岐阜県中津川市の中央道で1月、走行中のダンプカーからタイヤが外れ、周囲にいた車にぶつかる事故がありました。大型車のタイヤの脱落事故は近年増加傾向にあり、冬場に多く発生しています。事故の原因や、ドライバーの対策について取材しました。

■岐阜県の高速道路で起きた事故 国交省の実験では「死に至る可能性が高い」

 1月18日、岐阜県中津川市の中央自動車道・下り線で、走行中のダンプカーから左の後輪4本のうち2本が外れ、100メートルほど転がる事故が発生しました。

 タイヤ1本は下りの神坂パーキングエリアで乗用車に衝突し、乗っていた2人が首に軽いケガをしました。もう1本は中央分離帯を越え、上りのパーキングエリアに駐車中のトラック2台にぶつかりました。

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 国土交通省がウェブで公開している、時速60kmで走るトラックからタイヤが外れ、その先のダミー人形にぶつかる想定の実験映像では…。

 乗用車の約6倍・90kgもある大型車のタイヤがぶつかった人形の体は、タイヤに沿うように折れ曲がり、頭もタイヤに打ちつけられました。

 人形が受けた衝撃は、人間なら頭蓋骨やろっ骨などが折れ、死に至る可能性が高いという結果でした。

■冬場に多発し近年増加傾向の大型車のタイヤ脱落事故 専門家に聞いた原因

 大型車のタイヤが外れる事故の月別発生件数(2020年度)を見てみると、冬場に集中していることがわかります。また、年単位では2011年から年々増加傾向にあります。

 なぜ近年、そして冬に大型車のタイヤ脱落事故は増えるのか、100件以上の交通事故鑑定を行ってきたラプターの中島博史所長に話を伺いました。

 まず、冬場に多い原因として「初期なじみ」が考えられるといいます。

 ネジはナットと山と谷がぴったり合わさることで締まりますが、サビや傷などによって表面にはわずかな凹凸が存在します。この凹凸が走行することで擦れて平らになり、わずかなスキマができてネジが緩みやすくなる現象を「初期なじみ」といいます。

 中島さんによると、冬を前にスタッドレスタイヤに交換し、その後「初期なじみ」によってタイヤが脱落しやすくなるのではないかと話しています。

 また、タイヤが脱落する場合は9割以上が左後輪で、これには「日本の道路事情」と「ナットの締め方の変化」が関係するのではないかと中島さんはみています。

 日本は左側通行で、左折する時は小回りになって、左後輪のタイヤがねじれて負荷が増えます。逆に右折する時は大回りでスピードが出るため、遠心力によって左後輪の負荷が増えます。

 道路は排水のために中央がやや高くなっていて、緩やかな左下がりの傾斜を走っている状態のため、左のタイヤへより負荷がかかります。こうしたダメージの蓄積で、脱落の可能性が高まってしまうと考えられるということです。

 2010年にはトラックの輸出などのために、ナットが国際規格に変更されました。

 左タイヤは、以前は左回しで締めていたものを、右回しで締めるものに変更。これにより、以前は走行中はナットが締まる方向へ力がかかっていましたが、変更後はナットが緩む方向へ力がかかり、脱落の可能性が高まると考えられるということです。

 中島さんは「因果関係はハッキリしていないが、この10年ほどの事故増加の原因になっているように見える」と話しています。

■一番時間をかけるのはタイヤの点検 60個のナットを叩いてくまなくチェック

 大型車のドライバーはどのように点検などを行っているのか、愛知県の運送会社を取材しました。

 ダンプカー運転歴13年、アイカイ物流の金井さん。

金井さん:
「テレビを見ていて、ブレーキやタイヤが壊れて事故につながるのが怖いなという気持ちはあります」

 金井さんの点検を見せてもらいました。まずはブレーキやランプのチェック。

 その後、最も時間をかけて行うのがタイヤの点検です。

金井さん:
「まず、タイヤの亀裂・損傷・摩耗とかをザーッと目視で見ます。ナットは点検ハンマーで(叩く)。緩むと振動がビビッて違和感がある」

 ナットが緩んでいると振動が大きくなり、音にも違和感があるといいます。この緩みが脱輪にもつながるそうで、全部で60個のナットをくまなくチェック。

金井さん:
「ちょっと時間がかかりますね。(Q.もし緩んでいたら?)一応締められますけど応急処置的な感じなので、専属のタイヤ屋さんになるべく早めに持って行く」

 そして最後に、ブレーキなどの効き目に関わるエアタンクを確認して終了です。

 かかった時間はおよそ10分。これを毎日行います。

金井さん:
「(タイヤを)はめ換えてすぐはまだなじんでなくて、100kmくらい走ってなじんだ時に緩いナットは緩まっているので、そこでもう一回締め直すとしっかり締まる」

 初期なじみを防ぐため、タイヤを交換した後は特に入念にチェックしているそうです。

金井さん:
「人を傷つけたり死んじゃったりが一番怖いなと思います。荷物を積んでいるときと積んでないときも、ブレーキの利き方が違ったり、曲がり角で傾いたりというのもあるので、安全には気を付けて運転しています」