90年以上続くも絶滅寸前…岐阜の元祖B級グルメ『天ぷら中華』の“海老天”がない 愛好家達は立ち上がった
岐阜県岐阜市に、知る人ぞ知る隠れたソウルフード「天ぷら中華」があります。90年以上の歴史を持つこのご当地グルメが今、絶滅の危機に瀕しています。地域の食文化を残したい…、天ぷら中華を愛する愛好家たちは、存続の道を模索しています。
■和風だしの中華そばに海老天を乗せて…岐阜の元祖B級グルメ「天ぷら中華」
岐阜県岐阜市で、天ぷら中華の普及活動をしている田代達生さん(45)。
田代さん:
「昭和初期くらいから90年ぐらい続く、岐阜の元祖のB級グルメだったんじゃないかと…」
【画像20枚で見る】】90年以上続くも“海老天”がなく絶滅寸前…岐阜の元祖B級グルメ『天ぷら中華』
天ぷら中華とはどのような食べ物なのか。早速、岐阜市内にある天ぷら中華が食べられる老舗の食堂「志のだや」へ。昔ながらの中華そばの上に、ドドンと大きな海老天が乗っている「天ぷら中華」(780円)。単に中華そばに天ぷらが乗っているだけでなく、麺、スープ、天ぷらが絶妙なバランスの絶品グルメです。
田代さん:
「中華そば屋さんが始めた訳ではなくて、うどん・そば屋さんが中華そばを出すようになったという流れ」
天ぷら“中華”というネーミングから、中華料理店のラーメンに天ぷらを乗せたモノと思いがちですが、実際には、うどん店の“和風だし”の中華そばの上に、海老天を乗せたメニューでした。
麺と天ぷらを食べ終わった後に、和風だしのスープに天ぷらの衣が溶け出し、思わず全部飲み干してしまうクセになる味です。
■当たり前に地域に溶け込んでいたソウルフード…全く注目されてこなかった「天ぷら中華」
このお店では一日6〜7人前は出るという天ぷら中華は、岐阜では90年以上の歴史があるといいます。
志のだやの店主:
「若いお客さん、『天ぷら中華は岐阜市のソウルフードだね』なんて話を…。そうか僕は認識不足だったなと思いました」
田代さん:
「どこのお店もこんな感じで…。全く注目されずにきたB級グルメの天ぷら中華だと…」
天ぷら中華は、当たり前に地域に溶け込んでいたため、特別注目されることはありませんでした。そもそも田代さんは、なぜ天ぷら中華を広める活動を始めたのでしょうか。
田代さん:
「ずっと天ぷら中華うまいなと思っていて…。よくよく周りの友人達に聞いてみると、皆そう思っていて。じゃあ天ぷら中華の愛好家でチーム作ろうと…」
田代さんは、7年前に地元の有志と同好会「天ぷら中華人民共和国」を結成。岐阜市のソウルフードとして広めるべく、食べ歩きツアーを企画するなど精力的に活動してきました。
田代さんらの調査によると、岐阜市内に天ぷら中華を出すお店は20軒ほど。つい最近まで名店舗がオリジナルメニューを考案するなど盛り上がっていたといいます。
■「天ぷら中華」が絶滅の危機に…多くの店が天ぷらを仕入れていた店が廃業
しかし、この1年で天ぷら中華を食べられるお店は激減し、わずか5軒にまで減ってしまいました。天ぷら中華は今、絶滅の危機に瀕しているといいます。天ぷら中華を襲った不測の事態とは?理由を調べるために、去年まで天ぷら中華を出していたお店へ。
うどん店の店主:
「出さなくなったというか、出せない…。『伊藤天ぷら屋』さんが辞められまして…。どうしても同じような天ぷらが手に入らないもんで…」
天ぷら中華を提供していたのは小さな食堂ばかりのため厨房に天ぷらを揚げるスペースは無く、ほとんどのお店は天ぷらの専門店である「伊藤天ぷら店」から仕入れていました。しかし、店は店主の高齢化などにより去年廃業。そのため、多くの店が肝心な海老天を入手できなくなりました。
田代さん:
「天ぷら屋さんが廃業しちゃうと手の打ちようがなくて…。(愛好家の)仲間の中に油問屋がいまして『天ぷら伊藤さんの事業を承継したら』とも言ったんですけど、結局うまくはいかず…」
具体的な解決策はまだ見つかっておらず、このままでは絶滅してしまうと心配しています。
■天ぷらを外から仕入れていたシステムが仇に…「天ぷら中華」存続の道を模索する愛好家たち
この日、愛好会のメンバー5人が集まり、天ぷら中華の存続に向けて話し合いが行われていました。サラリーマンや自営業など職種は様々ですが、天ぷら中華の未来を案じる気持ちは同じです。
田代さん:
「天ぷらが外から供給されるシステムは、岐阜市だけ。まさに分業しているからこそ、天ぷら中華カルチャーは花開いたが、分業していたからこそ脆かった」
愛好家のメンバー:
「『うどん高松屋』に供給している天ぷらは?(その店に)供給してもらうっていう手は?」
愛好家の別のメンバー:
「配達専門の天ぷら店で、海老しか揚げていない。伊藤(天ぷら店)の弟子でしょ?」
去年廃業した「伊藤天ぷら店」の弟子が、市内で天ぷらを配達しているという情報が。しかし、その弟子も既に80歳くらいといいます。
愛好家のメンバー:
「大体そんな業態、もうないよな。天ぷらを配達するとかさ…」
高齢の店主に、これ以上配達をお願いするのは現実的ではないと断念…。逆に、天ぷら中華をやりたいお店を探すのはどうかという話に…。
愛好家の別のメンバー:
「白神(ラーメン店)の卒業生が、天ぷら中華ずっとやりたいって言ってるけど…。揚げ物のハードルが高いわけですよ。スープも取らないかん、麺も打たないかん。さらに天ぷら…」
忙しいラーメン店では天ぷらを揚げている余裕がないのではないかと却下。会議は振り出しに…。
■二度揚げみたいな感じで…天ぷら中華の提供に前向きな反応の岐阜市役所の食堂
愛好家のメンバー:
「岐阜市役所の食堂に天ぷら中華を出してもらうのは?」
田代さん:
「そやね、岐阜市民が食べんと始まらないんだろうね」
地元の人が多く訪れる岐阜市役所の食堂に、天ぷら中華を作ってもらうという案が浮上。早速、岐阜市役所の食堂に電話で交渉です。
愛好家のメンバー(電話):
「岐阜市で天ぷら中華が、絶命の危機に瀕しているんです。メニューとして検討していただけないかと思って」
岐阜市役所食堂の担当者(電話):
「そうですね、揚げ置きさせていただいて、二度揚げみたいな感じに…。問題ないです」
突然な電話だったにも関わらず、市役所の食堂からは前向きな反応が…。
田代さん:
「つながった!首の皮1枚。(可能性は)ゼロじゃない」
愛好家のメンバー:
「(岐阜市役所の食堂は)寄りやすい場所であり、(天ぷら中華を)『面白いな』『美味しいな』と思った方たちが、いろんなお店を回ることが出来るなら、文化としてもまた続いていくんじゃないか…」
「まずは天ぷら中華を市役所の食堂のメニューに…」。見えてきた一筋の光…。天ぷら中華の愛好家たちは、90年の歴史を誇る岐阜の食文化を残すために、試行錯誤を続けます。
岐阜市役所の食堂の「天ぷら中華」のメニュー化については、2022年1月以降に本格的に検討に入る予定だということです。