ピーク時122頭→国内わずか4頭に…水族館のラッコが“絶滅の危機” 輸入も繁殖もできず模索続く
水族館で人気者のラッコが、日本から消えてしまうかもしれません。国内でのラッコの飼育数は、ピーク時は122頭でしたが、現在はわずか4頭と激減しています。その主な理由は、ラッコが絶滅危惧種に指定されたために輸入できなくなったからです。近い将来、日本で見られなくなってしまうのか…、模索が続いています。
■近い未来にラッコが日本から消える!?…ピーク時に122頭いたラッコがわずか4頭に
かわいらしいポーズをきめたり、大きなジャンプで餌を獲ったり…。三重県の「鳥羽水族館」で、お客さんに大人気のラッコのメイ(メス)とキラ(メス)です。
子供:
「すごくかわいくて、貝とかカリカリしてて…」
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しかし近い将来、水族館からラッコが消えるかもしれません。
鳥羽水族館の石原良浩さん:
「日本国内で、ラッコの飼育展示を継続するのは、非常に厳しい状況」
鳥羽水族館にラッコがやってきてから約40年間飼育をしている石原良浩さん(60)は、日本からラッコが消えてしまうことを危惧しています。
1983年に、鳥羽水族館にアラスカから4頭のラッコがやってきました。その翌年には、国内の水族館で初めて繁殖に成功。大人も子供もその愛くるしさに熱狂し、ラッコブームが到来します。
1994年のピーク時には、全国の28施設で122頭のラッコが飼育されていましたが、その後は減少。
現在その数は、わずか4頭にまで激減してしまいました。
その4頭は、三重県の「鳥羽水族館」のメイ(メス)とキラ(メス)、福岡県の「マリンワールド海の中道」のリロ(オス)、千葉県の「鴨川シーワールド」の明日香(メス)です。
■アメリカからのラッコの輸入が原則禁止に…乱獲等により数が減少し絶滅危惧種に指定
なぜ国内に、“たったの4頭だけ”になってしまったのか。その理由の一つが「ラッコの輸入の原則禁止」です。
鳥羽水族館の石原さん:
「アメリカで、ラッコに限らず海にすむ海獣類、哺乳類全部が捕獲禁止。それで許可がおりなくなって、(日本に)入ってこなくなった」
日本国内にラッコを輸入することは、原則できません。その背景にあるのは、私たち“人間”です。ラッコの歴史を紐解くと、断熱性の高いその毛皮を求めて乱獲され、数が激減した時代もあります。
1989年には、ラッコの最大の生息地であるアラスカで、原油タンカーが座礁。3000頭以上のラッコが死んだと推定されています。
こうした中、国際自然保護連合は2000年にラッコが「近い将来、野生での絶滅の危険性が極めて高い」として、絶滅危惧種(レッドリスト)に指定しました。
■かつて成功した繁殖も厳しく…繁殖能力が低下してしまった水族館のラッコたち
それならば、ラッコが日本にやってきた頃に成功していた“繁殖”はできないのか、石原さんはそれも難しいとしています。
石原さん:
「現存個体での繁殖は不可能。ラッコは繁殖力が旺盛な動物で、かつてはたくさん繁殖していた。そこから世代を繰り返すごとに、それぞれの繁殖能力が落ちてきたんではないかと…」
水族館で生まれたラッコたちは、エサを与えられる生活しか知らない“温室育ち”。そのため、世代が変わるにつれ、野生の感覚が失われ交尾をしなくなったり、母乳が出なかったりと、繁殖能力が低下しているとみられています。
鳥羽水族館では、メイ(メス)が2004年に生まれて以降、ラッコの子供は生まれていません。17歳となったメイも、人間でいうと70~80歳の高齢で、もう出産はできません。
国内にはメスがもう2頭いますが、「鴨川シーワールド」の明日香(メス)も年齢的に出産は厳しく、鳥羽水族館のもう一匹のキラ(メス)は、まだ出産できるとみられますが、こちらは国内にいるオスの問題がありました。
石原さん:
「残りのもう1頭のオスは14歳なんですけど、キラときょうだいなもんですから、近親交配をさせるわけにいかない…」
■保護して水族館での展示は可能か…北海道で複数のラッコの個体を発見
輸入もできない、繁殖もできない…。そんな中、日本のラッコの未来を救うかもしれない光景が北海道で見られました。
北海道大学 厚岸臨海実験所の鈴木一平特任助教:
「北海道で野生のラッコの繁殖が確認されていて、数えられるものとしては、20頭ほどはいるのかなという感じ」
北海道浜中町の霧多布岬(きりたっぷみさき)沿岸で、2016年頃から野生のラッコの繁殖が確認され始めています。一体どこから来たのか。北海道大学で野生ラッコの研究をしている鈴木一平助教は、千島列島周辺からやってきたと考えられると話します。
鈴木助教:
「そこの生態系で支えられるだけのラッコの数を超えてしまって、でも繁殖している。その状況の中で、冒険しようと思った個体たちが南下してきて、それで見つけた場所が北海道の沿岸域」
当初は3頭ほどだったラッコが、今ではその7倍の20頭にも増えました。このラッコを保護することで、水族館に連れていけないかと、検討が始まっています。
世界ではすでに前例があります。アメリカでは、野生のラッコの捕獲は現在も禁止ですが、親からはぐれたラッコやケガをして動けなくなったラッコを保護する取り組みが始まっていて、そうしたラッコを水族館で展示しています。鳥羽水族館でも、保護を目的としたラッコの展示に期待を寄せています。
鳥羽水族館の石原さん:
「人間が育てたのでは野生復帰ができないので、水族館へ収容しないといけない。日本でも幼いラッコが保護して人工保育をした場合には、リリースすることはできないと思います。いざとなった時に、そういうこと(飼育)ができるように、準備だけはしておかなければいけない」
しかし、北海道で見つかったラッコは、まだ生態を調べている段階で保護できるかどうかの判断には、まだまだ時間がかかるとみられます。
鈴木助教:
「はたして、このままずっと安定してそこにいられる個体かどうか検証できてないので…。安定して個体が増えてくる形になったら、何らかの形で水族館が保護できたらいいかな」
このまま、日本でラッコがみられなくなってしまうのか、模索が続いています。
北海道で見つかったラッコの保護には、多くの課題があります。先進事例として、アメリカではすでにラッコの保護活動が始まっていますが、そのために20年以上、生息範囲やどのような餌を食べているかなどの研究を続けてきました。その中で、保護するべきラッコの判別ができるようになったといいます。日本で同様の保護・展示を行おうとすると、20~30年かかるのではないかと推測されています。