明治から令和まで地元に愛される…120年続く『街の銭湯』 湯気の中にあったいつの時代も変わらぬ人情
名古屋駅から徒歩約10分のところに、明治から120年続く銭湯があります。浴場には「富士山の絵」や「タイル地の浴槽」など昔ながらの銭湯の風景が広がっています。明治から令和まで愛され続ける街の銭湯を取材すると、いつの時代も変わらぬ人情がありました。
■まるで昭和にタイムスリップ…名古屋駅近くのレトロ感あふれる銭湯
名古屋市中村区の名古屋駅の西にある「地蔵湯」(料金 大人440円 小学生150円 小学生未満70円)。その名前の由来は、入口の横にあるお地蔵さんといわれています。
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明治中期に創業し、歴史はおよそ120年。脱衣所には、木製のロッカーやお釜型のドライヤー、年季の入ったマッサージチェアなど。浴槽は普通のお湯だけでなく、泡風呂や電気風呂、水風呂もあります。
男性客:
「あー、やっぱりほっとします」
女性客:
「ありがたい。ここに来ると疲れがとれちゃうから」
たくさんの人たちがほっと一息つく「地蔵湯」は、5代目の松本靖子さん(68)と息子で6代目の政哉さん(43)が切り盛りしています。
■ここがなかったら困る…一日の疲れをとりにくるたくさんの常連客
開店時間の午後3時を待たずにやってきた男性は、週に2回通う常連です。
常連の男性(69):
「やっぱり一番風呂はいい。この泡風呂、プカプカしてるのが好きだから。一日はこれで終わり」
自宅から20分、散歩がてらにひとっ風呂。夜8時には就寝するという男性は、早寝早起きが元気の秘訣だと話します。
開店に合わせて、続々とお客さんがやって来ます。
常連の男性(60代):
「今日は寒かった、風が強かった。あったかい、足が伸ばせるからなんといってもほっとします」
大きなお風呂を楽しむ人は他にも…。
飲食店勤務の男性(54):
「(浴槽で足を広げて)一番気持ちいい入り方。ここに入ってない次の日なんて身体が痛かったりする。ここがなかったら困る。どんどん銭湯がなくなっている時代なので…」
入浴後はマッサージチェア(1回20円)です。
同・男性:
「今日ね、背中が痛いんだわ。ハンドルで位置を、調節は自分で…。痛気持ちいい…」
中には、水風呂で手を合わせる人も…。
ヨガインストラクターの男性(56):
「瞑想している。自分と向き合う時間ってなかなかないでしょ。だからゆっくりお風呂に浸かりながら。ここね、お湯がいい。あと(店の)お母さんと息子さんがいい」
■「毎日来て話をすると気が晴れる」…50年以上ほぼ毎日通う常連の男性
続いてやって来たのは、50年以上ほぼ毎日通う常連です。
50年来の常連の男性(80):
「『今日パチンコでもうかった』とか、そういう話ばっかり。負けた時は、みんな黙っとる」
常連の男性(78):
「俺は(パチンコ)ダメだ。今日は全然ダメだ」
常連同士はすっかり顔馴染み。銭湯で仲良くなり、昔話が弾みます。そして、風呂上りには瓶の牛乳(110円)です。
6代目の政哉さん:
「お年玉とかくれとったで、俺に」
12、13歳の頃から来ているという男性(80)は、「毎日来て、誰かと話をすると気が晴れる」と話します。
■一日中誰とも喋らなかったという人も…何気ない会話をしにやって来る常連の女性
午後7時。仕事終わりでやって来た会社員の女性(43)は、在宅ワークが増えたことで、対面で話す機会が減りました。
女性客:
「来て、すぐ(風呂に)入らず、一通りお喋りをしてからお風呂に入って…。『最近どう』とか」
6代目の政哉さん:
「自分が喋り疲れたら帰る」
女性客:
「そうかな…。政君(6代目)の話を聞き疲れたら帰る」
女将さんやご主人との何気ない会話も癒しのひととき。街の銭湯ならではの光景です。
5代目の靖子さん:
「今、近所付き合いが希薄。一日中、誰とも喋ってなかったって。ここへ来て初めて言葉を発したっていう人も。楽しいお仕事ですよ。もうちょっともうかればね…」
■湯を炊くボイラーが故障し臨時休業に…困惑する常連客たち
6代目の政哉さんは、お湯を触れば大体の温度が分かるといいます。
政哉さん:
「(客が気持ちいい温度は)41度。42度を超えると(熱くて)入れないと思う。最近は、お客様も熱いよりぬるい方が好きな人が増えたから」
風呂の温度管理に欠かせないのが、銭湯の心臓部である「ボイラー」と「ろ過器」。開店前に毎日、政哉さんがボイラーの電源を入れて、ろ過器で循環させながら湯を沸かしています。しかし、この3日後…。
30年以上前に取り換えたボイラーの部品のモーターが壊れてしまい、湯を炊けなくなってしまいました。
政哉さん:
「自分で直せるなら直しているけど…。(替わりのモーターは)九州から。今ボイラーを作っている会社が少なくなっているので…」
ボイラーの部品はわざわざ九州から取り寄せます。ボイラーは、1台およそ300万円。昨今、銭湯が廃業する理由は、“後継者不足”かこの“機械の故障”が多いといいます。緊急事態に、常連客は…。
常連の男性:
「てっきり開いてると思って、残念」
別の常連の男性:
「寂しいね」
「地蔵湯」の臨時休業に「困った」と話すのは、近所でクリーニング店を営む吉川米子さん(83)です。仕事終わりにほぼ毎日通う吉川さんが一人暮らしをする9畳一間には、風呂がありません。
吉川さん:
「クリーニングだから蒸気とか湯気立つといかん。だから風呂なしでってことで住んだ」
クリーニングをした衣服などに水滴がつかないように、あえて風呂のない部屋を選んだといいます。今日のお風呂はどうするのでしょうか。
吉川さん:
「隣の奥さんが『入りにいらっしゃい』って言って下さるから、1日、2日お世話になるわって」
政哉さん:
「冬に壊れたのはショック、寒いから。お客さんも寒い中歩いて来てくれるのに。もう一回ちゃんと営業して(客から)『うれしかった』って言葉を聞きたいので…」
修理のため5日間休業しましたが、無事ボイラーも直り、再開。明治から令和まで愛され続ける街の銭湯を取材すると、いつの時代も変わらぬ人情がありました。