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愛知県幸田町に、50代の職人が作る様々なデザインの仏壇が、国内外から注目を集めています。仏壇業界は今、生活様式の変化で仏壇を継承せずに廃棄する家庭が増えるなど、変革を迫られています。この仏壇職人の男性は耐久性にも優れ、住宅事情にも左右されないコンパクトな仏壇を開発しています。
■これだけでお寺が明るくて楽しい場所に…住職が叩く木魚は「ウルトラマン」
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愛知県愛西市にある大法寺(だいほうじ)は、創建470年以上という由緒ある浄土宗のお寺です。そんな歴史あるお寺の住職が叩くのは、ウルトラマンの顔をした木魚。その下に敷かれた座布団にはカラータイマーも付いています。
住職の男性:
「お寺って来たくないでしょ。でもこういうものが1つあるだけで、お寺が明るくて楽しい場所になる」
【画像20枚で見る】注目の職人が作る “コンパクトな仏壇” 位牌を「死ではなく『生きた証』に」
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愛知県幸田町で三河仏壇の製造販売を手がける「都築仏壇店」。徳川家康のふるさと岡崎で生まれたとされる三河仏壇は、豪華な装飾が特徴の伝統工芸品です。ウルトラマンの木魚を作ったのは3代目の都築数明さん(50)です。
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都築さん:
「円谷プロ50周年の時に“50人のアーティスト”の中の一人に選んでもらい作った。木魚を見ていたらウルトラマンっぽいなと思いまして」
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「ウルトラ木魚」(大)は100万円で、(小)は9万1800円です。
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さらに都築さんは、和田アキ子さんの芸能生活50周年を記念した「和田木魚」(非売品)も作りました。
■仏壇づくりで培った技術を玩具メーカーに売り込み…漆で仕上げた限定フィギュアが話題に
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作り始めたきっかけは、仏壇店が抱える悩みでした。
都築さん:
「この仏壇は廃棄処分。家を建て替えるのに、スペ-スがとれないと。大きいのはやめて小さいのに。仏壇を売るより廃棄の依頼が多い」
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仏壇だけではなく、仏像の廃棄依頼も多いといいます。
都築さん:
「コロナで法事やらなくなって、家族がどんどん小さくなっちゃった。仏壇業界からしたら、どうにもならない時代がきちゃった」
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三河仏壇は、8種類の仕事にそれぞれ専門の職人がいる完全分業制。その中で都築さんは、デザインと組み立てを担当しています。業界の生き残りをかけ、都築さんは30歳の頃から若い人の興味をひく仏壇を考案し始めました。
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2001年に他の職人たちを説得して作った八角三河仏壇「卜(ぼく)」は、仏壇コンクールで金賞を受賞。
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その後も、昭和のテレビをイメージした仏壇「テトセ」や、角が生えた武将風仏壇「武壇(ぶだん)」。
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さらに、中に入って拝むスタイルの瞑想空間仏壇「カンタカ」は、愛知万博でも展示されました。東京をはじめ、アメリカやドイツなどで開催した個展も好評だったといいます。しかし…。
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都築さん:
「業界では有名になるが売れない。欲しくないんだなと。(仏壇以外で)売れるものがあるので、そこに仏壇の技術を投入しようと」
都築さんは、仏壇づくりで培った技術をおもちゃ会社に売り込みに。
都築さん:
「話を持っていったら『うるし塗りのフィギュアとか面白いんじゃない?』とか、『金箔したら面白いんじゃない?』と技術を買ってくれたわけですよ」
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漆でコーティングした限定フィギュアは、マニアの間で評判に。金箔と漆で仕上げた「漆ウルトラマン」(80万円)は、1体だけの限定品です。その後手がけたキャラクターの木魚はメディアでも紹介され、三河仏壇の名前を全国に広げました。
■位牌があるから家族が集まる…被災者から教えてもらった“位牌の大切さ”
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都築さんは新たな試みに挑戦しています。それは、お墓の役割も果たす小さな仏壇「i Lived(アイ・リブド)」です。
都築さん:
「死んだんじゃなく、生きたというコンセプト」
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経歴や遺影が刻まれたスマホのような位牌にお骨を入れ、金属製の本に収める小さな仏壇「i Lived(私は生きた)」。思いついたきっかけは、11年前の東日本大震災でした。
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被災地へ位牌や仏壇の修復ボランティアとして訪れた都築さんは、3、4本の仏壇を修復しましたが、それほど喜ばれることはなかったといいます。しかし…。
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都築さん:
「位牌は泣いて喜ばれる。おじいちゃん、おばあちゃんが帰ってきたと。人として扱うわけですよ。被災者の方から、位牌の大切さを教えてもらった。位牌があるから家族が集まるんだと」
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被災者からの感謝の言葉で、位牌に対する想いを知った都築さんは、永遠に受け継がれていく小さな仏壇を作ろうと決意。10年間試行錯誤を繰り返し、遂に実現させました。
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都築さん:
「人は二度死ぬと言われていて、一度目が肉体の死で、もう一つは皆さんの記憶からの死。位牌の中に『生きた証』を残して、そこにお骨を入れて、100年後の子孫に何をやってきたかわかるといいな」
■誰かがふと思い出してくれるように…「生きた証」が刻まれたコンパクトな仏壇
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お骨とともに、故人の記憶を納める小さな仏壇の試作を見せてもらいました。今回の仏壇のモデルは、2021年11月に他界した都築さんの祖母の末子さんです。
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末永く使えるように、素材や加工も今までにないものを使い、位牌を収める本は地元の工場に協力してもらいジュラルミン製にしました。マシニングという工作機械が、図面通り全て自動で削り取ってくれます。
都築さん:
「ピカピカ、イメージ以上です。重いけどこれくらいの重さが大切なものを守るって感じがしてすごくいい」
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本の扉は、温かみを出すためにあえて木で。仏壇にも使われる木目が美しいケヤキを、都築さん自らが製作します。
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中に収める位牌は、岡崎市にあるベンチャー企業に依頼。スギの間伐材から作った粉と生漆(きうるし)という精製する前の漆を使います。
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加熱しながら数時間混ぜ合わせるとココアのようなパウダーに。それをさらに加熱すると、強化プラスチック並みに硬くなりました。
都築さん:
「石みたい。石なんだけど温かさがある」
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天然素材ながら耐久性に優れた位牌。そこに祖母・末子さんの“生きた証”を、レーザーカッターで刻みます。そして末子さんの息子で都築さんの父、この道50年の一三さんが位牌に金粉を塗ります。
都築さん:
「いろいろ改良の余地はあるけど、とりあえずレーザーの特徴もわかったので、ブラッシュアップして販売までにはいい形にしたい」
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震災の位牌修復ボランティアから得た想いを形にした、耐久性に優れ、住宅事情にも左右されないコンパクトな仏壇です。
都築さん:
「生きた証しが残って、誰かがふと思い出してくれ、次の世代の人たちがこんなおばあちゃんがいたんだと…。こういうものが作りたくて、今までやってきた気がする」
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本型の仏壇「i Lived(私は生きた)」は、2022年春に販売予定で、価格は数十万円を予定しているということです。