現代のしゃべくり漫才の原形とされる「尾張万歳」は、名古屋ではお祝い事に欠かせない芸能として伝わってきました。しかし、その文化を継承する担い手は徐々に減少しています。そんな中、尾張万歳の普及に努める58歳と26歳の親子は、その700年の伝統を守るために、笑いで福を呼び続けます。

■「誰かがやらないと無くなっちゃう」…“漫才”のルーツ「尾張万歳」を守り続ける親子

 2022年元旦の名古屋城。「尾張名古屋は城でもつ!」「笑う門には福来る!」。

【画像20枚で見る】守るのは700年の伝統…笑いで福を呼び込む『尾張万歳』父・増笑門と息子・増吉の奮闘

名古屋城の新年は、今年も恒例の尾張万歳で始まりました。今枝増笑門さん(58)と増吉さん(26)は、親子で尾張万歳を続けています。

扇を持った太夫(たゆう)と、鼓を持った才蔵(さいぞう)の掛け合い。

 そもそも尾張万歳は、約700年前に尾張の国の僧侶がお経に節をつけて歌ったのが始まり。正月などの“祝福芸”として人気を集め、その後、現代のしゃべくり漫才のルーツとなりました。

伝統の尾張万歳を継承する「今枝社中」は、12歳から58歳までの12人が稽古に励むとともに、尾張万歳の普及に努めています。

増吉さんらは、子供たちに特別授業も行っています。

増吉さん:
「この間動物園にひつじさん見に行ったんです。具合悪そうだったんで聞いたんです。『どこが悪いの?』『目(め)~』なんてどうかねあいならえ~」

「いま尾張万歳をやっているのは今枝社中の12人だけなので、私たちがやらなくなったら無くなってしまう」。増吉さんは尾張万歳の伝統が途絶えてしまうことを危惧しています。

■家庭や店に福を呼び込む…新春恒例の祝いの言葉を唱える「門付万歳」

 2022年1月3日。今枝社中は、名古屋市緑区の旧東海道の宿場町「有松」で、新春恒例の行事を行っていました。一般の家庭やお店を訪ね、祝いの言葉を唱える「門付万歳」です。

店主:
「心が引き締まる思いですね、このお囃子を聞くと。今後も続けていってください」

3時間ほどかけて店や家を30軒ほどまわり、笑いで福を呼び込みます。訪ねた家には「千社札」を貼ってもらいます。

増吉さんが小学生の頃からの馴染みの家も。増吉さんは7年前に亡くなったこの家のおばあさんには、とてもお世話になったといいます。

増笑門さん:
「(増吉が万歳を)始めて1~2年目の時に、『待っていたんだよ』って言っていただいて。本当に嬉しくて」

■天国に福を届ける…万歳を楽しみにしていたおばあさんのために

 続いても、常連さんのお宅を訪ねます。

常連の男性:
「母親、脳出血しちゃって…。亡くなっちゃった」

 2021年に100歳で亡くなったこの家のおばあさんは、万歳を毎年楽しみにしていました。

増笑門さん:
「ご主人が鼓の音だけで、表に出られて手招きして。『母に歌ってやってください』って言っていただいて…」

同・男性:
「毎年お子さんたちが大きくなるのが、こちらも楽しみで。(母も)『また来てくれたな』って思っていると思う」

 増笑門さんと増吉さんは、天国のおばあさんに福を届けました。

増笑門さん:
「本当であればお祝いしてはいけないけど、あえて呼んでいただいて。万歳を理解している方が、継承しているのはありがたい」

■「古典芸能まだまだやるじゃないと思われたい」…伝統芸能を守り続ける親子

 2022年1月4日、徳川園での新春万歳。大いに笑い、大いに歌う…。700年続く伝統芸である尾張万歳。この日の舞台では、大きな拍手と、おひねりが飛び交いました。

増吉さん:
「皆さまの力添えをもちまして、この尾張万歳をなんとか盛り立てていただきますよう、ひとえにお願い申し上げます」

増笑門さん:
「笑うって事にこだわって、古典芸能まだまだ頑張っているなと、やるじゃないかと思われるくらいにしていきたい」

笑う門には福来る。増笑門さんと増吉さんは、これからも笑いでたくさんの福を呼び込みます。