“名古屋老舗土産菓子店”廃業危機…『鯱もなか』の老舗がコロナ下の代替りでV字回復 4代目は何をしたのか
名古屋市中区に、114年の歴史を誇る老舗和菓子店があります。看板商品は、鯱の形をした最中に粒あんが入った「鯱もなか」です。この名古屋を代表するお土産品は、販売を駅などの売店に頼っていたため、コロナの影響で売上げは激減。その創業以来の最大のピンチを救ったのは、店を継いだばかりの若き女性店主でした。
■中にはたっぷりの粒あん…100年以上愛される「鯱もなか」
名古屋市中区の閑静な住宅街に佇む「元祖鯱もなか本店」は、明治40年創業の老舗和菓子店です。
【画像20枚で見る】“名古屋のお菓子御三家”廃業危機…『鯱もなか』の老舗がコロナ下の代替りでV字回復
店内には、和菓子だけでなく、ケーキやマドレーヌなどの洋菓子に、名古屋らしい金しゃちをモチーフにした「金しゃちパイ」(162円)や「鯱フレンド」(140円)など、約20種類が並びます。
中でも、創業以来ずっと店を支えてきた看板商品が、店の名前にもなっている「鯱もなか」(119円)。名古屋のシンボル・金のしゃちほこをかたどった皮の中に、たっぷりの粒あんが詰まっています。
女性客:
「フォルムがすごくかわいいのと、優しい餡の味っていう…」
別の女性客:
「餡がすごくおいしい。皮がパリパリという感じ。この『鯱もなか』に惚れまして」
「元祖鯱もなか本店」は、創業当時は「ますや菓子舗(かしほ)」という店名でしたが、大正10年に初代が開発した鯱もなかが大ヒットし、現在の名前に変更しました。その看板商品を作るのは、3代目の関山寛さんです。
3代目の関山寛さん:
「材料にはこだわっているし、工場直結のお店なので詰めたてのもなかをお客さんに提供するように…」
創業以来ずっと受け継がれてきた、こだわりの製法で作られる伝統の味です。
■餡の炊きあがりを見極めるのは職人の勘…創業以来受け継がれるこだわりの製法
こだわりの製法で作られる「鯱もなか」の餡には、風味が豊かで味が濃い、北海道十勝産の小豆が使用されています。糖度を順番に上げるため、2種類の砂糖を3回に分けて加え小豆に浸透させます。
寛さん:
「最後に残りの小豆と水あめを。ここで一気に強火で火力を入れてやると、美味しい餡が炊けるんです。毎日炊いていないと(炊きあがりは)なかなかつかめない」
強火で約45分。一気に炊くことで、ふっくらと粒立ちの良い餡になるといいます。季節や温度によって、硬さが違ってくるため、炊きあがりを見極めるのは職人の勘です。
昔はこれを、薪を使って手作業でやっていたといいます。純粋なもち米だけで焼き上げた香ばしい皮で、冷ました餡を包んで完成です。
■全国から届いた「残してほしい」の声…創業以来最大のピンチに店を継いだ店主の娘
100年以上、形や味を変えることなく受け継いできた「鯱もなか」。戦前は「青柳ういろう」「納屋橋饅頭」と並ぶ名古屋のお土産菓子御三家の一つといわれ、今もこの地方を代表するお土産品です。ところが…。
寛さん:
「駅の売店とかに(商品を)卸しているから、売れ残りで在庫が山になったんですね。70年生きてきて初めてですよね、こんな経験」
コロナによる大打撃…。空港や駅などの売店のお土産需要が約7割を占めていたため、売上は3分の1に。創業以来の最大のピンチに見舞われました。そんな中、寛さんの娘が立ち上がりました。
寛さん:
「ちょうどいい機会だと思ってやめよう(廃業)と思っていたら、せっかく100年以上続く歴史があるからって娘が『(お店)やるわ』って言ってくれた」
廃業ではなく、世代交代。4代目を継いだのはこれまで専業主婦だった、娘の古田花恵さんでした。コロナで経営が傾いた中での決断にはきっかけがありました。
花恵さん:
「売れなくて商品が余ってしまっていた時に、たまたまフードロスを無くそうというグループを見つけて、お菓子を出させていただいたのがきっかけ」
花恵さんが見つけたのが、コロナ禍で在庫を抱え困っている事業者を応援する通信販売のサイト。少しでも売れればとダメ元で「鯱もなか」を出品してみたところ、全国から約200件の注文が入りました。
花恵さん:
「これまで卸が中心だったので、直接お客さんの声を聞く機会がなくて…。『歴史を残してください』とか『おいしいお菓子なので守ってください』とか…。“愛されているお店だから守りたい”という気持ちが強くなりました」
コロナがなければ聞くことがなかったお客さんの声。これが花恵さんにとって店を継ぐ決意の後押しになりました。
寛さん:
「(娘が継いでくれて)うれしい反面、こういうコロナの時なもんで心配ですけどね」
■コロナ禍で激減した売上がV字回復…店を受け継いだ4代目店主の改革
寛さんの不安をよそに、売上はV字回復。そこには、4代目の改革がありました。
花恵さん:
「巣ごもり需要が高まっているので、オンラインを強化しました。今まで全く宣伝らしい宣伝とか本当になくて、LINEやインスタグラムに力を入れました」
公式サイトをリニューアルし、インスタグラム、Twitter、LINEなどのSNSを使って宣伝。限定クーポンやタイムセールなど購買意欲を刺激する情報も発信しました。
販売員強化のために、有名な百貨店で販売をしていた女性のヘッドハンティングも。
花恵さん:
「一人で全てできるわけではないので、販売を経験している彼女は、お年寄りにもすごく気に入られる子で、一緒に働きたいなと思ってお願いしました」
これらの改革のおかげもあり、公式サイトのアクセス数は以前の3倍以上に。お客さんをもてなす“接客のプロ”の助けもあり、売上はコロナ前の水準にまで回復。
男性客:
「Twitterで知って、初めて来ました」
女性客:
「(店主が)女性になったことで、ウェブサイトの雰囲気とかも良くなっていくんじゃないかと」
他の男性客:
「若い人たちが頑張っている姿が目に見えて、良いんじゃないかと思います」
■店を気軽に立ち寄れる『街のリビング』に…4代目の新たな改革はカフェ
若き4代目の改革で復活を遂げた「元祖鯱もなか本店」。花恵さんは、次の改革として職人である父・寛さんに依頼をし、店頭で販売する“秋らしいモンブラン”を開発していました。
寛さん:
「あんまり難しい注文いわれても…。でも、おいしいもの作りたいもんね。ビスケットの間にアーモンド入りの生地で、アーモンドのムース。食べるととろけるような感じですね」
花恵さん:
「(鯱もなかの)店舗があるのは皆さん知っているけど、もっと地域に根差した場所にしたいと…。『街のリビング』じゃないですけど、気軽に集まっていただける場所になるといいな」
次は、誰もが気軽に立ち寄れるカフェへの改装…。100年の伝統を受け継いだ4代目は、のれんを守るために、新たな改革に挑戦し続けます。
改装したカフェに設けるイートインスペースは、2022年の春にオープン予定で、店舗限定の商品も用意するということです。