民間空襲被害者の救済阻む“受忍論”…「国民全体が酷い目に遭ったのだから我慢を」戦争責任めぐる国の意識
戦後76年たった今も、空襲で傷を負った民間の被害者への補償問題は解決されていません。高齢となり、年々被害者が減る中、なぜ未だに救済への道が開かれないのか…。そこには、『戦争では国民全体がひどい目に遭ったのだから我慢を』という「受忍論」の高い壁がありました。
■「国との雇用関係がない」と補償の対象外に…門前払いされた空襲被害者の訴え
民間空襲被害者が声を上げておよそ半世紀。被害者はこれまで、国に対し民間の空襲被害者への補償を求める運動をしてきましたが実を結んでいません。
戦後、国は軍人や軍需工場などで働いていた人とその遺族には恩給や年金を支給しました。累計の総額はおよそ60兆円にものぼります。しかし民間人は、「国との雇用関係がない」ことを理由に補償の対象外とされています。
2020年、空襲議連が戦後初めて民間の被害者に1回限りで50万円を支給する法案をまとめましたが、自民党内の調整で下村政調会長が「戦後処理問題に関する措置はすべて確定・終了した」とする2005年の政府・与党合意を持ち出し、国会に提出されることすらありませんでした。
【画像16枚で見る】補償問題が解決されぬまま減り続ける“民間の空襲被害者”
■「皆で我慢を」…民間空襲被害者の救済を阻む「受忍論」という高い壁
民間空襲被害者の救済を阻む壁は2つ。新たな支出は抑えたいという「財政的な思惑」と、「受忍論」という考え方です。
財政面では、議連がまとめた法案の生存者1人50万円の支給で必要となる額は約23億円です。今年度の恩給予算額は1351億円のため、そこまで高い壁というわけではありません。むしろ壁として高いのは裁判で示された「受忍論」です。
「受忍論」とは、『戦争では国民全体がひどい目に遭ったのだから我慢しなさい』という理屈です。しかし、実際には軍人・軍属やその遺族、シベリア抑留者や原爆の放射線で健康被害を被った人など一部の人たちには救済策が講じられています。
国が受忍論に依る背景について、空襲議連副会長の近藤昭一議員は、「国には戦争責任をなるべく狭いものにしたい意識がずっと働いている」と指摘しています。
■地方自治体では独自に見舞金も…10万円を支給している名古屋
ただ、地方自治体の中には独自に見舞金を支給しているところもあります。例えば名古屋市では、2010年度から見舞金を支給する制度をはじめています。事業開始時には1人あたり2万6000円を支給していましたが、被害者が高齢化し日常生活での苦労が増えている事を考慮して、2021年度からは支給額を10万円に改めました。
国からの救いの手は…。戦後76年、民間の空襲被害者の救済は放置されたままです。