名古屋市千種区に、秋の訪れを感じさせる栗を使ったオリジナルの和菓子があります。濃厚な味わいの栗きんとんを、わらび餅で包んだ「栗きんとんわらび餅」です。その絶妙な食感を生み出すのは若き3代目の技と勘です。

■つるんという感じで美味しい…口どけ滑らかな「栗きんとんわらび餅」

 名古屋市千種区の北東部を流れる香流川のほど近くにある和菓子店「栗の屋本家 本店」。

【画像20枚で見る】濃厚さを柔らかさが包んだ和菓子『栗きんとんわらび餅』若き3代目が生み出す絶妙な味わい

店のショーケースには「栗蒸し羊かん」(150円)や、「栗粉餅」(150円)、「栗きんとん」(190円)に通常の3倍はある「びっ栗きんとん」(450円)などが並びます。

中でも、この時季の看板商品が「栗きんとんわらび餅」です。

女性客:
「そんなにないですよ、わらび餅の中に栗きんとんは。おいしいです。つるんという感じで」

男性客:
「口どけがすごく滑らかで、栗きんとんのパサつき感が全然なくて、季節感を感じる食べ物」

 作るのは、店の味を守る3代目の南谷隆之さん(23)です。

南谷さん:
「栗きんとんわらび餅って一般的ではない。うちのオリジナル商品で始めたもので、お店のアイデンティティといいますか…。生地(わらび餅)と中の栗きんとんのバランスを重要視していて、食感が命」

■焦げつかないようヘラでかき混ぜながら…父から受け継いだ「栗きんとんわらび餅」

 栗きんとんわらび餅は、約20年前に南谷さんの父・隆充さんが考案しました。

父の隆充さん:
「うちは屋号が「栗の屋」ということもありまして、せっかくなので栗でわらび餅がやれないかなと…」

 2代目の隆充さんは、普通の栗きんとんでは硬すぎるため、試行錯誤しながら外のわらび餅に合う栗きんとんを作り上げ、栗きんとんわらび餅は誕生しました。

 父から受け継ぐ食感が命の栗きんとんわらび餅。まず取り出したのは、主役となる栗です。

水分量が少なく身が締まっている熊本産の栗は味が濃いのが特徴で、水分を飛ばして炊く栗きんとんには最適だといいます。栗の屋では、作る菓子によって栗の産地や品種を変えています。

 50分ほど蒸したら、熱々のうちに専用の機械で皮をむき、そぼろ状に。これを砂糖と一緒に炊き”栗きんとんあん”を作ります。

 焦げつかないようヘラでかき混ぜながら…。栗菓子に特化した店だけあり、炊く量も膨大で毎日体力勝負です。もっとも重要なのが、炊き上がりの見極めです。炊き始めて35分、炊き上がりを手で確認します。

南谷さん:
「まだ柔らかいので、もうちょっと火をいれます。(栗は)とれる時期によっても全然違いますんで、触ってみるのが一番。最初は正直違いが判らないこともあったけど、やっていく中で覚えましたね」

 更に3分熱を加えて鍋から取り出します。しっとりとした柔らかさとほどよい甘味…。わらび餅に合わった”栗きんとんあん”が炊き上がりました。粗熱を取ったら、ひと口大に丸めておきます。

■自分にしか作れないお菓子を作りたい…修行に出ず父のもとで学び腕を上げた3代目

 物心がついた頃には和菓子職人を夢見ていた南谷さんは、高校卒業後に修業には出ず、すぐに家業に入りました。

南谷さん:
「うちはオリジナルのお菓子が多いので、うちでしか学べないこと。自分にしか作れないお菓子を作りたかったので、自分で考えながらやる時間を大切にしたかった」

 父のもとで基礎から始め、高度な技術や店の味を徹底的に学ぶと、「栗きんとんどら焼き」など自身のオリジナル商品も手がけるほどに腕を上げました。息子の成長ぶりに父は…。

父の隆之さん:
「本人が決めたので、親としては心強い面もあり心配な面もありますけど。ここのところは安心して見ていられる感じがあります。ここから先は自分のやり方を編み出してもらえるといいんじゃないかな」

 若くして才能を開花させた南谷さん。その技を惜しみなく「栗きんとんわらび餅」に生かしています。

■スッと伸びてズッと落ちる感じがベスト…わらび餅は栗きんとんに合う弾力に

 続いて、わらび餅を作ります。栗の屋では、コシが強いものと歯切れが良いものなど3種類のわらび粉を混ぜて使っています。

まず少しずつ水を加え、硬いダマが残らないように手で確認しながらわらび粉を溶きます。これを濾して、すっきりとした甘みの砂糖を加え火にかけます。

 程なくして、わらび粉のデンプンが固まりはじめました。焦げつかないように注意を払いながら5分ほど混ぜ続けると、煮えてきました。

ここで熱湯を注ぎ一気に練るスピードを上げると、みるみるうちに生地が色づき艶とコシが出てきました。ヘラから伝わる感触に集中しながら、栗きんとんに合う弾力を目指します。

南谷さん:
「栗きんとんはあんこほど柔らかくできないので、バランスをみてわらび餅のコシを強めにして炊きあげます。スッと伸びてズッと落ちる感じ。この感じがベスト」

 おいしそうな“わらび餅”が炊き上がりました。熱々の状態でちぎり、表面にきな粉をまとわせたら手早く栗きんとんを包みます。

■毎年待ってくれるのは職人冥利に尽きる…感動を与えられる和菓子を作り続ける

 最後に、きな粉をまぶせば完成です。

南谷さん:
「楽しいですよ。(客から)おいしいと聞くと嬉しいですよ、その言葉だけで。もっともっと感動させられるお菓子を作りたいと思うので、それが向上心につながっている」

 南谷さんの手仕事が生んだ「栗きんとんわらび餅」(180円)。わらび餅の心地よい食感の後に、栗きんとんの濃厚な味わいが口の中に広がります。秋の訪れを感じる至福の逸品です。

南谷さん:
「毎年待ってくれているのはすごくありがたい事で。その人の楽しみになっていることは職人冥利に尽きる」

「自分にしか作れないお菓子を作りたい」。南谷さんはこれからも人に感動を与えられるオリジナルの和菓子を作り続けます。