ロシア軍による激しい攻撃を受けたウクライナ西部のリビウ近くの街に住む71歳の女性は、名古屋に住む娘を頼って単身避難してきました。しかし、この女性には男性の孫もいて、「国民総動員令」で18歳から60歳の男性の出国を禁止しているウクライナに、その孫を残してくるしかありませんでした。穏やかな時間を取り戻した女性は、日本で戦争が早く終わる事を願います。

■戦禍のウクライナから娘を頼り…名古屋に避難してきた71歳のウクライナ人女性

 続々と日本に避難してきているウクライナ人の数は、325人にのぼります(3月29日時点)。ウクライナ人のマリーア・サルクさん(71)は、名古屋に住む娘のスイトラーナさんを頼って避難してきました。

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娘のスイトラーナさん:
「(母が住んでいたのは)テルノーピリ、リビウに近いところ。近いからいつ爆弾を落とすかわからない」

テルノーピリ市のSNSでは、多くの支援物資と避難する人々の姿が。マリーアさんは、テルノーピリ市から単身日本に避難してきました。

 3月31日には、東京に住む孫のカロリーナさん(24)が、マリーアさんのもとを訪問。5年ぶりの再会です。

カロリーナさん(日本語訳):
「ウクライナはどうだった?」

マリーアさん(日本語訳):
「警報が鳴って、毎日そればっかり。怖かった、何が起きるかわからないから」

避難中も、戦禍の危機にあった現地と電話で連絡を取っていた2人。

カロリーナさん:
「とにかく、無事に(日本に)来られたことが一番うれしい。電話が途切れるたびに『どうしたんだろう』って、心臓がバクバクして。違う親戚から『ネットが途切れただけだから大丈夫』ってメッセージが来て、良かったみたいな…」

平和な日本で取り戻せた穏やかな時間。

■孫の男性はいまだウクライナ国内に…18歳から60歳の男性の出国を禁止したウクライナ

 しかし、祖国ウクライナの現状はひどくなるばかりです。

ゼレンスキー大統領(日本語訳):
「ロシア軍は人ではない。別の世界から来たとしか考えられない。物を燃やし、壊し、奪い、人を殺す、まるでモンスターのようだ」

戦禍を逃れ、ウクライナから続々と避難する人たちのほとんどは、「女性」と「子供」です。

マリーアさんは、ウクライナから一人で日本に避難してきましたが、カロリーナさんとは別の孫・ウラジスラフさん(24)をウクライナに残してきました。

マリーアさん(日本語訳):
「テルノーピリに娘と孫が残っています。(男性の)孫は海外に出られないから、娘は孫と一緒に留まるしかなかった」

カロリーナさん:
「違うところに住んでいるけど兄弟のような存在で、彼のことはとても心配しています」

ウクライナは「国民総動員令」で、現在18歳から60歳の男性の出国を全面的に禁止。順次、動員されています。家族と共に国外へ避難することは許されていません。今、孫のウラジスラフさんは…。

カロリーナさん:
「行きたくない人達が行くことにはまだなっていなくて、志願した人だけで留まっているので一安心ではあります」

しかし、ロシア軍の侵攻が長引けば、戦場に駆り出されることも…。

カロリーナさん:
「『国を守る』という任務はあるかもしれないけど、誰にも戦ってほしくない。ウクライナもロシアも、どちらにも若い人達がいて、戦って命を落とすべきではない」

マリーアさん(日本語訳):
「いつもウクライナのことを心配しています。神様に戦争が早く終わるようにお願いしています。多くの人が苦しみから解放されるように」

ウクライナでの平和な日常を奪われ、家族も引き裂かれたマリーアさん。

スイトラーナさん:
「たくさん人が死ぬのはプーチンのせい。おばあちゃんも毎日つらそう。毎日『国帰りたい』って言って、すごく寂しそう」

■ロシアで暮らす父はウクライナ侵攻を支持…「プロパガンダ」で崩れかかる“親子の絆”

 戦争反対派を“クズ野郎”、“裏切り者”、“ハエ”などと言い放つプーチン大統領。日本に住むロシア人はこの侵攻をどのように感じているのでしょうか。

コベッツさん:
「私プーチンが今やっていること大反対。戦争でロシア軍を行かせるっていうのは考えられません」

日本に来て14年の名古屋在住のロシア人・コベッツさんは、反プーチンの考えを持っています。コベッツさんは、ロシア北部のノリリスクで生まれ、今も両親と弟がロシアで生活しています。しかし、祖国にいる父親は、ウクライナ侵攻を支持しています。

コベッツさん:
「お父さんは『侵攻するしかなかった』と言っています。お母さんと弟は大反対」

プーチン大統領の支配下であるロシア国防省のSNSの映像には、民間人は狙っていないと印象付ける映像や、「Z」と書かれた軍用車の前で子供にお菓子を配るなど、ウクライナ国内で市民を支援する映像が流れています。

コベッツさん:
「お父さんはだいたいテレビの前。今のロシアのテレビはプロパガンダしかない。(父親は)昔から『プーチンは強いリーダーで、ロシアを強くした」と。(母は)ずっと昔からお父さんとぶつかり合って、もうそういう話をしないようにしている」

ロシアの「プロパガンダ」で崩れかかった“親子の絆”。

コベッツさん:
「(ロシアは)プロパガンダが強い。いっぱい人が亡くなっているところは、あまり見せてない。『私たちがウクライナに入らなかったら、ウクライナもすぐロシアに攻めてきた』とか、そんなことあり得ないじゃないですか…」

反対派の意見を封じ、強権をふるうプーチン大統領。しかし、多くの国民の支持があるのも事実。

コベッツさん:
「私たち一人一人の責任もあります。(国の考えを)少しずつ認めたから。戦争いつか終わって、ロシアを許してもらうために何をすればいいか。お金じゃ許してくれないし、国の一部としてはすごい申し訳ない」

 戦火のない空…。日本で桜の下を歩くマリーアさん。

マリーアさん(日本語訳):
「桜は信じられないくらい綺麗で、桜を見ていると今もウクライナでミサイルが飛んでいることが信じられない。もっと平和な時に家族と会いたかった」

カロリーナさん:
「全て収まって、本当の意味での平和な状態で一緒にお花見ができたらと思っています」

マリーアさんは、ウクライナの平和をここで待ち続けます。