衆議院議員選挙は、10月31日に投開票されます。コロナ禍で経済格差があぶりだされる中、選挙の争点の一つが、岸田総理が経済政策の柱とする「成長と分配」です。各政党が公約に掲げる給付金の支給など「分配」をめぐる議論に、投資家や失業者を取材すると、それぞれが抱える複雑な思いがありました。

■早期退職し働かず投資で生きていく…「FIRE」を実現させた男性

 2000以上の源泉があり、湧き出る温泉の量が日本一の大分県・別府温泉。この別府市の隣の杵築(きつき)市に、「ハンチング」のハンドルネームで活動する49歳の男性が、三重県から移住しました。

【画像20枚で見る】“FIRE”男性は金融所得課税に注目…衆院選の争点の1つ『成長と分配』

ハンチングさん:
「2021年の5月に今まで勤めていた会社を退職して、“FIRE”という形で…」

 ハンチングさんは、三重県桑名市にある大手電機メーカーの工場で働いていましたが、今年5月に退職。働きながら投資などで資産を増やし経済的に自立し、早期退職をする「FIRE(ファイア)」(Financial Independence Retire Early)を実現させました。仕事に縛られないライフスタイルである「FIRE」は今、若い世代を中心に注目されています。

ハンチングさん:
「投資信託の残高、普通預金の残高で、合わせて3848万円あります。その他に、確定拠出年金の残高が2318万円。合わせて6500万円くらいになりますね」

 ハンチングさんは、資産6000万円で退職し、その後5か月で6500万円にまで資産を増やしていました。

ハンチングさん:
「仕事をしてないので、時間に追われることがないですよね。だがら、朝も目覚ましかける必要もないですし、全てがのんびり1日過ぎていく感じですね」

■『成長』の果実を『分配』する…総理「金融所得課税」の見直しに言及

 1日のうち、資産運用の投資に費やす時間はわずか数分。大きな資産を築き、のどかな田舎暮らしを満喫するハンチングさん。政治とは無縁なように見えますが、今回の衆院選には、投資家も注目する大きな争点がありました。

岸田文雄総理(10月19日):
「日本の経済においては、『成長』。経済を大きくしていく。それと合わせて、皆さんに成長の果実を『分配』する」

 岸田総理が、経済政策の柱に掲げる「成長と分配」。企業などがより多く稼げる環境を作り、その「成長」で得られた利益を、所得の低い人や社会を担う業種などに「分配」するというもので、選挙期間中も総理がしきりに訴える“肝いり”政策です。

 そして当初、「成長と分配」をめぐり総理が言及したのが、「金融所得課税」の見直しです。

岸田総理:
「分配を具体的に行う際には、様々な政策が求められます。“金融所得課税”についても、考えてみる必要があるのではないか」

「金融所得課税」とは株式の投資などで得られた利益に税金を課す制度ですが、岸田総理が「分配」のために必要だと語っていたのはその税率の引き上げです。

 通常の給料などに課される所得税は、所得が多い人ほど税率が増える「累進課税」で、税率は10%から最大で55%。

しかし、株の運用益などの金融所得の税率はどれだけの利益があっても、原則一律で20%。岸田総理はこの税率を引き上げ、「分配」の財源の一つにしようと考えていました。

■苦労し貯めた投資資金への「課税」は正直つらい…総理「税率見直し」はすぐには行わないと発言

 投資などで得られた「富の分配」。金融所得への課税強化は、立憲民主党も選挙の公約に掲げるなど検討が必要なテーマですが、投資の運用益で今後の生活を計画しているハンチングさんは…。

ハンチングさん:
「富を得た人から苦しい方への分配は、もちろん必要だとは思います。僕とか高額所得者でもなければ、節約によってリスクをとって投資に回して、苦労の末に貯めたお金を『課税します』というのは正直つらいです」

 さらに、ハンチングさんは、日本の経済成長にも影響があるのではないかと考えています。

ハンチングさん:
「(総理が金融所得税率見直しを)発信された時に、日経平均が10%近く下がったりしましたし…。金融課税を30%に上げるってことは、もしかしたら長期的な日本株の停滞を招くことになり、結果(投資をしていない)一般の方が、間接的に金融所得課税の被害を被るってことも考えられますね」

 総理の発言が株価に影響したかははっきりとわかりませんが、「税率見直し」に言及した6日後の報道番組では…。

岸田総理(10月10日):
「当面は金融所得課税についてさわるということは考えておりません」

「金融所得課税」の見直しをすぐには行わないと発言。「株価下落を招いた」という批判に、配慮したとみられています。

■利益が億レベルの投資家は海外移住すると思う…慎重な検討が必要な“金融所得への課税強化”

 ハンチングさんは今、タイへの移住を計画しています。三重県から大分県に移り住んだのも、その計画のためでした。

ハンチングさん:
「大分県杵築市は日本で一番家賃が安い街ということで、別名『FIREの聖地』と言われていて…」

 アパートの家賃は、インターネットも付いて1万3500円。1か月6万円ほどの生活費で暮らせるといいます。金融所得で生活するため、できるだけ出費を抑えようとしていますが、莫大な利益を得る投資家は税率が上がると日本から移住する可能性もあると指摘します。

ハンチングさん:
「(金融所得が)億レベルの人たちは、真剣に(海外移住を)考えると思いますね。金融所得課税を増やすことは長い目で見れば仕方がないのかもしれないけども、かなり慎重に進めるべきと思います」

■「分配」か「バラマキ」か…各政党が掲げる給付金などの「分配政策」

「成長と分配」。その「分配」を巡り、今回の衆院選で各政党が政策に掲げているのが「給付金」です。

 与野党問わず、全ての党が掲げる給付金などの「分配政策」。国民民主党が、すべての国民に一律10万円支給を訴えるなど、それぞれ6万円から20万円の給付金の支給を打ち出しています。“バラマキ政策”とも揶揄されていますが、有権者は…。

男性(29):
「助かりますね。(給付金は)すぐにでも欲しいです、正直。額が大きい方に(票を)入れるかもしれないですね」

女性(75):
「将来の私の孫たちにつけを回してるわけですから、私は大反対です。根本のところをいじらないで、うわべだけいじっている政策はいかがなものかと思います」

■失業者「1回こっきりの給付金では何も変わらない」…求められる真の「分配」とは

 一時的な給付金に、複雑な思いを抱く男性もいます。池田武司さん(62)は、内装業を営む会社で職人として働いていましたが、給料について会社と折り合いがつかず2か月前に退職。ハローワークに通って仕事を探しています。

池田さん:
「職人をずっとやってきていますので、なかなかそのへんのくくりで(就職が)難しいと言えば…。年齢もあって難しいかなという感じは思っている」

 無職となり、安定した収入を失った池田さんは、一時的な「給付金」という形の分配政策には…。

池田さん:
「(給付金が)入ったとしても、1回こっきりなので何も変わらないんじゃないかな。分配するんであれば、やっぱり景気。中間層から下に対して、安定した仕事を…。お金じゃなくて別のことで分配してほしいですよね」

「成長と分配」が争点となった衆院選。国民が日本経済のかじ取りをどの政党にゆだねるのか…。その審判は、10月31日に下ります。