なぜ名古屋の喫茶店ではコーヒーに『豆菓子』が…背景にあったピーナッツ会社の戦略と“名古屋ならではの事”
名古屋の喫茶店で、コーヒーを注文すると「豆菓子」が付いてくるサービスがあります。この文化は、他の地域にはないといいます。なぜ名古屋ではコーヒーに「豆菓子」が付くのかを調べると、ピーナッツ会社の販売戦略や名古屋のコーヒーの味に理由があることがわかりました。
■他の地域にはない独自の文化…コーヒーに「豆菓子」が付くサービス
訪れたのは名古屋駅前にある1974年創業の喫茶店「モーニング喫茶 リヨン」。店主に、なぜ豆菓子を付けるようになったか聞いてみると…。
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店主:
「喫茶店を始めて48年になるけど、その時(創業)から付いていたし、疑問を持ったことがない…」
ご主人は創業当時からこのスタイルのため、今まで一度も疑問に思ったことがないといいます。
他の地域には、この様な文化はないのか。名古屋城に観光に来た人たちに聞いてみると…。
東京から来た観光客:
「(喫茶店でコーヒーに付いてくるものは)ないよね…。お水?」
埼玉県から来た観光客:
「付いてきませんね…。ミルクとか砂糖?」
他の地域にはおまけの文化がないようです。名古屋では豆菓子が付くことを伝えると…。
埼玉県から来た観光客:
「名古屋だけ付いてくるんですか?豆菓子ですか?コーヒーに?素晴らしいですね」
どうやら地方独特の文化のようです。
■豆菓子だけでなくプチケーキも…おまけが選べる楽しみがある喫茶店
調査のために「名古屋の喫茶店」の著者でフリーライターの大竹敏之さんと、名古屋市昭和区にある「珈琲家 比呂野」に伺いました。
大竹さん:
「ちょっとここ変わっている。おまけが選べる。こちらはよくある豆菓子とあられですけど、こちらはプチケーキ。こういう感じで選択肢がある」
珈琲家 比呂野の店主:
「名古屋はモーニング文化があるので、アフタヌーンもあってもいいんじゃないかと」
この喫茶店では午後3時から7時のアフタヌーンタイムに、おまけとして豆菓子かパンケーキかを選ぶことができます。
大竹さんの調査によると、名古屋の喫茶店のおまけで一番多かったのは豆菓子ですが、クッキーやビスケットなどを出しているところもあるといいます。
ちなみに、名古屋市中区・鶴舞にある「喫茶 新潟」では、コーヒーにハッピーターンが付くことがSNSで話題に…。
これは店名の通りマスターの両親が新潟出身ということで、新潟を代表する企業・亀田製菓のハッピーターンをおまけにしているといいます。
■きっかけはピーナツ会社の販売戦略…多くの喫茶店が採用し普及した豆菓子文化
名古屋では、なぜコーヒーに豆菓子が付くのでしょうか。大竹さんは、そのきっかけは名古屋市港区にあるピーナツ製造販売会社「ヨコイピーナッツ」だといいます。
大竹さん:
「そもそもは、昭和36年(1961年)に始まったサービス。販路を広げなきゃと、目についたのが喫茶店だった。ピーナツを付けるってちょうどいいなって、喫茶店にとっても願ったりかなったりだった」
ヨコイピーナッツが、ピーナツを売るためにコーヒーのおつまみにすることを考案。金山にあった喫茶店「ひので」が最初に取り入れ、ライバル店との差別化ができると名古屋中に広がったといいます。しかし…。
大竹さん:
「差別化のために採用したんですけど、普及しすぎて結局差別化にならなかったオチまでついている」
■塩気ある豆菓子が相性抜群…名古屋ならではのコクと苦みの強いコーヒー
そして、大竹さんによるとこの豆菓子が一気に普及したのには、名古屋の喫茶店のコーヒーの味が大きく関係しているといいます。
大竹さん:
「特に古いお店はコクと苦みの強いコーヒーを出す店が多かった。東京の人、今でも『名古屋のコーヒーはドロドロ』というくらい濃い。そのコーヒーの苦みとピーナツの塩気がちょうど良い具合に合った」
名古屋の喫茶店は苦みとコクがあるコーヒーを出すお店が多く、その濃い味と塩気のある豆菓子との相性がよかったことから広がったのではないかと大竹さんは推測します。
ちなみに、なぜ名古屋のコーヒーは苦いのでしょうか。
大竹さん:
「いわゆる名古屋めしって味が濃い。そういったものを食べた後に、淡麗なコーヒーだと口の中がさっぱりしない。だから名古屋の料理に負けないような濃いコーヒーが好まれるように…」
料理だけでなく、コーヒーまで味が濃いのには、それなりの理由があるようです。
■家飲み需要の高まりと共に…コロナ禍で人気の「豆菓子」
そんな豆菓子が、今ある事情から注目を集めています。訪ねたのは、名古屋市西区に本社を構える「春日井製菓」。なぜ豆菓子が人気なのでしょうか。
春日井製菓の担当者:
「“家飲み需要”が高まっていまして、その中でおつまみやお茶うけ菓子として、需要が高まっています」
コロナ禍で家飲みが増えたことで、手軽に楽しめるおつまみとして豆菓子が売れているといいます。ちなみに、最近のおすすめは、紅ショウガ天味や焼き鳥味など、お酒に合うように濃い目の味付けにしてある「居酒屋紀行」。この商品に記載のQRコードを読み取ると、まるで居酒屋にいるような雰囲気に浸れるあるユニークな仕掛けが…。
同・担当者:
「居酒屋に行ったような音声とか動画が楽しむことができて、食べるだけでなく五感でも楽しんでいただける」
ビールやおつまみの動画を見ながら豆菓子を食べることで、お店の雰囲気を味わう。少しシュールではありますが、確かに“五感”で居酒屋の雰囲気を感じることができました。
同・担当者:
「世界的に豆は環境にいいものとして、食べようという活動が進んでいます。ただ、なかなか日本では食べられていなくて、豆を愛している東海地区からもっと発信できたら」
なぜ名古屋では、コーヒーに「豆菓子」が付くようになったかを調べると、ピーナッツ会社の販売戦略と名古屋の濃いコーヒーの味に理由があることがわかりました。
ちなみに、「居酒屋紀行」の新商品“札幌すすきの ジンギスカン味”が、3月に発売される予定ということです。