家から100mに攻撃の痕…キエフから避難せず戦況伝える日本人「暴挙許せば次は日本。対岸の火事ではない」
戦禍が続くウクライナの首都キエフに留まり、YouTubeで戦況を伝えている日本人男性がいます。このキエフ在住15年の男性は、身の危険を感じながらも、日本人に「対岸の火事ではない」ことを知ってもらうために発信を続けています。
■鳴り響く爆撃音に銃声…現地から戦況を発信し続けるキエフ在住の日本人男性
ウクライナメディアによると、3月3日に首都キエフ北部にあるチェルニヒウで集合住宅が空爆され、がれきの中から33人以上の遺体が見つかりました。
また、ロイター通信は、チェルニヒウ州の2つの学校が砲撃を受けたと報道。キエフ州のボロジャンカでは、砲撃によって建物から煙が立ち上り、凄惨な光景が映し出されています。
そんな中に行われた2回目の停戦交渉は、戦闘地域から脱出する避難ルートの確保で合意。しかし、戦闘が全面的に止むめどは立っていません。今キエフの街は、どうなっているのでしょうか。YouTubeで現地の情報を発信しているキエフ在住15年の日本人・高垣典哉さん(56)に話を聞くことができました。
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高垣さん:
「つい一週間前までは普通に生活していました。爆弾を2発撃たれる時まではね。まさかキエフは攻めてこないと思っていたから…。昨日(3月2日)の午後11時くらいにすぐ近くに(ミサイルが)落ちたんですよ。(自宅から)200メートルくらいの位置です。みんな怯えているんですよ。警官もそうだし、住民も怯えているから…」
2月26日に高垣さんが自宅から撮影した動画には…。
高垣さん(現地時間2月26日午前10時過ぎ):
「戦闘が始まったみたいです。このアパートの向こう側です。(建物の下を見て)走って逃げている」
爆撃音は取材中にも…。
高垣さん:
「(爆撃とみられる音)今ちょっと聞こえません?ゴロゴロなっているの。どこかでまた爆撃ですよ」
高垣さんの自宅もいつ攻撃されてもおかしくないほど、身の危険がすぐそばに迫っている状況です。
キエフの街に出てみると…。
高垣さん(3月2日のYouTube動画):
「(ロシアの)工作員が乗っていた車です。銃弾の痕です。真っ黒こげになっていますよね、めちゃくちゃになって…。こういう車が向こう側にも3台、4台あった」
高垣さんによると、これらは激しい戦闘の末に動かなくなったロシアの工作員の車だといいます。他にも…。
高垣さん:
「自宅近くの銀行なんですけど、銃弾が撃ち込まれています」
自宅から100メートルほどの場所でも、攻撃の痕が残っていました。
■品薄により通常1000円の肉が1万円以上に…商品がほとんど無いスーパーの陳列棚
高垣さんが今一番困っているのは、食料などの確保です。スーパーやレストランはほとんどが閉まっています。
高垣さん(2月26日のYouTube動画):
「今スーパーマーケットに、1軒だけ空いていたんです。すごい並んでいて、商品も全然ないです。今、買い占めでこれだけ買いました。(レジに)すごい並んでいます」
3月2日の動画では、手に持つのはパックに入ったサラダです。
高垣さん(3月2日のYouTube動画):
「パンとかも全部売り切れで、なかなか買えないので、これがパンの代わりのクラッカーみたいなもの。クリームチーズみたいなのにつけて食べるんです。毎日こんな食事ですので、肉食べたいです。昨日買おうと思ったんです。通常1000円くらいなんですよ、ステーキのパックになったやつ。それが約100ドル、1万2000円くらいになっていました」
品薄により物価が上がり、肉の値段が10倍以上にもなっているといいます。
■ウクライナは民族にとっての原点の地…ロシアがウクライナに軍事侵攻した理由
ウクライナへの攻撃の手を緩めないロシアが軍事侵攻を決断した理由を、東ヨーロッパの政治経済を研究してきた名古屋学院大学の家本博一名誉教授に聞きました。
家本名誉教授:
「ロシアにとって(ウクライナは)欠くことができないものであるし、これがなかった時の代わりになるものがないという意味の『不可欠』さ」
1991年にソビエト連邦が崩壊し、ウクライナは独立、歓喜に沸きました。しかし、ロシアにとっては…。
家本教授:
「ロシア帝国、ソ連邦はウクライナから出発したものとして位置づけられている。だから民族にとっての、自分たちの国や地域にとっての原点」
9世紀後半から13世紀半ばまで、ロシア西部とベラルーシは「キエフ大公国」の勢力下にありました。民族の原点である他にも…。
家本教授:
「もう一つは宗教。正教というのは、もともとギリシャから伝わってきて。宗教的な面での原点でもウクライナはあるわけです」
■軍事的経済的に重要なウクライナ…ロシアにとって絶対許せない西側への接近
ウクライナはロシアにとって、“軍事的にも経済的にも重要な拠点”と、家本名誉教授はいいます。
家本教授:
「安全保障面ではウクライナが最前線にいつも立たされる。(ロシアにとって)ウクライナの人材、農業物資、鉱物資源はすべて不可欠なもの」
そこで、親ロシア派の候補を破って誕生したゼレンスキー大統領が進めるNATO加盟などの西側へ接近する動きは、ロシアにとっては絶対に許せないことです。
家本教授:
「(ロシアとウクライナは)兄弟ではありますが、兄弟間での争い、憎しみみたいな…。(ゼレンスキー大統領は)NATOやEUの加盟の問題をその都度取り上げて、世界に発信していました。これはモスクワ(ロシア)にとって許しがたい。ウクライナは絶対、常に身近においておかなければならないもの」
歴史的背景もあり、侵攻を続けるロシア軍。この戦いはいつ終わりを告げるのでしょうか。
キエフ在住の高垣典哉さん:
「キエフの人は、半分以上はいないんじゃないですか。もっといないかもしれない。街行ったらもうガラガラです」
多くの人がウクライナ国外に避難する中、高垣さんはなぜ避難しないのでしょうか。
高垣さん:
「日本の人に分かってもらえたら、現状が。戦争反対っていう働きかけをやってもらえたら嬉しいなと。これをやめさせないといけないんです。こういう暴挙を許していたら、次日本に来ますよ。もう対岸の火事で済ませられないと思います」
高垣さんはキエフに残り、日本に向けて現状を伝え続けています。
3月4日に、ロシア軍がウクライナ南部にあるザポリージャ原子力発電所を攻撃したことが伝えられました。ロシアの国営メディアは、この攻撃についてロシア国民に伝えていませんが、ロシア国内ではSNSで「プーチンは狂気の人になった」と騒ぎになっているということです。