強くなれた…地元スポンサーを集めてくれた妻のためにも

 亮明選手は、いつも奥さんの愛妻弁当を持ってきます。

大学時代からの付き合いだった妻の百美さんは、遠征費など教師としての稼ぎだけでは賄いきれない亮明選手のために、自分の父と一緒に地元企業などに呼びかけてスポンサーを集め、オリジナルTシャツまで作ってくれました。

亮明選手:
「リオの予選負けてオリンピック出られなくなって、その時は(妻が)『辞めたらいいよ、頑張ったんだから』みたいな。でもそうやって言われたら、なんか違うなって思っちゃって。奥さんのお陰で強くなれたところはありますね」

 家族に支えられてのオリンピックへの再挑戦です。

■かっこいい姿を見せたい…4年越しでつかんだ夢の舞台に挑む

 2019年11月。迎えた、東京オリンピック出場がかかった全日本選手権。勝利が決まり、喜びで崩れ落ちる亮明選手。ついに、オリンピックの切符をつかみ取りました。

亮明選手:
「ほっとした気持ちの方が強かったですね。この4年間はその悔しさだけでやってきましたので。死んでもいいから(五輪へ)行きたいですもん」

 延期となったこの1年、今まで以上にボクシングと向き合った亮明選手。これまで弟を指導してきた父と、およそ10年ぶりに練習もしました。

父の斉さん:
「(亮明選手の強さは)努力を積み重ねて、あきらめない心というかな」

 地元の多治見ではラッピングトラックをつくって応援…。そして中京高校の全校生徒からの激励会など、皆が亮明選手を応援しています。

亮明選手:
「目標は金メダルです。地元、高校、田中家代表としても、集大成になると思うので、かっこいい姿を見せたいです」

 亮明選手は、人生をかけて夢の舞台へ挑みます。