愛知県一宮市に本社を置く「カレーハウスCoCo壱番屋」の創業者・宗次徳二さんは、経者を退いた後に名古屋市中区に、私財を投じて音楽ホールを建設しました。しかし2020年は、新型コロナの影響でホールは3か月間休業しました。

 演奏家と聴き手をつなぎ、クラシック音楽を絶やしてはいけない…。宗次さんは、コロナ禍で苦境にある演奏家の支援を続けています。

■余儀なくされた3か月の休業…私財を投じて建設した音楽ホールを襲った新型コロナ

 名古屋市中区に、宗次徳二さん(72)が2007年に私財28億円を投じて建設したクラシック専用の「宗次ホール」があります。1階と2階で全310席あるこの音楽ホールも、新型コロナの影響を受けました。

【画像20枚で見る】貧困時代に癒されたクラシックの世界支える…ココイチ創業者 “人のために”お金を使う

宗次さん:
「(演奏家は)出番がなければ収入がない。(元々の)収入もそう満足にあるわけじゃない。好きで目標持ってやっている人が大変な目に遭ったんですよ」

 クラシック音楽の世界にも、新型コロナは影を落としました。宗次ホールも、去年3月から約3か月間休業しましたが、演奏家に出演の機会を提供したいといち早く営業を再開。それでも、客席は以前の半数以下にするなど、運営の難しさに直面しています。

 宗次さんが採算度外視で音楽ホールの運営を続けるのは、演奏家と聴き手をつなぎクラシック音楽を絶やさないためです。

■不遇な時代に出会ったメンデルスゾーン…自らを癒してくれたクラシック音楽に恩返し

 宗次さんは、1948年に石川県で生まれました。児童養護施設から3歳で引き取ってくれた養父母との暮らしは貧しいものでした。

 そんな不遇な時代に出会ったのが、クラシック音楽。ロマン派音楽を代表するメンデルスゾーンの「バイオリン協奏曲」の旋律は美しくもどこか切なく、15歳の宗次さんを魅了しました。

宗次さん:
「クラシックに出会って、高校時代。本当に食べることにも事欠いていたその時代、癒されてね…」

 その後、宗次さんは20代で開いた喫茶店のマスターから、世界最大のカレー専門チェーン「CoCo壱番屋」の経営者に。

経営を退いた後に、宗次ホールの運営と共に力を注いできたのが、若手の演奏家への支援です。

 厳しい実力主義の世界で、プロとして活躍できる人はほんの一握りと言われるクラシック音楽の世界。宗次さんは、音大生への奨学金給付や学校の吹奏楽部などへの楽器の寄付。

さらには、高価なバイオリンを自ら所有し、有能な演奏家へ貸与することで、「ミュンヘン国際音楽コンクール」で優勝を果たした岡本誠司さんなど、多くの若者が世界の舞台で花開く瞬間を見守ってきました。

■自ら築いた資産は社会のために使いたい…若き才能のために名門音大に新ホールを建設

 今年3月に、東京都調布市にある音楽教育の名門・桐朋学園大学に、「桐朋学園宗次ホール」が誕生しました。

 隈研吾さんが設計した、音楽ホールとしては珍しいこの木造建築は、大編成のオーケストラが演奏できる大きな舞台が備えられています。総工費約21億円のうち8億円を宗次さんが寄付しました。

宗次さん:
「学長から3年前に5枚に綴られたお手紙を頂いて…。唯一の夢なんですと、学生のためにホールを作りたいです。優秀な学生をより世界に羽ばたかせたいと…」

 宗次さんは、なぜここまで“音楽”に奉仕し続けるのでしょうか。

宗次さん:
「音楽はシンプルにストレートに、良いものは良いと。癒されたっていう思いもありますし、(会社経営で築いた)資産は自分が使うんじゃなくて、社会に使っていきたい」

■早起きは百利あって一害なし…ホールに来るお客さんのために街を掃除し花を植える

 毎朝、名古屋の中心を走る広小路通に、宗次さんの姿があります。

宗次さん:
「私は、全ては早起きから始まる。今も3時55分起きを貫いて、365日間」

 早起きは、“百利あって一害もない”。宗次さんは、早起きして生み出した時間で街を掃除し、花を植えます。

宗次さん:
「ホールに来ていただけるお客様のために…。『お花を見ながらここまで来るのが楽しみです』とかね…。やっぱり、人のため地域のためっていうのが大きいかな」

 お客さんや地域のために活動することは、ココイチ時代から続く宗次流の成功の秘訣。コロナの時代でも、宗次ホールには花が咲き、音楽が響きます。

■人の役に立てるのは究極の贅沢…自分のためでなく「人のために」お金を使う生き方

「人の役に立てることは究極の贅沢」と話す宗次さん。宗次さんの経営哲学を綴った著書があります。

<著書『独断 宗次流 商いの基本』からの一部抜粋>
「自分のためではなく、『人のために』お金を使う」
「経営者は稼いだお金を自分のものだと思わないこと。常に社会に還元することを念頭に置いておくことが大切だ」

 コロナの時代に、宗次さんが改めて考えるこれからの生き方です。

宗次さん:
「やっぱり『優しさ』、『社会への感謝』でしょうね。いよいよ本当の意味の助け合い社会。少しでも余裕のある人が、全く余裕のない人に少しでも手を差し伸べてあげるような、それが普通になるような…」

 社会の格差がどんどん広がっている今こそ、求められるのは「優しさ」だといいます。

宗次さん:
「自分も大変なんだけども、もっと大変な人のためにって人も結構います。そういう人たちを私は応援したい」

 宗次さんは、“皆が支え合い、助け合える社会”を願い活動を続けます。